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守護神の躍動にチームメイトも呼応。とにかく楽しむ大成はPK戦で関東一を撃破!:東京

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大成高はPK戦で勝利を収め、みんなで歓喜を分かち合う

[5.30 インターハイ東京都予選二次トーナメント2回戦 大成高 0-0 PK4-2 関東一高]

 4人目のキッカーとしてPKを成功させたDF渡邊広大(3年)と、相手の2人目のキックをストップした守護神のGKバーンズ・アントン(3年)を中心に、青いユニフォームが歓喜の輪を作る。「やっぱり『嫌だな』って思って恐る恐るボールを蹴るのと、楽しんで蹴ってくるのでは全然違うから、『とにかく思い切って蹴って来い』と。『とにかく楽しんで来い』という話はしたので、全然心配していなかったです」と話す豊島裕介監督の笑顔も眩しい。30日、インターハイ東京都予選二次トーナメント2回戦、大成高関東一高という20年度の選手権予選でファイナリストとなった両者の激突は、PK戦の末に大成が次のラウンドへ駒を進めている。

 最初の決定機は前半15分の関東一。バイタルエリアで前を向いたFW本間凜(2年)のスルーパスに、MF林尚樹(3年)がフリーで抜け出し、1対1の局面を迎えるも、ここは「キックフェイントに1回引っ掛かっちゃったんですけど、何とか持ちこたえて止めました」と振り返る、FC町田ゼルビアの入団が内定している大成のGKバーンズがビッグセーブで凌ぐ。

 以降も展開は一進一退。左サイドハーフのMF中村浩太(2年)とFW原輝斗(3年)にボールを収め、素早い切り替えから相手ゴールを目指す大成も、右サイドバックのDF堀井榛人(3年)、ドイスボランチのMF藤井日向(3年)とMF肥田野蓮治(3年)が起点を作り、ボールを動かしたい関東一も、お互いに大きなチャンスは作れないまま、にらみ合いの40分間は0-0で推移した。

 ハーフタイムを挟むと、後半6分のチャンスは大成。低い位置からCBの渡辺誠史(2年)が蹴り込んだFKに、キャプテンのMF高山築(3年)が合わせたヘディングは、左のゴールポストを直撃。「1個仕留めたら絶対に勝てるということは言っていました」とは豊島監督だが、先制点には至らない。

 8分は関東一。本間のパスから、MF日下空(3年)が枠へ収めたシュートは、バーンズがファインセーブ。13分も関東一。FW杉山諄(2年)が右へ流し、肥田野が狙ったシュートは枠の左へ。34分も関東一。FW若松歩(3年)の右CKがこぼれ、藤井のパスを受けたFW坂井航太(3年)のシュートは、ここもバーンズが仁王立ち。ピンチを凌ぐ。

 大成に訪れた勝敗を決する絶好機は、アディショナルタイムに差し掛かっていた40+1分。左サイドで原が丁寧なスルーパスを通し、中村は左足で完璧なクロス。飛び込んだFW田中ハーディー啓秀(3年)も完璧なヘディングで叩いたように見えたが、ボールはわずかに枠の上へ。これには指揮官も「あそこでヘディングを決めていたら気持ち良かったんですけどね」と苦笑い。80分間を終えて決着付かず。試合は10分ハーフの延長戦へ突入する。

 延長前半10+2分。関東一に決定的なチャンス。本間の丁寧なパスから、坂井が独走してシュートまで持ち込むも、バーンズは最高の間合いで飛び出し、「やっぱり凄く感情が入っちゃいましたね。鳥肌が立ちました」という自らのファインセーブに雄叫びを上げる。

 延長後半は大成にもチャンス。1分にこぼれを拾った高山が、左足ミドルを敢行するもゴール右へ逸れ、5分に中村が蹴った左CKに、渡辺誠史が頭で食らい付くも、ボールはそのままファーへ。7分にまたも中村が放り込んだ右CKはシュートに繋がらず、程なくしてタイムアップのホイッスル。準々決勝へ進むための1枚の切符は、PK戦での勝敗に委ねられる。

 ともに1人目のキッカーは成功。先攻の関東一2人目。赤いユニフォームの守護神が吠える。「今日は勝つなと思って、絶対的な自信がありましたし、タイミングもバッチリだったので、狙い通りでした」。バーンズが力強くストップ。チームメイトも吠える。

 関東一は4人目のキックも右のポストを叩く。後攻の大成4人目は左サイドバックで100分間奮闘した渡邊広大。深呼吸してから蹴り込んだ軌道は、右。GKは、左。「カンイチさんは上手いですし、全国も経験していて、経験値では絶対に敵わないけれども、ウチも積み上げてきたモノに自信を持ち始めていたので、正直、1試合を通してゲームプラン通りだったと思います」と豊島監督。PK戦を4-2で制した大成が、準々決勝へと勝ち上がる結果となった。

 大成のベンチは、ハッキリ言ってうるさい。だが、それは嫌なうるささではない。1人1人が目の前の状況を楽しみ、ピッチの選手たちを盛り上げようとする気概は、痛いほどよく伝わってくる。2年生でスタメンを任されている中村も、「ふざけているとかじゃないんですけど、良い盛り上がりみたいな感じで、最高です!」とチームメイトへの感謝を口にする。

 延長戦が始まる前。PK戦が始まる前。大成のベンチ前には、常に楽しそうな空気が漂い、笑顔の花が咲いていた。それだけで勝利を引き寄せられるほど、サッカーは甘いスポーツではないが、その雰囲気が相手を飲み込んでいくことも確か。「そういう雰囲気を創り上げるのが僕の仕事だと思っているので」と言い切る豊島監督も含めて、チームの一体感は抜群だ。

準々決勝の相手は帝京高に決まっている。東京都内の高体連では、唯一プリンスリーグ関東に参戦しているチームであり、チームスタッフの豊島監督、日野寛コーチ、ノグチピントエリキソンGKコーチ、藤倉寛顧問にとっては母校との対峙。試合後のミーティングで豊島監督は「僕の母校との試合です!」と選手たちに笑いながら話していたが、とにかく様々な因縁も渦巻く大事な一戦だ。

「帝京さんは東京都の中で、ずば抜けていると思うんですよね。ただ、1つ言えるのは一発勝負だということ。彼らはどれだけ上手くても一発勝負は初めてなので、叩くならウチだなと。この2週間で良い準備をしますよ。ウチが2大会連続でインターハイに行ける可能性は十分あると、僕は思っています」と豊島監督。とにかく楽しむ大成は、どこのチームにとっても厄介なポジティブオーラを纏っている。

(取材・文 土屋雅史)
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