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ブラウブリッツでの10年間で感じる確かな変化。秋田U-18DF伊藤慶亮は「秋田を背負って戦えるような選手」へ

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ブラウブリッツ秋田U-18のキャプテン、DF伊藤慶亮

[7.26 日本クラブユース選手権U-18大会グループステージ 長崎U-18 1-0 秋田U-18 ロ
ード宮城総合運動場陸上競技場]

 スクールに通い始めたのは小学校3年生の時だった。ブラウブリッツで過ごしてきた、このエンブレムを背負って戦い続けた10年間の変化を、あるいは誰よりも強く感じてきたのは、この男かもしれない。「昔は本当に名前を言っても聞き返されるくらいで。『え?なんて?』みたいな感じで(笑)。学校の友達も『そういうチーム、あるよね』ぐらいだったんですけど、今はサッカーを好きな友達はブラウブリッツを知ってくれていて、試合にもスタジアムに行ってくれて、ちょっとずつですけど、クラブの存在が大きくなってきているんだなと思いますね」。ブラウブリッツ秋田U-18のキャプテン、DF伊藤慶亮(3年=ブラウブリッツ秋田U-15出身)は、全国の舞台でも臆さず、堂々とピッチに立っていた。

 今回で3年連続の全国出場となった秋田U-18。1年時も、2年時もピッチに立ってきた伊藤だったが、過去2年間で戦った4試合でいまだ勝利はなし。昨年度の大会は名門の東京ヴェルディユースとPK戦までもつれ込む接戦を演じながら、その伊藤がキックを外し、チームは敗退を余儀なくされた。

 前日のヴィッセル神戸U-18戦も、0-2の敗戦。伊藤は冷静に両者の差を分析する。「上で戦っている分、向こうはサッカーを知っているんですよね。たとえば県リーグの自分たちは1点、2点獲って、3点目を獲って、もうずっと攻めて終わりみたいな試合が多い中で、彼らは1点を争うゲームをしていて、その中でどうやって攻めて、どうやって守ればいいか、勝っている時も、負けている時も、どうすればいいかがわかっているので、そういう経験の差は僕たちだけじゃなくて、秋田県の課題なのかなと思います」。その的確な言葉の選択と、落ち着いた口調にサッカー選手としての知性が滲む。

 今年の秋田U-18には絶対的な“基準”がある。それはトップチームが掲げている、あのスタイルだ。「トップチームとトレーニングマッチをした時に、自分たちが今日ぐらい行ってもトップの選手たちには勝てなくて、むしろ自分たちが倒れるぐらいなので、そこに対してもっとチャレンジしていこうみたいな気持ちはありますね。だから、結構行くんですけど、ファウルを取られてしまう場面は多いと思います。でも、そういうことをやらないと上に行けないと思いますし、弱いよりは強い方が絶対に良いと思うので」(伊藤)。

 この日もV・ファーレン長崎U-18相手に球際で上回るシーンも多々。「ファウルになってしまった部分もあるんですけど、それが自分たちの“基準”なので、そこを出せたのは良かったと思います」と伊藤も胸を張ったが、結果はその球際の接触でペナルティエリア内でのファウルを取られると、そのPKを沈められて0-1と惜敗。とりわけ後半は押し込む時間も長かっただけに、悔しい負けを突き付けられた。

 試合後。キャプテンを務める伊藤は、結果にこそ納得は行っていないものの、この2試合の意義をこう総括する。「やっぱり良い経験ではあると思います。僕たちは北の方にいるので、西のチームと試合をやれる機会はなかなかないですし、全国大会だからできることなので、素晴らしいと思います」。それは以前のU-18の、そしてクラブを取り巻く状況を知っているからこその感慨でもある。

「本当に昔は小さなクラブだったので、僕が小学生の頃から試合を見に行っても、お客さんは少ないですし、雨が降ったら全然お客さんが入ってくれないような、本当にそんな感じだったんですよ。でも、自分の中ではそこがずっと目標で、トップに上がりたいなと思ってサッカーをやってきたので、去年J2に昇格した時は本当に嬉しかったですし、本当に凄いなと思いました。今年もちょっとずつですけど、アウェイからもお客さんが来てくれたりするので、本当に嬉しいですよね」。

 自分の進路を考える視点も、極めて冷静。熟考した上で出しつつある結論には、舌を巻くほかにない。「まだアカデミーからプロになって、そこで活躍する選手がなかなか多くない中で、『自分がその最初の選手になりたい』という想いはずっとありました。でも、今のままでは『トップチームで一番になれないな』って。このままでは普通の“アカデミーから上がった選手”になっちゃうなと思ったので、大学に進むにしても、もう1つも2つも成長して、もっと強い選手に、秋田を背負って戦えるような選手になりたいと思います」。

 彼はきっと特別であって、特別ではない。こういう人材が育つ土壌が、ブラウブリッツには間違いなくあるということだろう。

 残されたアカデミーでの時間も、為すべきことは明確だ。「2年前に果たせなかった、プリンスリーグ昇格を果たしたいです。あの時は3年生に助けられながら、自分も1年生で試合に出ていて、聖和学園高に負けたんですけど、何もできなくて、本当に悔しかったんです。コロナ禍がなかったら、去年は県リーグから昇格して、3年生の時にプリンスで試合をするという考えが自分の中であったんですけど、それはできなくなってしまって。県リーグで戦っていると、こういう全国のような舞台に立った時に、“慣れるところ”から始めないといけないので、上には行きにくいと思うんですよね。だから、もう1個上のステージで戦える環境を残してあげられたらいいなと思います」。

 このクラブユース選手権の結果がどうなるか、この先にプリンスリーグへと昇格する未来が待っているのか、今はまだ誰にもわからない。だが、“後輩”たちは伊藤のような“先輩”たちの背中を見て、日々を過ごしている。この財産の継承が、ブラウブリッツのこれからを明るく照らし得ることだけは、疑いようのない事実である。

(取材・文 土屋雅史)
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