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[プリンスリーグ関西]「ここから楽しむ時間帯」で決勝点を奪い切った履正社が、興国に力強く競り勝つ

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タイムアップの瞬間。死力を尽くした両チームの選手たち。

[7.4 高円宮杯プリンスリーグ関西第8節 履正社 2-1 興國 J-GREEN堺]

このレベルの試合がプリンスリーグで経験できることの意味を、両チームの指揮官は十分に理解している。「また後半戦もあるので、それがどんなゲームになるのかなあと、楽しみが増えましたね。興國さんももちろんこのままじゃないだろうし、メンツはなかなか強力ですから」(履正社高・平野直樹監督)「自分たちだけが一人勝ちしようじゃなくて、トータルで日本サッカーを良くしていく中での、Jクラブやし、興國やし、履正社やしって思うんで、これが良い勉強になって、みんなが上手くなってくれたらいいかなとは思います」(興國高・内野智章監督)。3日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープリンスリーグ関西第8節、履正社高(大阪)と興國高(大阪)の“大阪対決”は、後半終盤の決勝ゴールで履正社が劇的勝利。開幕8戦無敗で首位をキープしている。

 立ち上がりから、ペースを掴んだのは興國。川崎フロンターレ内定のMF永長鷹虎(3年)が右から、MF向井颯(3年)が左から果敢なドリブルに何度もトライすれば、右SBに入ったスケール感漂うDF和田哉輝(3年)の内も外も取れる突破力も、大きな推進力に。「ウチもトライのつもりで3バックをやっていて、それでイニシアチブを握ってという所だったんだけど、逆に一番良くない形の5バックになってしまいましたね」と平野監督も振り返ったように、履正社は全体の重心が下がったことで、なかなか圧力を押し返せない。

 すると、前半17分に躍動したのは“右の翼”。U-16日本代表候補のFW宮原勇太(1年)のパスを受けた永長は、「今日は結構いつもよりも縦に突破していて、相手も縦を警戒してきたことで中が生きたので、狙い通りやったと思います」と鋭いドリブルから獲得したPKを自ら沈め、興國が1点をリードする。

 ビハインドを負った履正社は、それでもワンチャンスをモノにする力強さを見せる。34分。ディフェンスラインでボールを持ったDF寺田侑平(3年)は、前方を見据えると巧みなループパス。ラインブレイクしたMF高橋陸(3年)は、丁寧なトラップでコントロールしながら、すぐさま右足一閃。軌道はゴールネットへ突き刺さる。1-1。タイスコアで最初の45分間は経過した。

 ハーフタイムに平野監督が動く。システムをいつもの4-4-2に戻し、改めて自分たちのスタイルを打ち出す采配を振るうと、“左WB”から“左SB”に変わったDF西坂斗和(2年)も「前半はあまり前に進めていなかったですけど、後半は4バックにしてから、自分たちのペースでサッカーができたかなと思います」と話した通り、シンプルに2トップのFW宮路峻輔(3年)とFW廣野大河(3年)を生かしつつ、攻撃の時間が増えていく。

 後半15分は履正社。左サイドを運んだ西坂のクロスに、廣野がニアへ飛び込むも、興國のGK岩瀬陽(3年)がファインセーブで回避。24分は興國。中盤アンカーのMF宇田光史朗(2年)がスルーパスを繰り出し、宮原のシュートは寺田が身体でブロック。29分も興國。和田、MF福田凌(3年)とパスが回り、永長が狙ったシュートは履正社のGK平尾駿輝(3年)がキャッチ。31分は履正社。ラインの裏へ飛び出した廣野のボレーは枠の左へ。お互いに次の1点を狙い合う。

 勝敗を分けたのは、ストライカーの執念。42分。履正社は途中出場のMF名願斗哉(2年)が縦にフィードを送ると、「前半から相手はラインが高くて、裏に飛び込んでいこうと意識はしていた中で、相手もそれはわかっていて、何回も対応されていたんですけど、その中でもやり続けることが大事かなと思っていました」という廣野が飛び出した岩瀬と交錯するも、こぼれ球は目の前に落ちる。

「僕らは1試合に懸けている想いが他とは違うというか、負けなくない想いは日頃から全員が持っているので、そこで自分が泥臭いプレーで決められて良かったです」と笑った廣野が蹴り込み、無人のゴールに吸い込まれたボール。「勝つことで学べることって凄く多いし、非常にクローズアップされている相手でもあったから、こちらも評判を聞いて戦々恐々としている所もあったんだけど、そういう意味では今日はウチの子たちが頑張ったんじゃないですか」と平野監督も納得の表情を浮かべた履正社が、2-1で興國を振り切って、勝ち点3を引き寄せた。

 履正社の中盤を支えるMF竹腰智也(3年)が「受け身になったというか、リスペクトし過ぎたというのもちょっとあります。興國は結構大阪では有名なので、意識する所はありました」と正直に明かしたように、興國が周囲から見られる目線のハードルは年々上がっていることに疑いの余地はない。ただ、内野監督はそれを大いに歓迎しているという。

「相手の“120パーセント”を引き出しちゃってるなというのはありますよね。でも、結局僕らが選手に言っているのは“ほこたて”で、相手がそうやってくれて、それを上回っていくために努力するから、僕らは上手くなれるんでしょ、と。相手を見て、戦術的に対応する、技術的に対応することで、そうやって対策を取ってくる相手を超えていくから、いい“たて”を破る“ほこ”、その“ほこ”を破らせない“たて”のかぶせ合いで成長する訳で、その辺は逆にありがたいなと思っていますし、選手も楽しんでくれてるんじゃないかなと」。

 この日、破り切れなかった履正社の“たて”を貫くため、また“ほこ”を鋭く磨き続ける日常が待っている。興國の尖りまくっている“ほこ”が、切磋琢磨し合うライバルの“たて”をより強固にしていくことも、リーグ戦という舞台の醍醐味だと言えるだろう。

 1-1で迎えた後半の飲水タイム。平野監督は選手たちにこう語り掛ける。「ここからが楽しむ時間帯だぞ」。試合後に指揮官へ言葉の真意を問うと、こういう答えが返ってきた。「ここで頑張ったら非常に成長もできるし、達成感も感じるし、この厳しい時間というのはそうそうない訳じゃないですか。こういう相手だし、僕らとしては後半戦のリーグ戦を左右するような、1つのポイントのゲームかなと思っていたので、シーズンを通した中でも、この残り20分というのは重要な時間帯で、だからこそ、楽しめないといけないかなと。子供たちがこういう苦しいゲームの中でも考えながらやってくれたのが良かったんじゃないかな」。

タイムアップの瞬間。その場に崩れ落ちた竹腰は、「嬉しいというか、ホッとしたというのが一番強かったです。一応今は無敗ですし、絶対に勝たなあかんと思っていたので」と話しながら、「もう途中から足が攣っていたので、気持ちでやっているみたいな感じでした。でも、そこが自分の売りなので、そこはやり続けていきたいと思っています」と力強く言い切った。

「こうやって高いレベルでゲームを続けることで、子供たちが『ああしよう』とか『こうしよう』とか、こちらがミーティングで話した以上のことを、みんなで打ち合わせしている姿も見るので、負けたくない気持ちがまた創意工夫をするという、そんな所もくすぐりながら、良い傾向に来ているのかなという気はしますね」(平野監督)。情熱の指揮官に率いられ、シーズンの鍵を握るかもしれない『ここから楽しむ時間帯』をやり切った履正社が、この先にどういう成長を遂げていくか、興味は尽きない。

(取材・文 土屋雅史)
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