beacon

大人も思わず唸る人間力。旭川実DF中村大剛は主将として全国4強までチームを牽引し続ける

このエントリーをはてなブックマークに追加

旭川実高を支える絶対的キャプテン、DF中村大剛(写真協力=『高校サッカー年鑑』)

[8.15 インターハイ1回戦 新田高 1-2 旭川実高 テクノポート福井総合公園芝生広場]

 囲み取材が終わった直後。取材対応に立ち会っていた会場の運営担当の方も思わず「しっかりしている選手ですね」と、感心した表情でそう口にする。まったくの同感。限られた時間の中で自身のゴールについても、チームの特徴についても過不足なく語った上に、ユーモアまで交える余裕も。そして、最後に力強く目標を言い切った。

「今まで先輩たちが目指してきた全国ベスト4というのがなかなか旭川実業として獲れていないので、その全国ベスト4を自分たちの代で掴めればいいかなと思います」。旭川実高(北海道1)を牽引する主将。DF中村大剛(3年=旭実FC出身)の人間力が、きっとこのグループをより高みに連れていく。

 まずはゴールという形で、チームを勢い付ける。新田高(愛媛)と対峙したインターハイ初戦。まだ緊張感の漂う前半3分。セットプレーのチャンスにCBの位置から前線まで上がって、MF居林聖悟(3年)が蹴るボールを待つ。

 キックが飛んできたのはニアサイド。狭いスペースに中村が身体を滑り込ませる。「キーパーの前からストーンの前に入って、すらして決めた感じです」。フリック気味に頭に当てたボールは、相手DFに少し当たりながらゴールネットへ到達する。

「いつもキッカーが良いボールを蹴ってくれるのに、自分に当たらなかったりして迷惑を掛けていたんですけど、今日はいつもみんなに助けられている分、自分が結果を残したいなと思っていました。たぶんこの形がチームとして一番やりたい形ですけど、あの形で獲ったのは今日が初めてで、やっと獲れましたし、しかもこの全国大会の舞台で獲れて良かったです」。中村のゴールでチームメイトの緊張が一気にほぐれたのは間違いない。

 後半に入って、セットプレーから失点を喫したが、実はチームはプリンスリーグ北海道とインターハイ予選を通じて、10試合連続無失点を続けていた。この大舞台で久々の失点。浮き足立ってもおかしくない状況も、このリーダーは冷静に状況を把握し、チームメイトをポジティブに鼓舞し続ける。

 結果は終了間際にDF柏木楓雅(3年)のゴラッソが飛び出し、2-1で粘り勝ち。「全国で追い付かれる形になっても、『こういうゲームを勝てるようになろう』というのはチームで話していたので、この舞台でできたということが明日にも繋がるかなと思います」と胸を張った中村の存在が、チームに絶対的な安心感をもたらしている。

 もともとはボランチを主戦場に置いていたが、「基本的には球の落ち着きは欲しいですし、何をするにしてもあそこで時間を作れないと落ち着かないので」という指揮官は、やはりボランチが本職だったDF渋谷一樹(3年)と2人揃って、中村をセンターバックにコンバートした経緯がある。

「自分はあまり技術もないですし、サイズも身体能力もある訳ではないですし、自分の持ち味は危機察知能力と人を動かす能力だと思うので、それが一番生きるのはセンターバックかなと思います」と自身の想いを口にしつつ、「渋谷は自分より器用なので、ボランチをやってもできるんじゃないかなと思います(笑)」とチームメイトを立てつつ、報道陣を笑わせるユーモアを挟み込むあたり、只者ではない。

 難しい初戦を勝ち上がったことで、掲げた目標に一歩近付いたことは十分自覚している。「去年に比べて突出した選手がいないこともあって、チームワークを大事に一体感を持ってやろうというのが今年のチームなので、その一体感を持てれば目標のベスト4まで獲れるんじゃないかなと思います」。

 全国4強を目指す旭川実・真夏の陣。その中心にはいつでも中村という絶対的なキャプテンが、静かに、力強く、そびえ立っている。

(取材・文 土屋雅史)
▼関連リンク

●【特設】高校総体2021

TOP