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『東京一応援されるチームになろう』。金星を逃した狛江の新たな挑戦は、この日から始まる

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狛江高の新たな挑戦はこの日から始まる

[5.9 インターハイ東京都予選一次トーナメント1回戦 堀越高 3-2(延長) 狛江高]

 2度も掴みかけた“金星”は、確かに彼らの手の中にあった。「もう作戦的には満点です。彼らも本当によく準備して、役割を本当にまっとうしてくれたと思いますし、途中から出た選手も活躍してくれましたし、『最後はこうやって点を獲るぞ』と言ったプラン通りに進んでいたので、だから、あとは運と言ってしまっては変なんですけど、運なのかもしれないですね」。長山拓郎監督も選手たちを称える。狛江高にとってこの100分間は、必ずや未来を切り拓くための大事な経験になる。

「試合前に対策もしていましたし、それがうまくハマったのかなという感じもありました」。キャプテンのCB伊木和也(3年)が話した通り、狛江の選手たちは昨年度の選手権で全国ベスト8に入った堀越高を相手に、押し込まれても落ち着いて、丁寧に守備を構築していった。

 サイドからの仕掛けにも、右ならSBの柴崎春薫(3年)とSHの笹川航海(3年)が、左ならSBの大鷲有哉(3年)とSHの染矢大地(3年)がうまく縦関係を作って、最後まで相手に付いていく。セカンドボールにはボランチのMF千葉秀智(2年)とMF河原雅輝(2年)がアラートに反応し、相手のビルドアップにも、前線からMF杉本迅(3年)とFW小村颯(3年)が懸命にプレス。狛江の交代が彼ら2人からだったのも、その献身的な守備と無関係ではないだろう。

 後半40分の先制点は、時間も形も完璧。CKから伊木の豪快なヘディングが、ゴールネットを揺らす。「自分が決めた時は『勝った』って思っちゃいました」というキャプテンは責められない。狛江の誰もがこれで勝負ありだと思ったことだろう。しかし、「アレがPKではないというジャッジもあると思う」と敵将も言及した、アンラッキーとも取れるPKを献上し、残り1分余りで同点に。延長後半2分には、MF小山柚季(3年)の諦めない姿勢から再び勝ち越しゴールを奪ったが、7分に追い付かれると、10+1分のラストプレーで逆転を許し、逆転負け。次のラウンドへの進出権は、するりと彼らの両手からこぼれ落ちていった。

「詰めが甘かったなと思います。ああいう所も普段の日常生活の行いが積み重なって出るものかなと考えているので、それがまだゲームに出ているメンバーだけじゃなくて、チーム全員に浸透できてなかったのかなと思います」と伊木は話したが、率直に言って、この試合の敗因を“詰めの甘さ”に求めるのは、あまりにも酷なことのように感じる。そう伝えると、伊木は「そう思ってずっとやってきているので、最後の最後で出るのはそういう所ですし、こういうゲームで勝ち切れないのは、そういうことなのかなと思います」と潔く、きっぱりと言い切った。

 狛江は18年度の関東大会予選で東京4強入り。今年の3年生はそのチームを見て入学してきた世代であり、「サッカーへのモチベーションが高くて、1年生の時から凄くまとまりもあります」と長山監督も言及する学年だ。ただ、都立高校ゆえに今の社会情勢の影響をモロに受ける格好に。「今日も勝てば明日部活ができるんですけど、たぶんここから彼らは緊急事態宣言が終わるまでは部活ができないんです。だから、そういう制約の中で、何とか勝てれば良かったんですけど、そういう厳しさもありますね。これはもうどのチームもそうだと思うんですけど、コロナ禍でなかなか鍛えられていないとか、経験できていないという所が、本当に心苦しいですよね」と指揮官も生徒の心情を慮る。

 チームを束ねる伊木も「全体で練習ができないということは、チームとしてどこに向かっていくのかが明確にならない状態の中で、去年はオンライントレーニングを週に5回は自分たちでやったりしていたんですけど、一番はチームで1年間通してサッカーをやりたいなというのはあります。でも、そこは仕方ないので、自分たちでできることに取り組んでいけたらいいかなと思います」と懸命に前を向いている。

 狛江には以前から掲げられているスローガンがある。『東京一応援されるチームになろう』。伊木は「今までそういうふうに考えて生活してこなかったので、チームのスローガンとしては良いのかなと思いました。地域のごみ拾い活動も普段からしているんですけど、まずは学校の先生や身近な人からの応援が一番大事だと思うので、そういう身近な人たちに対しての接し方だったり、普段の態度を意識してやっています」と言及。ただ漫然とサッカーをやるだけではなく、日常生活を大切にしていく姿勢は、普段からチームで共有していることでもある。

「1人1人自分を持っているヤツが多いですけど、何かをやる時にはしっかりやってくれますし、仲は良いので、団結力は例年以上に強いのかなと思います」と伊木も評する3年生の大半も、基本的に選手権までサッカーを続ける予定だという。この日の経験を生かす時間と機会は、まだまだ彼らにしっかりと残されている。

「今日は本当に頑張ってくれましたけど、まだ堀越さんのようなチームと差があるとしたら、これを毎日のスタンダードにできるかとか、同じモチベーションでできるかとか、これを連戦でもできるのかとか、練習の中からできるのかとか、そういった所を突き詰めないといけないのかなという気もします。でも、本当に少しずつ選手も良くなってきているし、できることも増えてきているので、『都立でもやり合えるんだ』という所に自信を持たせて、次のステージに行かせたいなとは思っていますね」。長山監督は晴れやかな顔で、最後にこう語ってくれた。

 十分過ぎるほど、善戦はできた。次はその先の勝利をどう掴み取るか。それはきっと彼らの日常に懸かっている。東京一応援されるチームへ。狛江の本当の意味での挑戦は、この日から幕を開けるのかもしれない。

(取材・文 土屋雅史)
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