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完璧な連携で奪い切った先制弾に滲む進化の跡。堀越は04年以来の全国へ狙いを定める

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1年生FW高谷遼太のループシュートが決まり、堀越高が点差を広げる

[6.13 インターハイ東京都予選準々決勝 堀越高 2-0 成立学園高]

 スコア以上に苦しい試合だったことは間違いない。とりわけ前半は明らかに相手の方が攻勢に出ていたことも、事実だろう。だが、終わってみればきっちり次のラウンドへと駒を進めている。「こういうゲームをモノにできるということは、去年日野たちが作ってくれたものは、ちゃんと受け継がれているのかなと。相手がどうこうというよりも、『オレたちがどうしたいか、どうするかでしょ』ってことはずっと言っていますね」(佐藤実監督)。13日、インターハイ東京都予選二次トーナメント準々決勝、堀越高成立学園高が激突した好カードは、2-0で堀越が勝利を手にし、準決勝へと勝ち上がった。

 成立学園の出足が鋭い。前半8分。右サイドからMF大崎日向(3年)がグラウンダーのクロスを蹴り込み、FW吉長由翔(3年)がフリーで叩いたシュートは枠の上へ外れるも、いきなり決定機を創出すると、直後にも相手ボールをカットしたMF柏田凌佑(2年)が、そのまま枠内シュート。ここは堀越のGK菅野颯人(3年)がキャッチしたものの、13分にもMF斎木大和(3年)のパスから、大崎がクロスバーを越えるフィニッシュまで。先制点への意欲を前面に押し出す。

「成立さんが上手く立ち位置を取って、バランスも良くて、狙いもハッキリしていて、自分たちがやりたいようにはできていなかった印象でした」とキャプテンのMF宇田川瑛琉(3年)も振り返った堀越は、なかなか攻守にハッキリしたプレーが選択できない展開に。「相手に押される中で、『僕らのやりたいことをまだやりましょう』みたいな雰囲気があったので、やれることとやるべきことを時間帯ではっきり分けないといけないですよね」とは佐藤監督。難しい時間が続く。

 それでも、スコアを先に動かしたのは堀越。40+2分。中央で時間を生み出したMF山口輝星(3年)が右へ付けたパスから、MF古澤希竜(3年)は完璧なタイミングでグラウンダーのクロス。ここへ逆サイドから走り込んできたMF中村ルイジ(3年)が、難なくボールをゴールへ流し込む。

「外からポケットに入って、流して、外側からクロスというのは今年に入ってトレーニングからずっと共有している部分があるので、あの形があまりああいうふうに綺麗に入ることはないんですけど、なんかこのタイミングでしっかり綺麗に、落ち着いて入ったのは、まさに“1本中の1本”だったのかなと」(佐藤監督)。最高の形で先制点を挙げた堀越がリードを奪い、最初の40分間は終了した。

 後半の主役は1年生ストライカーが担う。前半は思ったようなパフォーマンスを発揮できず、「どうにかゴールを決めないととか、そういう気持ちもありましたけど、とりあえず前で身体を張ることを意識して、後半に挑みました」というFW高谷遼太(1年)は、8分に宇田川瑛琉からのラストパスに抜け出し、決定的なシュート。成立学園のGK西大輔(3年)がファインセーブで阻み、得点には至らなかったが、感覚の一端を披露すると、5分後に大物ぶりを見せ付ける。

 13分。山口がディフェンスラインの裏へ出したパスに反応した高谷は、GKの位置を確認すると、ループシュートを選択。ふわりと上空を舞ったボールは、ゆっくりとゴールネットへ弾み込む。「昨日の代表戦で上田綺世選手がループシュートを決めていて、それを何回も見ていたので、その光景がよぎって、それでループをしようと思って蹴ったら、上手く決まりました」。完璧なゴールを1年生が叩き出し、堀越のリードは2点に変わる。

 決してリズムは悪くない中で、追いかける展開を強いられた成立学園。17分には斎木の左CKに、大崎が合わせたヘディングは枠の右へ逸れ、日大三高戦で挙げたゴールの再現とはならず。24分にはDF丸山寿潤(3年)の右ロングスローから、絶対的な高さを誇るDF佐藤由空(2年)のヘディングはゴールネットを揺らすも、オフェンスファウルの判定でノーゴール。点差を詰められない。

 逆に終盤の苦しい時間帯にも、3バックの中央に入ったDF渡部美紗哉(3年)を中心に、交代カードも使いながら、きっちりゲームクローズに取り掛かっていく堀越の守備陣は、最後まで集中を切らさず、クリーンシートを達成。「苦しい時間帯が続いた試合でしたし、全体としてはまだまだ課題は多く残った試合でしたけど、最後の最後で決め切る場所で決め切れたのは良かったと思います」と宇田川瑛琉。終わってみれば勝負強さを発揮した堀越が、全国出場へ王手を懸ける結果となった。

 山口、古澤、中村と昨年からレギュラーを務めてきた3人が有機的に絡み、見事に挙げた先制点に、今年の堀越の強さが鮮やかに現れたことは間違いない。「アレは自分たちが形にしてやっていることが練習のまま出たので、良かったなと思いました」と宇田川瑛琉は語ったが、それ以上の価値がある1点だった。佐藤監督はそのゴールの意味を、過不足なく口にする。

「狛江高校さんもそうでしたし、他のチームもあの形を一番させたくないという所で、ほぼほぼアレは出せないんですよ。結局選手権はノーマークでやっていたので、ほとんどオープンにできましたけど、今年はほとんどクローズされている中で、その中でも自分たちの悪い流れでもあの形で獲れたというのは、良かったのかなと。選手にも話しましたけど、『やっぱり練習は裏切らないよね』って。練習から『こんなこと、ゲームで起こらないだろ』って曖昧なことをやっていると絶対に入らないので、そこで練習からちゃんと信念を持ちながらやり切れたというのは、1つの成長かなと思います」。

 たとえばボールを繋ぐチームが、実際にボールを繋ぎ倒してゴールを奪うことも、コンビネーションに定評のあるチームが、流れるようなコンビネーションの中からゴールを奪うことも、試合で起きることはごくごく稀だと言っていいだろう。それでも、試合のリアリティを練習から意識して、積み重ねた成果が、この大事なゲームで出てしまうあたりに、今の堀越のチーム力が凝縮されていた。

 準決勝の相手は帝京高。プリンスリーグ関東で揉まれ、個々のタレントを見ても都内屈指の陣容。好ゲームは約束されている。「今自分たちにある課題を来週の土曜日までに突き詰めることが最優先で、そこから勝つために必要な要素をどんどんプラスできれば、あとは自分たちが持っているモノを最大限に生かすだけだと思います」と宇田川瑛琉。16大会ぶりとなる夏の全国へ。堀越の自分たちに向けたベクトルの爆発が、とにかく楽しみだ。

(取材・文 土屋雅史)
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