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DF登録のフォワードが決勝弾!旭川実は磨き上げた一体感で新田に競り勝つ 

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先制点を挙げた旭川実高のDF中村大剛とFW門馬誇太郎が歓喜のグータッチ(写真協力=『高校サッカー年鑑』)

[8.15 インターハイ1回戦 新田高 1-2 旭川実高 テクノポート福井総合公園芝生広場]

 双方が持ち味を出し合っていたのは間違いない。力の差はほとんどなかったと言っていいだろう。勝負を分けたのは交代カード。しかも「途中交代は期待されて出されていると思っているので、しっかりゴールを決められるように準備して入りました」と笑顔を見せたDF登録のフォワードだった。

 15日、インターハイ1回戦が快晴の夏空の下で開催。新田高(愛媛)対旭川実高(北海道1)が対峙したゲームは、後半終了間際に途中出場のDF柏木楓雅(3年)が決勝ゴール。旭川実が2-1で競り勝って、2回戦進出を決めている。

 決定機はいきなり開始36秒。新田は右サイドに開いたFW永野流星(3年)がクロスを上げ切り、DFのクリアを叩いたFW日浦和守(3年)のシュートはわずかに枠の左へ外れるも、あっという間のチャンスにゴールへの意欲を滲ませたが、先にスコアを動かしたのは旭川実。

 3分。右サイドで獲得したCKをレフティのMF居林聖悟(3年)が蹴り込むと、ニアに飛び込んだDF中村大剛(3年)は「キーパーの前からストーンの前に入って」フリック気味にヘディングシュート。ボールはDFに当たって、ゴールネットへ吸い込まれる。「たぶんこれがチームとして一番やりたい形ですけど、あの形で獲ったのは今日が初めてで、やっと獲れました」と笑ったキャプテンの貴重な先制点。旭川実が早くも1点のアドバンテージを得る。

 最初のピンチでビハインドを負った新田も、ボランチのMF篠崎亮輔(2年)とMF青野宇矩(3年)を軸に、全体の良い距離感でボールを繋いで攻める意欲は十分。9分には細かいパスワークから永野が繋ぎ、推進力のあるMF東尾翔太(3年)がドリブルで運びながら放ったシュートは枠の右へ。さらに28分にも、右サイドからMF福井優斗(3年)がロングスローを投げ入れると、ニアで合わせた永野のヘディングが枠を襲うも、旭川実のGK関蓮楠(3年)がファインセーブで回避。前半の35分間は旭川実が1点をリードして終了する。

 迎えた後半。同点弾はやはりセットプレーから。8分。新田は右サイドのCKを東尾が蹴り込むと、永野のヘディングはゴールネットへ到達する。旭川実の先制点と同様にCKからの貴重な一撃。スコアは振り出しに引き戻された。

 以降もお互いにチャンスを作り合う。13分は新田。日浦が左へ展開したボールを、SB宮領渉真(2年)は好クロス。東尾が逆サイドから飛び込むも、ここは旭川実の左SB大井来流(3年)が間一髪でクリア。19分は旭川実。左サイドを東尾が1人で切り裂き、3枚のマーカーを剥がしながら、そのまま打ち切ったシュートはゴール左へ。“あとちょっと”が続いていた展開の中で、おそらくPK戦もちらつき始めた31分。旭川実は途中出場の伏兵が輝きを放つ。

 右SB串田優斗(3年)のヘディングをCB渋谷一樹(3年)が残すと、ボールは8分前に投入されたばかりの柏木に収まる。「前半の自分はベンチでキーパーの位置を見ていたら、ちょっと高めにいたんですよね」という柏木は改めてGKのポジショニングを見極めると、利き足とは逆の左足でミドルにトライ。ボールは完璧な軌道を描いて、ゴールネットへ吸い込まれていく。

「ちょっとキーパーに止められそうな予感はしたんですけど、綺麗に入ってくれて良かったです。自分が持った時に、相手のディフェンスが一歩下がって距離を取れたので、打ったら入りました」。背番号3を付けたDF登録のフォワードが、35メートル近い距離をものともしないゴラッソを叩き込んで、勝負あり。

「全国で追い付かれる形になっても、『こういうゲームを勝てるようになろう』というのはチームで話していたので、この舞台でそれができたということが、明日にも繋がるかなと思います」と中村も笑顔を見せた旭川実が、交代カードの躍動で粘り強く勝利を引き寄せ、2回戦へと勝ち上がってみせた。

「自分たちの代は全国大会を経験していなくて、初めての舞台でやっぱり緊張もあったと思うんですけど、試合前にはみんなで苦しいゲームになるというのは話していました」と中村も話した旭川実は、灼熱の炎天下でもピッチに立つ1人1人が、自らの役割をまっとうしていた印象が強い。

 チームを率いる富居徹雄監督は「ウチは毎年そうなんですけど、凄く力があるチームか、ここで勝負できるヤツが何人もいるかと言ったら、そういうチームではないので、とにかく全員が統一したコンセプトでサッカーをしていくことを、どれだけ徹底できるかが大事かなと思います」ときっぱり。たとえば相手が再三繰り返していたロングスローに対しても、ニアにストーンとして置かれたFW門馬誇太郎(3年)を中心に必ず大きく跳ね返すなど、攻守に徹底してやるべきことをやり続けていく積み重ねが、チームの総和になっていく強みがある。

 前半と後半に設けられたクーリングブレイク。旭川実の選手たちはベンチへと戻る際に、1人1人がピッチへと一礼していた。勝負の神様が細部に宿るのであれば、あるいはそういうちょっとした部分の心掛けだって、勝利を引き寄せる一因になり得るかもしれない。

「去年に比べて突出した選手がいないこともあって、チームワークを大事に一体感を持ってやろうというのが今年のチームなので、その一体感を持てれば目標のベスト4まで獲れるんじゃないかなと思います」と中村。統一と徹底で磨き上げてきた一体感。グループの総力で、旭川実はさらなる躍進を目指す。

(取材・文 土屋雅史)
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