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[MOM3500]帝京MF福地亮介(3年)_サッカーノートは“予言の書”。指揮官と分かち合った決勝ゴールの歓喜

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決勝ゴールを挙げたMF福地亮介(23番)は“日比先生”と歓喜の抱擁

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[6.19 インターハイ東京都予選準決勝 帝京高 3-2(延長) 堀越高]

 それは自ら綴った”予言の書”だったのかもしれない。「自分はサッカーノートを書いているんですけど、それにまったく同じ形のことを書いていたんですよ。『最後に自分が点を獲って、みんなを全国に連れていって、日比先生の所に走っていく』って。それと同じことができたので良かったです」。帝京高を全国大会へと導いたMF福地亮介(3年=鹿島アントラーズノルテJY出身)。彼が紡いだ言葉の力が、劇的な決勝ゴールを呼び寄せた。

 堀越高相手に2点のビハインドを負った後半10分。帝京の登録メンバーの中で、一番大きな23番を付けた選手がピッチへ送り込まれる。準々決勝はメンバー外だった福地が、この重要な局面で交代カードとして切られた訳だが、この出場にこぎつけるまでには紆余曲折があった。

 先週のこと。トップチームのトレーニングを、福地はその輪の外から眺めていた。「学校の方でいろいろと問題があったんですけど、それにちょっと関わってしまって……」。学校でもクラスの担任を務めている日比威監督に練習参加を許されず、「チームの仕事をやりながら、ずっとランニングしていました」と振り返る時間を過ごすことになる。

 ようやくトレーニングに“完全復帰”したのは、ここ1週間だという。ただ、その雰囲気で準決勝のメンバー入りへの希望を感じ取っていた。「自分の中でも『ここまで頑張ってきたのに』という想いはあったんですけど、どちらかと言うとそれよりはチームに迷惑を掛けてしまったということと、何より日比先生に一番迷惑を掛けたので、試合に出させてもらったら、どうにかして結果を残そうと思っていました」。準決勝のメンバー表。福地の名前はサブメンバーの中に書き込まれていた。

 準決勝を控えたタイミングで、福地はサッカーノートに意気込みのような、目標のようなイメージを書き連ねる。『最後に自分が点を獲って、みんなを全国に連れていって、日比先生の所に走っていく』。自分のメンバー入りに、複雑な想いを持つ選手もいることだろう。そういう仲間の信用を取り戻すには、はっきりとした結果を残すしかない。後半10分。ベンチから名前を呼ばれ、覚悟を決めて、フィールドへと駆け出していく。

 後半アディショナルタイムのラストプレーで、DF荻野海生のゴールが飛び出し、劇的に追い付いた帝京。そして、延長後半5分。その時はやってきた。FW齊藤慈斗(2年)がきっちり繋ぐと、福地の頭の中に辿るべきコースが明確に浮かぶ。「去年から一緒にやっていた齊籐慈斗からラストパスが来たので、前を向いて、後はカーブで流し込むだけという形でした」。自ら蹴り込んだボールがゴールネットへ到達したのを確認すると、一目散にベンチへと走り出す。

「頭の中は真っ白でした。メチャメチャ嬉しかったです。日比先生に感謝の気持ちを伝えに行こうと思って、それで先生の所に行って、『本当にありがとうございます』ということを伝えて、喜びを分かち合いました」。少し経って、気付く。サッカーノートに書いていたことと、現実が恐ろしいまでにリンクしていることを。そして、そのゴールは決勝点に。『最後に自分が点を獲って、みんなを全国に連れていって、日比先生の所に走っていく』。目標は、鮮やかにコンプリートされた。

 帝京のユニフォームを纏うことの意味は、十分に理解している。「“星の数”ということは良く言われるんですけど、1年生の時から『10個目の星を自分たちの代で付けにいく』というのは、ずっと言っていたことなので、なかなか自分たちの代は試合に使われることが少なかったですし、今もそんなに多くはないんですけど、そういう試合に出ていない3年生の仲間の気持ちも背負っているので、その重みはユニフォームに乗っかっていると思います」。
 
 一度は失った信用と信頼を取り戻すための、ファーストステップはクリアした。あとは、ここからの自分次第。福地は全国の舞台でも、大切な仲間と“日比先生”の想いを背負って、自分にできることを愚直に貫き通す。

(取材・文 土屋雅史)
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