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涙の理由は1つじゃない。青森山田MF松木玖生は“4度目の正直”でとうとう日本一に!

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青森山田高MF松木玖生は“4度目の正直”でとうとう日本一に!(写真協力=『高校サッカー年鑑』)

[8.22 インターハイ決勝 米子北高 1-2(延長) 青森山田高 テクノポート福井総合公園スタジアム]

 拭っても、拭っても、あとからあとから涙が込み上げてくる。きっと理由は1つなんかじゃない。突き付けられてきた悔しさも。ようやく成し遂げられた嬉しさも。支えて続けてきてくれた周囲への感謝も。理由は1つなんかじゃない。

「言葉じゃ表せないですね、本当に。ずっと3年間こうやって取り組んできても、ダメで、ダメで。それがやっと実って、嬉しい気持ちが一番です」。

 涙の理由を問われた男は、シンプルにこう言葉を紡いだ。4度目の正直。青森山田高の絶対的なキャプテン、MF松木玖生(3年=青森山田中出身)は、とうとう日本一の景色へ辿り着いた。

 今回の挑戦も、今までの結末と同じものを、ほとんど繰り返し掛けていた。中学3年生。高校1年生。そして、高校2年生。3年連続での全国大会準優勝。今度こそはと並々ならぬ決意で臨んでいたインターハイ。2試合連続で8-0という大勝を記録し、最大のライバルと目されていた静岡学園高(静岡)相手にも、シュートゼロに抑える完勝を収めてきた。だが、日本一まであと1勝に迫ったファイナル。米子北高(鳥取)戦はいきなり前半10分、PKで先制を許す展開を強いられる。

「静学戦で『100点満点』という監督からの言葉も戴いた中で、先制点を決められて、難しい試合の入りになってという形だったので、そこの気持ちの持っていき方はまだまだだと思います。点は決まるなという予感はしていましたけど、前半に関しては我慢の時間帯だなと」。うまくリズムを掴めないチームを、ピッチの中心で鼓舞し続ける。

 後半もボールは握りながら、米子北の粘り強い守備の前に、シビアなゾーンには侵入できない。ようやく松木も後半12分に左から抜け出し、GKとの1対1も冷静にゴールへとシュートを流し込んだものの、懸命に戻ってきた相手DFがほぼゴールライン上でクリア。時間ばかりが過ぎていく。

 “4年連続”での全国大会準優勝が近付いてくる。ただ、「『勝てる』という自信はありました」と松木。キャプテンの強い意志は、残り1分での同点弾で証明された。さらに、今度はPK戦突入目前の延長後半10+1分に“奇跡”が起こる。MF藤森颯太(3年)の左CKを、DF丸山大和(3年)が豪快なヘディングでゴールへ叩き込み、直後に青森山田の日本一を告げるホイッスルが聞こえると、気付けば松木はピッチに突っ伏しながら、まるで子供のように泣いていた。

 プレッシャーがなかったはずはない。フランス・リヨンへの短期留学。飛び級でのU-20日本代表選出。そして、日本一を義務付けられている青森山田での日常。有観客の試合後には笑顔の子供たちに囲まれ、多くの同年代の選手が対戦を心待ちにしている。その上、3年連続で最後の1試合に勝つことができず、味わい続けてきた全国大会準優勝。普通の高校生なら押し潰されてしまいそうな状況の中で、いつでも毅然とした態度を貫き通してきた。

「ここまで長かったなって。自分がこうやって優勝できたのもチームメイトのおかげだと思っていますし、青森に帰っても応援してくれた方々がいるので、そういった方々にしっかり『ありがとう』という言葉を伝えられたらいいなと思います」。試合後のミックスゾーンでは、もういつもの松木に戻っていた。男は涙の理由なんて、多くを語らなくていい。

 ようやく手にした日本一。ただ、これはあくまでもほんの序章にすぎない。「三冠は目指していますけど、いつも言っているように、1試合1試合を丁寧に戦えば絶対に勝てるという確信があるので、その気持ちをブラさずに、凄く難しい年になると思うんですけど、そこはキャプテンとしてもう一度チームを引き締めて、もっと青森山田を強くしていきたいなと思いますし、また新しい青森山田を見せていけたらいいなと思います」。

 優勝カップを掲げ、無邪気にはしゃぐ姿は18歳そのもの。最高のチームメイトとともに松木が綴っていく今年の“青森山田伝説”に、まずは一冠目が力強く書き込まれた。

(取材・文 土屋雅史)
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