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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:SWEET 22 MEMORIES(水橋高)

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東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 PKで奪った先制点も、延長で許した決勝点も、試合後にピッチから立ち上がれなかったアイツらの姿も、最高の思い出としてみんなで笑いながら振り返れる日が、きっと来る。だって、あんなにも22人全員が、それぞれの立場で、それぞれの場所で、勝利という1つの目標に向かって、全力で戦うことができるのだから。「今年は水橋高校としても最後の年ですし、個人としても高校サッカーの締めくくりでもあるので、特別な年だなと感じていますし、僕たちは22人という少ない人数なので、1人1人の絆は凄く深いものだなと思います」。キャプテンの松波壮飛は、静かな口調で噛み締めるように言葉を紡ぐ。高校としても、3年生にとっても、正真正銘の最後の1年。水橋高サッカー部の22人は、残された日々と真摯に向き合い続けている。

 村椿侑哉が奇声に近い大声を張り上げ、それにつられてチームメイトたちにも笑顔がこぼれる。ウォーミングアップの時点で伝わってくる、グループの仲の良さと一体感。6月6日。インターハイ富山県予選決勝。4度目の全国大会出場を狙う水橋は、高岡一高との決戦を迎えていた。

 彼らにとってこのインターハイ予選は、ただの1つの大会という位置づけではない。水橋高は富山県内の県立高校の再編・統合に伴い、2022年3月での廃校が決定しており、今年が同校にとっては最後の1年。既に富山北部高との統合が進んでいるため、水橋の学び舎に通っているのは3年生だけであり、それはサッカー部も例外ではない。

「1年生から2年生に上がっていく状況で、3年生たちが卒業して、人数がどんどん減っていって、寂しい気持ちもありましたけど、自分たちが3年生になって、改めて22人だということを実感しました」。キャプテンを務める松波が語った通り、現在のサッカー部員は22人の3年生のみ。日々の雑用をこなしてくれる、試合の日にスタンドから応援してくれるような後輩は、1人もいない。

 だが、ゆえにチーム間のコミュニケーションは抜群だ。「みんなとは学校でも結構喋りますね。授業が終わったらすぐに集まる感じですし、練習後に『このプレーどうだった?』とか言い合って、喋ったりする時間が自分の中では楽しいです。人数が少ないので、1人1人と喋る機会も増えました」(松波)。グラウンドの内外で共有する時間の大切さを、より実感しながら、毎日を過ごしている。

「本当にマジメな子たちというか、僕たちスタッフの話とか、学校でも先生方の話をよく聞いていて、何を期待されているかとか、どういう気持ちで周りの人がいるかという気遣いができる子たちですし、そういった部分を察知できる子たちなんです」と22人に優しい眼差しを向けるのは、サッカー部を率いる上田裕次監督。自身も水橋の出身であり、水橋高のOBでもある。

「僕自身が水橋の生まれで、小さい時に水橋高校のグラウンドで、水橋地域の小中学生、高校生、社会人の人たちが一堂に会してサッカーをする姿をずっと見てきて、水橋高校のユニフォームに憧れて、入学しました」。高校1年時には県予選を制した高校選手権で、全国大会の登録メンバーに入ったものの、試合出場はなし。卒業後は富山大に進学し、同大学院を経て、高校教諭に。2013年に母校へ赴任すると、この9年の間にインターハイ、選手権と1度ずつチームを全国の舞台へ導いている。

「今の水橋高校の校舎も、地域の小中一貫校になると聞いていて、僕の地元の小中高がすべてなくなるというか、統合という形になって、凄く寂しい想いはあります。だからこそ、やっぱりこの水橋という名前で戦える、サッカーができる時間が本当に今年は愛おしいというか、ずっと続いてほしいなって。ふとした時に『ああ、なんでなくなるんだろうな』って思うんですけど、今はそれよりもこの一瞬一瞬を大切にしたい気持ちが強いですね」(上田監督)。

 水橋高サッカー部にとっては、これが“最後のインターハイ予選”。2回戦から登場し、1試合1試合丁寧に勝ち上がると、準決勝では龍谷富山高との激闘を、延長後半の決勝ゴールで1-0と制し、ファイナル進出。「この大会を戦ってくる中で、途中でケガをした選手もいながら、本当に限られたこの22人の戦力の中で戦い切って、勝ち上がってきました」と上田監督。2015年以来、5大会ぶりとなる全国切符に王手を懸けた。

 キックオフ前にはいくつかの“ハプニング”もあった。ロッカールームの通路を顧問の先生が「緊張して鼻血を出したヤツがいて(笑)」と走っていけば、両チームのラインアップの直前に、コンタクトレンズを忘れてベンチ裏へ慌てて取りに行く選手も。ふと見れば、選手たちもみんな笑顔。意外なリラックス効果も得て、“11人”の想いを託された“11人”が、決勝のフィールドへ足を踏み入れる。

 前半13分。果敢にペナルティエリア内に侵入したFWの奥田敦士が相手GKとの接触で倒れると、ホイッスルを鳴らした主審はPKを指示。絶好の先制機が訪れる。キッカーは奥田。右スミを狙ったキックがゴールネットを揺らし、ピッチもベンチも黄色の歓喜が爆発する。

 だが、以降は耐える時間の長い展開に。「先制点を奪って、自分たちのゲームプランとしては狙い通りになる部分と、ちょっとリードした時間も早かったので、その後に耐える時間が長くなってしまうと、『どうしても苦しいな』というのはあったと思います」とは指揮官だが、最終ラインに並んだ檜谷匠、長谷川敬桂、村椿、竹野颯人の4バックを中心に、高岡一の攻撃を1つずつ凌いでいく。

 後半22分。そこまでよく我慢していた守備陣が、とうとう決壊する。CKの流れから左右に振られ、相手のヘディングがゴールネットを揺らす。1-1。スコアは振り出しに引き戻された。それでも、そう簡単に折れる訳にはいかない。「『まだまだ行けるぞ、同点だぞ』と。『もう1点獲れば勝ち越しだ』ということをピッチ内で喋っていました」と松波。アップエリアからも、ピッチを見つめるベンチメンバーの熱い檄が飛ぶ。

 35+1分。高岡一の決定的なチャンスに、GKの草野晃志は果敢に飛び出し、ボールを死守する。実は草野がGKを始めたのは高校に入ってから。「学年にキーパーが1人しかいなかったので、最後は自分からやると言ってくれました。アイツがキーパーをやってくれたことには僕自身もチームも凄く感謝していますし、ありがたいという想いが強いですね」(松波)。仲間の想いも背負った守護神のファインセーブに、再びチームの士気が上がる。

 所定の70分間では決着が付かず。試合は前日の準決勝に続いて、延長戦へともつれ込む。この時点でシュート数は1対13。水橋が流れの中から放ったシュートは1本もなかったが、
11人全員が有機的に動き、勇敢にボールへと、相手へと立ち向かうスタイルは、間違いなく見ている者の感情を揺さぶる何かがあった。

「本当に年々、僕自身が思い描いているようなサッカーができるようになってきたこと以上に、応援してもらえるチームになってきていて、今年のチームは特に応援したくなるような取り組みをしてくれているんです。サッカーの内容も、本当にエリートみたいなスーパーな選手がいる訳でもないですし、みんなで一丸となってサッカーをしていることが感じられるので、もっと綺麗なサッカーもあるかもしれないですけど、こういうサッカーも本当に魅力的なんだなと、指導者としても学ばせていただいています」(上田監督)。

 気持ちを奮い立たせ、残された20分間のフィールドへ走り出す。

 延長前半7分。高岡一が逆転ゴールを挙げる。1-2。とうとうリードを許す。その時、アップエリアにいたベンチメンバーから、ピッチの“11人”の仲間へ声が飛んだ。「この時間を楽しめよ!」。勝っても、負けても、彼らにとって、水橋高にとって、この試合は“最後のインターハイ予選”だ。入学してから2年半の、あるいはサッカーボールを蹴り始めてからの、まさに集大成。この時間の意味を、この状況で伝えられる選手がいることに、彼らの積み重ねてきた時間の偉大さを感じずにはいられない。

 時計の針は、冷酷に1秒1秒を刻んでいく。残された時間がどんどん少なくなっていく。アップエリアでそれまで体を動かしていたGKの浦田知優はその場に座り込み、両手を合わせて、祈るように仲間の姿を見つめている。

 延長後半のアディショナルタイム。高岡一に訪れたビッグチャンス。至近距離から放たれた強烈なシュートを、草野は執念のセーブで弾き出す。守護神が必死に繋ぎ止めた勝利への可能性。しかし、その数十秒後にタイムアップのホイッスルが、よく晴れた青空へと吸い込まれていく。「シンプルに凄く悔しかったです」(松波)。22人の想いは、届かなかった。

 その場に突っ伏した竹野が、起き上がれない。檜谷が、松波が、上田監督が、長谷川太一コーチが、相手のキャプテンが次々と駆け寄り、ようやく立ち上がる。整列と挨拶を終えると、今度は草野が芝生に倒れ込む。カメラ越しに見ていても、号泣している様子が見て取れる。

 すると、ファインダーに草野と同じ緑のユニフォームを纏った選手が飛び込んでくる。それは、笑顔の浦田だった。ほんの数分前まで、泣き出しそうな顔でピッチを見つめていた浦田が、笑顔で草野を抱き起こし、肩を支えながら、ベンチへ戻ってくる。22人の中で、たった2人だけのゴールキーパーが共有する想いが、敗れたばかりのグラウンドで交差する。目の前の試合に出場することの叶わなかった浦田の振る舞いに、このチームが持つ本当の意味での強さが滲んだ。


 タイムアップから1時間近くが経った頃。上田監督は穏やかに、試合を振り返っていく。「追い付かれた時に、ああいう姿を見たかったというか、逆境にも強い姿を見られたのが、1つの収穫だったと思いますし、そういう選手たちを勝ちに結び付けられるように、僕はもっと成長しないといけないですし、彼らにもっと上のステージを経験させてあげたいなと。『負けて学ぶものがある』とかってよく言われるんですけど、『やっぱり勝たないとダメだな』と改めて思いました」。

「だからこそ、他の凄く部員を抱える大所帯のチームだったり、そういう強豪校に負けないように、今のこの22人の1人1人が本当に特別な存在となって、1人1人の力を大きくして、傍目から見て『強いチームだな』『本当に良いチームだな』って思ってもらえるように、まずは1人1人をもう1回鍛え上げるつもりでやっていきたいと思います。これだけ特別なタイミングなので、彼らがそういった部分を意気に感じて、男として成長してくれることを期待していますし、僕自身は3年生の担任もさせていただいているので、教師としても彼らの人生にどれだけ寄り添っていけるかという所と、水橋高校の中で彼らが今までの伝統や歴史を感じながら、『水橋高生で良かったな』と思ってもらえるように、僕自身も仕事をしていきたいなと思います」。

 ソフトな口調が少しだけ変化したのは、ある質問をぶつけた時だ。「相当悔しかったですよね」。あえて聞いた一言に、上田監督の声がワントーン低くなった。「悔しいですね。今までの大会以上に悔しいですし、彼ら自身に対する言葉掛けとして、『どんな状況でも全力でプレーしろ』と。それができていない時は、本当に僕自身も感情を出して彼らに伝えてきた所があるので、この大会は言わなくても彼らが実践してくれていたことを考えると、やっぱり結果に結び付けられるように自分ができなきゃいけなかったなと。次に向けて、絶対やります」。

『絶対やります』と言い切った言葉に、揺るがぬ強い決意が浮かび上がる。この夏の過酷な日々を、22人は覚悟しておいた方が良さそうだ。

 中学生時代は水橋FCでプレーし、水橋地域との関わりも6年目を迎える松波は、残された高校生活について、最後に想いをこう語ってくれた。「本当に1つ1つの試合が、自分たちにとってはカウントダウンですし、1つ1つの練習も大切な時間だなということも、凄く感じています。今年は高校最後ということで、忘れられない時間になると思うので、1回1回本当に出し切りたいですし、自分たちにできることをやり切りたいなと思います」。

 高校3年生という時期は、どんな人にとっても特別な時間だ。ただ、きっとそれが持つ本当の意味は、その時が過ぎ去ってから、より痛感することになる。それゆえに、瞬間瞬間を全力で生きることが、後から振り返った時に、忘れがたい記憶の輪郭を一層鮮やかに彩ってくれることも、大人になってみればわかってきたように思う。

 水橋高サッカー部の22人は、もう二度と帰ってこない高校3年生を、多くの人の想いとともに生きている。彼らを見れば、もうかけがえのない仲間を手に入れていることは、十分にわかった。「今年は水橋高校としても最後の年ですし、個人としても高校サッカーの締めくくりでもあるので、特別な年だなと感じていますし、僕たちは22人という少ない人数なので、1人1人の絆は凄く深いものだなと思います」。松波の言葉が、改めて心に響く。

 3年生にとっても、水橋高自体にとっても、全国大会出場という成果を勝ち獲ることが、何にも勝る最高のエンディングであることは言うまでもない。「形として、誰もがこれで全国に出たら、ということを今回も思い描いたはずですし、自分たちもそういうことを夢見て日々やっていますけど、水橋高校だったから、これだけ夢を見させてもらっていると思っています」と上田監督は口にしたが、『夢は必ず叶う訳ではない』ということも、彼らはとっくに理解している。

 だからこそ、願いたい。これから半年近く残されている彼らの高校生活に、最高の仲間と振り返ることのできる思い出が、あの日の決勝のように1つでも多く増えていくことを。10年後に笑って振り返ることのできる思い出が、日々の暮らしの中に散りばめられていくことを。


■執筆者紹介:
土屋雅史
「群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。株式会社ジェイ・スポーツ入社後は番組ディレクターや中継プロデューサーを務める。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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