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全国の猛者をも翻弄する仕掛け人。前橋育英MF笠柳翼はドリブルで自身の未来を切り開く

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前橋育英高の“左の翼”を担うMF笠柳翼

[6.20 インターハイ群馬県予選決勝 前橋育英高 0-0(PK3-1) 桐生一高]

 タイガー軍団が誇る軽やかな“左の翼”が、ピッチ上で自由自在に羽ばたき始めたら、その動きを封じられる者はそう多くない。前へ、前へ。仕掛ける姿勢は、揺るぎない自信の現れだ。「自分は去年も選手権に出れなくて、インターハイも開催がなくて、まだ全国に名前を轟かせていないので、やっとここで自分の名前を全国に広められるチャンスが来たのは、凄く嬉しいです」。明るく謙虚な自信家。前橋育英高の10番を背負う“仕掛け人”。MF笠柳翼(3年)は未来へと繋がる道を、自らのドリブルで切り開いていく。

「やっぱり桐一のことは意識しますし、緊張するというよりは、いつもと違う雰囲気がありますね」と笠柳が語る、永遠のライバルとも言うべき桐生一高と対峙した群馬ファイナル。「前半はあまり良いリズムを作らせてもらえなくて、ボールもなかなかもらえない状況でした」とは言いながら、10番は局面で違いを見せ付ける。

 前半16分には左サイドをドリブルで運び、GKにキャッチを強いる枠内シュートまで。37分にもやはり左サイドを単騎で崩し切り、上げたクロスはフィニッシュまで繋がらなかったものの、危険なエリアで勝負すれば、いつでも仕事を完遂してしまいそうな雰囲気を、相手に突き付ける。

 圧巻は後半40分。正規の80分間が終わりかけていたタイミングにもかかわらず、左サイドで前を向いた笠柳は、凄まじい推進力でマーカー3人を独力で剥がし切って、そのままクロス。中央の味方とは合わなかったが、圧倒的なドリブルの破壊力を披露する。最後はPK戦で勝利を収めた前橋育英の中でも、その個の力は際立っていたと言って差し支えないだろう。

 3年生になってからは、2つの貴重な経験を積んできた。1つ目は5月上旬に行われたU-18日本代表候補のトレーニングキャンプ。同世代のトッププレイヤーと時間を共有したことで、足りない部分が明確になった。「セカンドへの反応や回収とか、オフ・ザ・ボールの時のスピード感だったり、スプリントの回数とか、走る所やフィジカルと言われる部分が足りていなかったので、そこは付けていきたいかなと思います」。

 さらに、嬉しい再会も経験する。「(横浜FCユースの)山崎太新は、中学の頃からライバルとして同じチームで一緒にやっていたので、代表という素晴らしい所で再会できて嬉しかったですけど、以前とは比べ物にならないぐらい成長していました」。横浜FCジュニアユースで切磋琢磨した仲間とのプレーは、とにかく刺激的な時間だった。

 ただ、続けた言葉に“負けず嫌い”の顔が覗く。「自分もタイプは違いますけど、足元で負けているとは全然思わないので、また良い刺激をもらいました」。中学時代は山崎が右、笠柳が左という棲み分けでプレーすることが多かったそうだが、現在は2人とも左サイドが主戦場。ライバルであり、仲間でもある旧友に負けたくないという想いは、さらなる成長のキッカケを与えてくれている。

 2つ目の大きな経験は、Jクラブへの練習参加。1週間余りの時間の中で、小さくない手応えを掴んできた。「プロの世界でも攻撃は全然負けていないと思いましたけど、あとはドリブル突破はもっと磨きながら、やっていきたいなと。でも、身体を上手く使いながらのプレーは全然負けていないと思うので、残りの高校生活はプロに向けて、1年目から試合に食い込んでやろうというイメージで、日々練習して足りないことをどんどんやっていきたいと思います」。

 目の前の日常に対する視線の質は、明らかに変わった。「代表やプロの練習参加に行って、自分の中での基準が1つも2つも上がりましたし、代表に定着するという所にもどんどん入っていきたいですし、そういうプレーの“基準”をどんどん高めて、練習からやっていきたいと思います」。自分の中で上げた基準が、頼もしい。

 明るく、ハキハキと話す姿も、プロ向きのメンタリティを感じさせる。そしてこの夏、自分たちが為すべき成果に対しても、明確なイメージと決意を既に携えていた。「全国で見ても育英はメンバー的にも良いチームだと思うので、みんなで掲げてきている日本一は目指してやっていきたいと思います」。

 タイガー軍団が誇る軽やかな“左の翼”。笠柳を止めたいと願うのであれば、それが全国レベルの猛者であっても、対峙するにはそれ相応の覚悟が必要だ。

(取材・文 土屋雅史)
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