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[関東大会予選]大会初失点で先制許すも、逆転勝利で東京制覇!絆で結ばれた実践学園がまず一冠:東京

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東京制覇を達成した実践学園高。試合後に笑顔があふれる

[5.5 関東高校大会東京都予選決勝 國學院久我山高 0-1 実践学園高]

「ウチは3点も4点も獲るチームじゃないので、とにかく失点をしなければ負けないというのは基本で、現時点でできることをやり切って優勝することができたので、自分たちのサッカーに自信が付いたんだと思います」。チームを率いる深町公一監督も一定の手応えを口にする。5試合で喫した失点はわずかに1。伝統の堅守、再び。5日、2021年度関東高校サッカー大会東京都予選決勝で、國學院久我山高実践学園高がタイトルを懸けて対峙。後半の2ゴールで逆転勝ちを収めた実践学園が、21年度の東京一冠目を手中に収めている。

 準決勝までの4試合で24得点を奪うなど、今シーズンも圧倒的な攻撃力を誇る國學院久我山と、対照的に初戦からの4試合でいまだに無失点と、堅い守備でファイナルまで勝ち上がってきた実践学園という、まさに都内屈指の“矛”と“楯”が向かい合う一戦は、意外な形でゴールが生まれる。

 前半10分。左サイドで國學院久我山が獲得したFK。スポットには左利きの左SB飯野広陽(3年)と右利きのFW小松譲治(3年)が立つと、飯野のキックフェイントから蹴ったのは小松。この一連でマークがずれ、後追いで飛び込んだDFに当たったボールは、そのままゴールネットへ。「ちょっとアレは最初の集中力が欠けていたので、もったいなかったですね」と深町監督。公式記録はオウンゴール。実践学園はとうとう今大会初失点を許す。

 追い掛ける展開の実践学園は、19分にスケール感漂うFW清水大輔(3年)が右サイドで粘ってシュートまで持ち込むも、國學院久我山のGK村田新直(3年)にキャッチされると、21分は國學院久我山に決定機。左サイドを単騎で抜け出した飯野のクロスに、FW高橋作和(2年)がフリーで飛び込むも、ボレーはヒットせずに思わず天を仰ぐ。

 國學院久我山はスタメン復帰した小松が、前線を幅広く動いてボールを引き出し、ここを基点に右の高橋、左のFW安田修都(3年)と両ウイングが仕掛ける伝統のサイドアタックが大きな狙い。そこに右SBの馬場翔大(1年)と左SBの飯野も絡んでいくことで、厚みのある攻撃が可能になる。

 24分は実践学園にセットプレーのチャンス。左からMF和田葵生(3年)がニアへ蹴り込むと、走ったキャプテンのCB土方飛人(3年)のヘディングは枠の左へ。25分は國學院久我山が安田、MF森次結哉(3年)と細かく繋ぎ、飯野のシュートは実践学園のGK齊藤陸(3年)がキャッチするも、久我山らしい流れるようなパスワークからフィニッシュまで。

 36分も國學院久我山。レフティのCB木下泰輝(3年)が縦に打ち込んだくさびを、小松は絶妙のフリック。安田が抜け出しかけると、ここは土方が体を投げ出すタックルで何とか回避したものの、前半は國學院久我山の攻撃性が目立つ格好で、40分間を終える。

 ハーフタイム。実践学園は監督の“檄”を受けたことで目が覚める。すると、まだ後半開始から1分も経たないタイミングで、右サイドを駆け上がったMF入江友規(3年)は、深い切り返しでマーカーを完全に剥がして中へ。MF村田拓己(3年)が右足を振り切ったシュートは、ゴールへ突き刺さる。村田は準決勝に続き、今日も大事な得点をゲット。「後半の入りで追い付いて、仕留めに掛かろうと話していた」(土方)実践学園が、スコアを振り出しに引き戻す。

 次の主役は「前半に自分のマークのミスで失点してしまって、取り返さなきゃいけないなという気持ちがあった」という右サイドバック。6分。自らドリブルで中央に切れ込んでいったDF長友星澄(3年)は、左SBの雨宮竜也(3年)にパスを付けると、「雨宮は中学校から同じチームで、折り返しが来ると信じて」そのまま中央にステイ。想定通りの折り返しを呼び込み、左足で振り抜いたボールは右スミのゴールネットへ転がり込む。

「そんなに左足に自信はなくて、コロコロだったんですけど、良いコースに入って良かったです」と笑った長友のゴールに、「左足を振り抜いた瞬間は『おお!来た!』と思いましたね。後ろからコースが見えたので」とキャプテンもやはり笑顔。2-1。実践学園が6分間で逆転してみせた。

 あっという間にビハインドを負った國學院久我山は、FW山脇舞斗(1年)やFW福山耕平(3年)を投入し、さらに強める攻撃姿勢。14分にはMF加藤圭裕(3年)のパスから、小松が狙ったシュートはわずかにゴール右へ。20分に左サイドを切り裂き、枠へ飛ばした安田のシュートは齊藤がファインセーブ。ゴールに鍵を掛ける。

 24分は実践学園のカウンター発動。中央をグングン運んだ和田が左へスルーパスを送り、FW笹原勘太郎(3年)の決定的なシュートは、村田が圧巻のビッグセーブ。準決勝でもPKストップでチームを救った守護神が、意地のプレーで1点差を死守する。

 最終盤の40+4分。國學院久我山の左CKには、村田もペナルティエリア内まで駆け上がって同点を狙うも、飯野のキックが右へ流れ、FW塩貝健人(2年)が上げたクロスを齊藤が丁寧にキャッチすると、しばらくして聞こえたタイムアップのホイッスル。「ウチはもう後半に絶対ペースが上がってくるのはわかっていたので、『開始5分、10分で行こうよ』と行ったあのタイミングで、ゴールを獲れたことが今日の勝利に繋がったんじゃないかなと思います」と深町監督。鮮やかな逆転勝利を収めた実践学園が、東京の覇権を粘り強く引き寄せた。

 優勝を勝ち獲ったメンバーたちの集合写真時。慣れない撮影に少し表情の硬かった選手たちへ「オマエら、笑うなよ」と内田尊久コーチが絶妙のタイミングで声を掛けると、その一言をきっかけに笑顔が一気にこぼれた。3年生たちの持つ明るさと、コーチングスタッフとの良い距離感も、この一連によく現れている。

「この子たちは1年時から全国で4つに入りたいなんて生意気なことを言っていましたけど、『だったらまず東京を獲れよ』と。そこは有言実行してくれたことで、関東1位のトーナメントでやれるので、そこでまた綻びが出るかもしれないですし、通用する所としない所を経験して、今後に生かしていくという意味では、一冠を獲ったというのは今後に繋がると思います。まだまだ子供みたいな連中なので、これからもうちょっと鍛えます」。深町監督も選手たちを称えつつ、既に次のステップへと目を向けていた。

 決勝ゴールを奪った長友は「2年の時にコロナになって、試合もなかなかできなくなった中で、練習からみんなで意見を出し合ったり話し合ったりして頑張ってきたので、3年生の絆はあると思います」とチームメイトへの信頼を隠さない。3年生だけで勝ち獲った堂々たる一冠目。武骨で、愚直で、まっすぐで。今年の実践学園は、間違いなく強い。

(取材・文 土屋雅史)

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