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[東京都1部L]「アカデミー革命」進行中の町田ユースが、コンセプトを体現して2-0で快勝!

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FW高橋希歩(9番)の豪快なヘディングでFC町田ゼルビアユースが先制!

[7.18 高円宮杯東京1部リーグ第7節 町田ユース 2-0 駒澤大高 小野路G]

 新たなことにトライする時。おそらくその先導者も、実際は手探りで進んでいる。何とか悟られないように努力しても、きっと背中を見ている者たちは敏感に感じ取るはずだ。ならば、それをオープンにして、共に進んでいくことを宣言した方がよっぽど潔い。

「僕は正直、今までこういうコンセプトで、子供たちへのアプローチはしてきていなかったです。僕はズルいのが嫌なので、これは子供たちにも言っていますし、それも認めていますけど、その中で『今年はちゃんとみんなと共有して、1年間このコンセプトをやるからね』と。『何かを端折ったり、省略したりすることはないよ』と子供たちと話をしているので、凄く僕も意欲的に取り組んでいますし、また凄く知らないことが多かったなと。そこへの気付きは物凄く多いんですよ」。FC町田ゼルビアユースを率いる竹中穣監督は、率直な想いをそう語る。ゼルビアのアカデミー革命、進行中。18日、高円宮杯U-18サッカーリーグ 2021 東京1部リーグ(T1リーグ)第7節で町田ユースと駒澤大高が対戦。町田ユースが後半の2ゴールで、今季2勝目を挙げている。

 立ち上がりから町田ユースがボールを支配する。元気印のGK一藤陽向(3年)、DF深井堅仁(3年)とDF江郷世波(2年)のCBコンビで、ゴールキックもエリア内からビルドアップをスタート。中盤アンカーのMF樋口堅(3年)もパスを引き出し、丁寧に“入口”を探していく。

 ただ、駒澤大高も相手の戦い方は承知済み。レフティボランチのMF宇治川立樹(3年)と、ドリブルに特徴を持つFW濵田雄斗(3年)にボールを集め、シンプルなアタックで狙う相手ゴール。前半21分に中央をドリブルで運んだ宇治川のシュートは、味方に当たって枠の左へ。28分にも宇治川を起点に濵田が右クロス。MF鈴木蓮太朗(3年)のヘディングは枠を外れるも、2つのチャンスをフィニッシュに結び付ける。

 潮目が変わったのは36分。町田ユースは左サイドのCKをショートで始め、MF斎藤真之介(3年)のクロスから、MF上野巧(3年)が叩いたシュートはクロスバーにヒット。先制とは行かなかったが、「相手も元気でプレッシングで2度追い、3度追いしてくる中で、多少僕も我慢かなと思って見ていました」と竹中監督も言及した時間帯から、徐々にホームチームへと流れが移っていく。

 38分。深井のミドルはクロスバーの上へ。39分。左SB安達一貴(2年)のクロスから、FW高橋希歩(3年)のシュートはゴールを陥れるも、ここはオフサイドの判定。40分。高橋のドリブルシュートは枠の上へ。45分。右SB江口玲於樹(3年)のオーバーラップから、FW栗原元康(3年)は惜しいシュートを。スコアレスながら、町田ユースが攻勢を強めて、最初の45分間は終了した。

 後半はまず駒澤大高がセットプレーでチャンスを掴む。2分には宇治川の左CKから、濵田のシュートはDFがブロック。3分にも左SB山口航生(1年)のロングスローをFW加茂隼(2年)が落とし、濵田のシュートは再びDFにブロックされたものの、前面に押し出すゴールへの意欲。

 9分には町田ユースに決定機。斎藤が左からクロスを上げ切り、至近距離から高橋が放ったシュートは、駒澤大高のGK大澤航(3年)が超ファインセーブで凌ぐ。だが、ストライカーの仕事はこの直後で。11分。スムーズなパスワークから、左サイドを駆け上がった安達のクロスに、高橋はドンピシャヘッド。ボールはゴールネットへ吸い込まれる。「サイド攻撃からセンターフォワードがゴールシーンに出てくる、という意味では凄く良いゴールだったと思います」と竹中監督。9番の先制弾で町田ユースが1点をリードした。

「正直僕たちとしてはボールを持つ時間を多くしたいなという意図があって、やっぱり中央は相手が引き込めば引き込むほど人数が多い分、狭く感じる中で、そこであえて入れていくのも手なんですけど、サイド、サイドと展開していって、『ウチは外からやっていくよ』という意思を見せていくことで、体力的な面も含めてちょっとずつ相手にギャップができてくるイメージが僕にはあるので、そのギャップを突けるか、相手が焦ってきて、本当に埋めなきゃいけない部分が空いたところを突けるか、を考えています」(樋口)

 キャプテンのイメージが結果に直結したのは31分。ここも左サイドを単騎で剥がした斎藤が中へ。「『シュートを打とうかな。それともワンタッチで外そうかな』と思ったんですけど、相手が結構来ていたので、自分が持つことで相手のラインも上がりますし、将太郎がパスを出せる選手だから、シュートも打てるという状況にできるかなと思って」樋口が横に付けると、10番のMF義澤将太郎(3年)は左足を振り切る。

「良い感じにボールが来たので、あとは練習通りに決められました。綺麗でしたね」と義澤も自画自賛の一撃は、チーム全体がコンセプトを理解して、76分間ゲームを構築してきた結晶の1点。「スピードで相手に前に、前にと来られて、飲まれてしまう試合もあると思うので、そういう中で自分たちがしっかりと相手を見て動かし続けられたこと、落ち着いてやれたことが、今日を勝ちゲームに持っていけた1つの要因かなと思います」(樋口)。守備陣も今季初の無失点と躍動した町田ユースが、2-0で快勝。リーグ戦2勝目を鮮やかに手に入れた。

 町田は今シーズンからアカデミーダイレクターに菅澤大我氏が就任。育成年代の指導に確かな定評のある人材を加えたことで、今までになかった新たな角度からのアプローチを受けているアカデミーの指導者たちは、それぞれ日々のトレーニングへ真摯に向き合っている。

「基本的にはこちらがボールを持って、相手が守備をしている中で何ができるか、ですよね。その中で当然サッカーは相手のあるスポーツですから、相手の力がウチの力関係を上回れば守備で対抗する、と。攻守において、意図を持って、偶発的ではなくて、必然的に物事を完結させていく。これがチームのコンセプトだと思います」と言いながら、「これで合ってますかね」とおなじみの豪快な笑い声を響かせた竹中監督は、考えながら、迷いながら、少しずつ前進していく自身とチームの現状を肯定的に捉えている。

「選手が『ああかな』『こうかな』と意図しながらアクションを起こしている姿を見られる時間が少し多くなってきていることは感じているので、そういう意味では選手の『え、これはどうやるの?』みたいな迷いが、凄く薄くなってきました。まだ正直そういうシーンもありますし、ゼロから始まった中で、こういうポジティブな時間が増えてきて、そこからまた『そうじゃなかったかもね』『こっちの方が良かったかもね』という振り返りの部分で、選手ときっちり会話や対話をできるようになったという意味では、今は10段階で3ぐらいですかね。やっぱり2で(笑)」(竹中監督)

 最後の数字は指揮官らしい表現だが、10段階で2か3ということは、まだ7か8は成長する余地があるということ。当然簡単ではないものの、この数字をどう楽しみ、どう上げていくかに、指導者の力量が問われていく。

「あくまでも今年のクラブのコンセプトがこうだよということで、ダイレクターからは『自分のやりたいことをやれ』と言われている中で、クラブが進もうとしている未来図、クラブが育てようとしている選手のイメージは僕も理解できます。そこに至るためのレールはたくさんあるけど、何となくあっちの方にある終着駅みたいなものがズレてはいけないですし、それを考えることは僕にとってもポジティブなことなので、そこはスムーズに受け止めています。“ムズい”ですけどね(笑)」(竹中監督)

 ゼルビアが推し進めるアカデミー革命、着々と進行中。

(取材・文 土屋雅史)

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