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パラ5位決定戦でスペインと最後の対戦へ…5人制サッカー日本代表・高田監督「“僕らのサッカー”をしよう」

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5人制サッカー日本代表の高田敏志監督

 5人制サッカー(ブラインドサッカー)日本代表は、グループリーグを1勝2敗の3位で終了。準決勝に進むことはできず、2日の5位決定戦でスペインと対戦することになった。

 メダル獲得のチャンスは逃したものの、日本は着実に成長を遂げている。その要因のひとつは高田敏志監督のプランによるものだろう。2013年に5人制サッカー日本代表のGKコーチに就任すると、15年から監督に就任。選手のコンディションや食事、トレーニングの負荷などに科学的アプローチで取り組み、さらに戦術面の改革も行った。

 パラリンピックでも、戦術性が目立った。守備では4人の選手がダイヤモンド型になり、互いの距離間は均等。その守備網で相手の縦パスやミドルシュートを阻み、さらに均等のままスライドしながら、個人技での突破からボールを絡み取った。

 初の準優勝に終わった6月のワールドグランプリでは、アルゼンチンとの決勝で2失点を喫したが、グループリーグ4試合では出場国最少の1失点のみ。“堅守”は、日本の大きな武器となっていた。

 攻撃面でも日本は大きな進化を見せた。指揮官は、サッカーでも取り入れられている「攻撃」「攻から守」「守備」「守から攻」の“4つの局面”の考え方を強く意識。攻撃が終われば、素早く守備に切り替える。後方でボールをキープできればGKへバックパス、またはラインを割った瞬間に、フィールドプレーヤーは「守から攻」に素早く意識を切り替え、それぞれの配置へ。晴眼者のGK佐藤大介が正確なロングパスを味方に飛ばし、再現性の高い速攻を展開した。

 直前合宿では、配置を意識した攻撃のトレーニングも実施。GKからの速攻が通らないときは、いったん近距離の選手にパスを送る。その選手から、逆のサイドフェンスまたは最前線にロングパス。パスの先には、すでに味方が控えており、相手ゴールに素早く迫った。その練習を何度も行うことで、どのタイミングでどの場所に選手がいるかを選手たちが体で把握。見えないながらも、遠距離のロングパスを高いレベルで可能にしていた。

 敵味方含めたフィールドプレーヤーがそれぞれの位置を確認できないからこそ、日本の“位置的優位性”が効果を発揮する。初戦のフランス戦は、その戦い方が攻守で噛み合った結果だ。初出場のパラリンピックで、4-0と初勝利を手にすることができた。

「大きくて早い選手が相手なので、戦略的に行かなきゃだめ。気持ちは昂っているけど、相手のウィークポイントをちゃんと突くための頭の判断が上手くできた。そのプレーが続いて、すごく上手くいったなと。それで4つもゴールが生まれて、勝機につながったと思います」

 だが、第2節・ブラジル戦、第3節・中国戦では、相手の質が上回る。圧倒的な個人技に守備網を何度も破られた。攻撃面も苦戦を強いられ、練習していた攻撃パターンがことごとく止められる。強豪2か国がメンバー交代で体力を温存しながら試合巧者となる一方、日本は猛暑の中で主力が疲弊。チャンス少なく、2試合無得点の連敗でメダルへの道は閉ざされた。

 パラリンピック王者ブラジル、アジアトップの中国は、日本の急成長を認めてしっかり分析をしていたようだ。

 中国戦後、FW黒田智成は「前回のアジア選手権で自分が2得点を挙げたような形は、やらせてくれなかった。そこはしっかり対策を取ってディフェンスをしてきた。日本の狭いブロックの特徴を崩すための攻撃のパターンに対して、しっかりとトレーニングを積んできたんじゃないかなと思いました」と振り返る。速攻時に最前線のサイドに張る黒田は、相手選手のマークに遭った。チャンスを潰され、ボールを持たれると、2度のチャンスを確実に決められた。

 高田監督は、試合開始から中国が日本を分析していることを察知し、修正に取り掛かる。「攻撃に急ぐと潰しに来られるので、重心を後ろにしていたんです。そうすると、裏のスペースが空いたんですよ。そこから行ければよかった。そこのポジティブトランジション(守から攻)、速攻が上手くいかなかった。気持ち的に守らなきゃという感じになりすぎてしまった」(高田監督)。劣勢と猛暑下での連戦の疲労で、選手たちは走り切ることができなかった。

 最高峰の舞台での初勝利を手にした一方、強豪国の本気を見せつけられた。

 準決勝進出を逃した日本は、2日に5位決定戦・スペイン戦で今大会最後の試合を迎える。高田監督は中国に敗れた後、選手たちにこう話しかけたという。「まだもう一試合あるので、それに向けて最後までやろう。このパラリンピックはスタート。格好悪い試合はできない。ちゃんと僕らのサッカーをしよう」。ひとつの形となった日本の戦い方で、成長の証をもう一度世界に見せつけたい。

(取材・文 石川祐介)
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