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全試合アシストのスピードスター。青森山田高MF藤森颯太は日本一を“地元”の子供たちに捧げる

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青森山田高MF藤森颯太は地元の子供たちに夢を与える存在に(写真協力=『高校サッカー年鑑』)

[8.22 インターハイ決勝 米子北高 1-2(延長) 青森山田高 テクノポート福井総合公園スタジアム]

 ピッチレベルにいると、気付くことがある。あるいはチームの中で最も周囲に厳しい要求をしているのは、この男かもしれない。だが、攻守に全力で走り続け、正確なセットプレーも蹴り、仲間を鼓舞することもできる彼に言われるのなら、その言葉には耳を傾けざるを得ない。

 青森生まれの、青森育ち。青森山田高(青森)が誇る右サイドのスピードスター。MF藤森颯太(3年=青森山田中出身)が念願の日本一獲得に果たした貢献度の高さは、決して語り落とせない。

 その真価が発揮されたのは、今大会最大の注目カードとも称された静岡学園高(静岡)との準決勝。まずは前半14分に右サイドで自ら果敢にプレスを掛け、ボールを奪い切ると、FW名須川真光(3年)のリターンを受けて一気に加速。そのまま丁寧に中央へグラウンダーで流し込み、MF松木玖生(3年)のゴールを完璧にアシストしてみせる。

 もちろん先制点がチームに勢いをもたらしたことは言うまでもないが、試合全体で考えれば最も大きな貢献はむしろ守備面。相手のキーマン、左サイドハーフのMF古川陽介(3年)をサイドバックのDF大戸太陽(3年)と協力して、前後から挟み込むことでほぼ完璧に封殺。逆サイドでもDF多久島良紀(3年)とMF田澤夢積(3年)が、やはり右サイドハーフのMF川谷凪(3年)を試合から締め出したことが、驚異の被シュートゼロでの快勝に繋がった。

 試合後はサイドバックへの賛辞が相次ぐ中で、チームの心臓部を担うMF宇野禅斗(3年)は藤森と田澤の貢献について言及する。「相手のサイドハーフが強力という情報はあったので、そこを自分たちのサイドバックがどれだけ止められるかというのは話していたんですけど。その中でも藤森と夢積はできるだけプレスバックして2対1を作ってくれましたし、そのあとの攻撃へのトップスピードで上がっていくというのもやってくれたので、そこは凄く助かりました」。彼ら3人は青森山田中出身でもある。6年間で積み上げてきたお互いへの信頼が、宇野の一言に垣間見えた。

 米子北高(鳥取)と対峙した決勝。先制点を奪われ、苦しい展開が続く中でも、右サイドからは11番の厳しい要求の声が響き渡る。敗戦が現実のものになりかけていた後半34分に同点へ追い付くと、最後の最後に見せ場がやってきた。延長後半10+1分。左サイドのコーナースポットに藤森が向かう。その2分前。右から彼が蹴ったCKはDF三輪椋平(3年)にドンピシャで合う。ヘディングはわずかに枠を越えたが、そのキックの精度はこの土壇場で少しも落ちていなかった。

 間違いなくラストプレー。両手を叩きながら大声で叫び、いつものように右手を上げる。渾身の力で藤森が蹴り込んだCKは、吸い込まれるかのようにDF丸山大和(3年)の頭へ届く。ゴールネットが揺れ、タイムアップのホイッスルが響き、緑の選手たちの絶叫がピッチにこだまする。藤森の右足が、青森山田に日本一を呼び込んだ。

 実は青森山田が誇る不動のレギュラー、中盤と前線の6枚の中で、このインターハイの6試合を通じて一番出場時間が長かったのが藤森だ。唯一交代で下がったのも、7点のリードを奪っていた3回戦の終盤のみ。疲労が蓄積されていく準々決勝でも、準決勝でも、そしてこの日の決勝でも、彼を交代させるという選択肢は黒田剛監督の頭の中にもなかったように思う。

 そして、確かな数字も残している。7アシストはチーム最多。特筆すべきは6試合すべてでアシストを記録していることだ。その“7つ目”こそが、まさに日本一を引き寄せた絶妙のCK。プレーでも、メンタルでも、チームを牽引した藤森の活躍を見逃してはいけない。

 以前、青森県出身者がこのチームでプレーする意味を問われ、真摯に語った言葉が印象深い。「こうやって青森県内の選手が、青森山田で戦うということは、やっぱり青森でサッカーをしている子供たちに元気や勇気を与えると思いますし、自分の名前を県内や全国に響かせていけば、もっともっと『サッカーってこういう魅力があるんだな』って子供たちにも思ってもらえるはずなので、そういう意味では『自分がやってやろう』という意識は持っています」。

 青森生まれの、青森育ち。藤森が青森山田のメインキャストとして日本一を手にしたことには、そういう意味でも大きな価値がある。

(取材・文 土屋雅史)
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