beacon

「もっとできるんじゃないか」の毎日。帝京DF入江羚介が夏の全国で得たさらなる成長欲求

このエントリーをはてなブックマークに追加

年代別代表も経験している帝京高の左SB入江羚介

[8.29 高円宮杯プリンスリーグ関東第6節 三菱養和ユース 2-0 帝京高 三菱養和会 巣鴨スポーツセンターG]

 正確な左足でのキック。上下動を繰り返せるスプリント能力。そして、ロングスロー。どの試合でもコンスタントに高水準のプレーを披露するこの男には、既に各方面から注目が集まっている。「この2年生のうちにプロとか大学にアピールして、自分を完成させていくというか、今なら伸びしろはいっぱいあると思うので、3年生になる前にはある程度自分で自分に納得できる選手になりたいと思っています」。

 個性豊かなタレントが集まる帝京高(東京)。その中でもDF入江羚介(2年=FC東京U-15むさし出身)の確かな実力は、一際目を惹くレベルにまで伸びてきていると言っても過言ではない。

 1年時からスタメンで試合に起用されていることもあり、『まだ2年生だから』という意識は入江の中にない。「自分はキャプテンという感じではないんですけど、プレーでみんなを鼓舞したり、盛り上げたり、『入江もやっているからオレらもやらなきゃ』って思われるようなプレーはしたいと思っています。そのプレーにはまだ程遠いというか、全然足りないところがあるんですけど、自分のプレーでチームが活気づくような、『入江がいるんだったら勝てる』みたいに頼ってほしいと考えていますし、みんなから大事な所で頼られる選手になりたいと思っています」。チームを牽引していく気概は、既にはっきりと携えている。

 それゆえに0-2で敗れ、リーグ連敗となった三菱養和SCユース(東京)との一戦は、内容も結果も含めて歯がゆいものとなる。そのゲームの後半。珍しい一幕があった。2点のビハインドを背負った状況で、自陣で相手選手と競り合った直後。入江がボールを壁に蹴り付ける。

「前節は自分が出れなかったので、今節は自分が出るからにはチームを勝たせようと思っていたんですけど、自分がチームに迷惑を掛けているなと感じましたし、自分の力のなさに腹が立ったというか、ちょっとムシャクシャしちゃいました」。行為自体は決して褒められたものではない。だが、常に冷静なイメージの強い入江が露わにした感情には、自分の成長に対する強い飢餓感がより現れたような印象も、率直に言ってあった。

 日比威監督も、そのシーンの“感情面”については肯定的に捉えている。「うまく行かない時の苛立ちというものは、人間誰しもそれで自分を奮い立たせながらやる部分もありますし、喜怒哀楽のないヤツはたぶんスポーツ選手にならないと思いますし、その喜怒哀楽が出てきたことは出てきましたよね。ただ、途中からまた修正して、自分なりに冷静にやっていたので、そこに関しては良かったと思います」。

 そのあとで冷静さを取り戻し、いつもの水準のプレーを続けられるのは、やはりこの男の強い部分だ。「1回自分の気持ちを整理するというか、『自分がイラついているな』と確認できて、みんなからも結構声を掛けられたので、そこから切り替えるようにしました」。チームの勝敗を自身が担っているという自覚は、日増しに強まっている。

 インターハイでの敗戦も、大きな経験になった。米子北高(鳥取)との初戦は常に先行しながらも、最後は後半アディショナルタイムに追い付かれ、PK戦で敗退。「勝てた試合だと思うんですけど、自分の中では全然通用していなくて、『もっとできたんじゃないか』というのはずっと思っていて、あの全国が終わった後も、練習中から『もっとできるんじゃないか』と感じたり、満足できないというか、足りない所がどんどん見つかるというか、そういうモチベーションにはなってきています」。確実に目線が上がったことは間違いない。

 実は絶対王者との“遭遇”で、感じたことがあったという。「試合前日の練習会場が青森山田と隣だったんですけど、体格とか『大学生なんじゃないか』みたいな感じで、正直自分は勝てるイメージは全然浮かばなかったんです。でも、全国でああいう自分たちより全然格上の相手と試合をして、負けるんだったらもうコテンパンにされたいなというのは思いましたね」。その想いはこの夏こそ叶わなかったが、まだ入江には彼らと対峙するチャンスが何度も残されている。

 これから始まるシーズン最大の戦いには、3年生の想いも背負って挑む覚悟も定まっている。「3年生の人たちには本当にお世話になっていて、プレー面では確かに2年生が試合にたくさん出ていると思うんですけど、私生活とか練習中の取り組みの部分でずっと声を出しているのも3年生だと思いますし、本当にそこには感謝しかないので、先輩たちのためにも選手権は勝ちたいという想いはあります」。

 年代別代表も経験してきた、カナリア軍団の長身左サイドバック。その実力を持ってすれば、それを十二分にピッチで発揮し続ける義務と責任が、もう今の入江には課されている。

(取材・文 土屋雅史)
▼関連リンク
●高円宮杯プリンスリーグ2021特集

TOP