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3年生の想いを背負った守護神。帝京GK岸本悠将が念じ続けた「アイツらのために」

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帝京高のゲームキャプテンを務める守護神、GK岸本悠将

[6.19 インターハイ東京都予選準決勝 帝京高 3-2(延長) 堀越高]

「最後の2,3分はメチャメチャ長く感じました。でも、本当にみんなで声を掛け合ってやれましたし、今日は3年生も少ない中で、ここに来れていないヤツらの顔が浮かんで、アイツらのためにもと思ってやっていたので、結果で多少は恩返しできたかなと思います」。タイムアップの瞬間、帝京高の守護神を務めるGK岸本悠将(3年=鹿島アントラーズつくばJY出身)の脳裏には、ここに来ることの叶わなかった3年生の笑顔が、次から次へと浮かんでいた。

 全国出場を懸けて臨んだ堀越高との準決勝。「キャプテン(松井領)はメンバー外になっていた中で、自分は副キャプテンですけど、やっぱり先頭で入場しているので、弱い背中は見せられないなと思っています」。チームの先頭を切って、戦いのフィールドへ歩みを進めていく。

 前半40+1分。左から入ってきたクロスを弾き出すも、相手に詰められて先制点を献上してしまう。「準備不足ですね。自分のせいでしたし、うまく対応できなかったと思います。でも、みんなが円陣で声を掛けてくれたので、『もうやるしかないかな』と思って切り替えました」。

 後半も開始早々の5分に失点し、2点を追い掛ける展開になったが、チームメイトを見た岸本は、まだまだやれることを実感していた。「2点目を決められたんですけど、それでもみんな死んでいなかったというか、ゴールを獲りに行く姿勢が見えたんです」。14分に1点を返すと、後半アディショナルタイムのラストプレーで、入学からの2年間は一緒の練習に励んできた“元GK”のDF荻野海生(3年)が奇跡的な同点ゴールを叩き出す。

「本当に感謝しかないですね。頼もしいヤツです。去年はGKで荻野が出ていて、『アイツには勝てないかな」と思っていたんですけど、自分がプリンスリーグでチャンスをもらった時に良いパフォーマンスができて、そこから試合に出させてもらっている形でした。荻野も結構熱くなるヤツで、試合中もケンカになりそうなこともたまにありますけど(笑)、やっぱり跳ね返してくれるので、信頼していますね』。

 延長後半に入り、5分にMF福地亮介(3年)が勝ち越しゴールを奪い、とうとう3-2と逆転すると、最後の最後で岸本に見せ場がやってくる。10+1分。堀越がゴール前で掴んだFKのチャンス。MF山口輝星(3年)が蹴ったキックは、枠を捉える。「そこまで自分のパフォーマンスが良くなかったので、『これは止めるしかないな』と」。横っ飛びでボールを弾き出し、窮地を脱出。その数十秒後に勝利を告げるホイッスルを耳にして、しばらくピッチに突っ伏しながら、全国切符を獲得した喜びを噛み締めた。

 この日の相手には、小学生の時にプレーしていたレジスタFCのチームメイト、双子の兄弟でもあるMF宇田川瑛琉(3年)とDF宇田川侑潤(3年)がいた。「ビデオを見ていても彼らがキーマンになるというのはわかっていましたし、結構家族ぐるみで仲も良くて、家も近いので、『負けてられないな』と思いましたけど、対戦してみたら『やっぱり上手いなあ』と感じました」。

 堀越のキャプテンを任されている宇田川瑛琉とは、コイントスの時に向かい合った。「自分はちょっと話そうかなと思ったんですけど、向こうはすぐに行こうとしたので、『よろしくね』と握手だけしました」。彼らの想いも携えて、ここから先に続いていくステージを戦う決意を新たにしたことは、言うまでもないだろう。

 ここまで一緒に日々を過ごしてきた3年生に対する想いは、とにかく強い。「今年は2年生が強いと言われている中で、試合のメンバーに3年生は少ないですけど、出ている3年生でしっかりやらないといけないというのはありますし、クラスで一緒にいても、練習試合を見ていても、『メンバーに入っていないヤツらのために戦わないといけないな』とずっと思っていました。今日は他の3年生が頑張ってくれたんですけど、自分が本当にひどかったので、全国大会で試合に出られれば、みんなが助けてくれた分、今度は自分が助ける番かなとは思っています」。

「今回勝てたのは、今まで築き上げてきたモノが大きいと感じているので、OBの皆さんに感謝して、帝京という名前に恥じないようにプレーしたいなと考えています。もう10年ぶりぐらいなので、『初出場の気持ちでやれ』とはずっと言われていますし、チャレンジャーの気持ちで、背伸びせずに、目の前の相手と戦いながら1個1個勝って、いい所まで行ければなと思います」。

 気は優しくて力持ち。カナリア軍団の押しも押されもしない守護神。岸本の奮闘が、全国での躍進には必要不可欠だ。

(取材・文 土屋雅史)
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