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埼玉の中体連からグランパスへ。名古屋U-18GK北橋将治が堂々のプレミアデビュー

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堂々のプレミアデビューを飾った名古屋グランパスU-18のGK北橋将治

[7.3 プレミアリーグWEST第9節 京都U-18 2-3 名古屋U-18 東城陽G]

 この日のために、毎日厳しい練習にも耐えてきた。自分の背中を多くの人の想いが後押ししてくれていることも、改めて実感することができている。あとは、やるだけだ。「このチャンスを逃す訳にはいかないので、ここで絶対自分の存在を証明していきたいなとは思っていました」。7月3日。アウェイゲームに臨む名古屋グランパスU-18のゴールマウスには、プレミアリーグデビュー戦のGK北橋将治(2年=さいたま市立宮前中出身)が堂々と立っていた。

 一際目を引くのはメンバー表の前所属チーム。北橋の欄には『さいたま市立宮前中学校』と書いてある。「普通に『近くのそこそこ強い高校に入れたらいいな』ぐらいで考えていたんですけど、県選抜に入っていて、その試合の時に当時のスカウトだった方が見に来てくれていて、その時に声を掛けていただきました。本当に夢みたいなことでビックリしましたけど、その年がクラブユースとJユースカップを獲った年で、「本当に強いな。ここに入れば絶対成長できるな』と思ったので選びました」。思い切って最高の環境に飛び込むことを決断する。

 わかっていたとはいえ、想像以上のレベルの高さに、15歳は衝撃を受けた。「1年目からプレミアに出ることは目標にやっていたんですけど、去年だと東ジョン(名古屋グランパスから栃木SCへ期限付き移籍中)くんという高い壁があって、なかなか試合にも出られずに、悩んだ時期がありました」。トライアンドエラーを繰り返し、少しずつ、少しずつ、自信を付けていく。

 1か月前。年代別代表の招集歴もある正守護神であり、1学年上のGK宮本流維(3年)が負傷離脱。にわかにプレミア出場の可能性が高まってくる。「練習の質や態度で『もっと原点に立ち返らないといけないな』と思って、そういう所からやり直しました。再開のガンバ大阪戦に向けてやっていたので、そこまでの期間がものすごく早く感じましたし、その試合が近付いてくるうちに、どんどん自分も自覚が出てきて、それに伴ってプレッシャーもものすごく感じていました」。

 ガンバ大阪ユースとの一戦は延期となったものの、その翌週に当たる京都サンガF.C.U-18戦のスタメンに、やはり北橋は指名された。明らかに緊張の色を浮かべる彼を、周囲の温かい声が包み込む。「今日ここのグラウンドに来る前に、この試合のメンバーに入れなかった選手とか、ナラさん(楢崎正剛GKコーチ)とかコーチ陣からも、『頑張れよ』とか『いつも通りやれば大丈夫』とか激励の言葉をもらって、ものすごく気持ちが楽になりましたし、『今日はやってやろう』という気持ちで入れたので、あまり緊張することなく入れました」。

 待ちに待ったプレミアの舞台。先行しては追い付かれる展開の中、同点で迎えた後半39分に大きなピンチが訪れる。左サイドから上がったクロスに、合わせられたヘディングが枠を襲うと、北橋は左手一本でボールを懸命に弾き出す。「相手が勢い付いている中で、あそこでちゃんと止めることができて良かったです」。危機を凌いだチームは、その相手のCKから逆に繰り出したカウンターで、PKを獲得。これをキャプテンのMF加藤玄(3年)が沈め、3-2と1点をリードする。

 最終盤。45+4分。ラストプレーは京都U-18のFK。正確なキックに、ニアから打たれたヘディングが枠を捉えるも、再度舞ったのは北橋。「今持っている集中力を全部注いで、何が何でも止めようという気持ちで挑みました」。完璧なファインセーブでゴールを死守すると、程なくしてタイムアップのホイッスルが鳴る。

「試合が終わった瞬間は、今までのサッカー人生の中で一番嬉しい場面で、チームメイトが『ナイスキーパー』と言いに来てくれて、その時に涙が出てしまったんですけど(笑)、それぐらい嬉しかったです」。積み重ねてきた努力を、サッカーの神様はしっかり見ていたのだろう。北橋にとってのプレミアデビュー戦は、忘れられない最高の思い出として、自らの胸に刻まれた。

 試合後は古賀聡監督も、この日の出来とそれがもたらす影響について言及する。「まだまだ足りない所もあるんですけど、ゴールを守るということに関しては地道に、先輩に追い付け追い越せで、努力を積み重ねている選手なので、その彼が努力の証としてああいうビッグセーブを見せてくれたことは本当に仲間の信頼にも繋がりますし、キーパーグループのステップアップにも繋がっていくんじゃないかなと思っています」。名古屋に帰れば、またポジション争いの日々が待っている。

 1学年上に宮本、1学年下にGKピサノアレクサンドレ幸冬堀尾(1年)と年代別代表選手に挟まれているが、その環境もプラスに捉えているという。「代表に入っている人が上にも下にもいるということは、自分にもそういうチャンスはあると思っていますし、逆に負けていられないなという闘志も持っています」。自身でも特徴と捉えているキックは、マンチェスター・シティのエデルソンを参考に、さらなる精度を磨いている。

 ここからの目標も、まずは身近な所に目が向いている。「最終的には海外でやっていければいいなと思っているんですけど、まず一番の目標はユースでプレミアリーグの試合にもっと出場することと、世代別の代表に入ることです」。堂々たるプレミアデビューを飾った北橋が、さらなる高みへと続く扉へ、この日確かに手を掛けた。

(取材・文 土屋雅史)
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