beacon

“古巣対決”で華麗な2アシスト。関東一MF肥田野蓮治は覚悟の10番を背負って再び全国へ

このエントリーをはてなブックマークに追加

関東一高の10番を背負うMF肥田野蓮治

[9.4 高円宮杯東京1部リーグ第9節 FC東京U-18(B) 2-3 関東一高]

 中学生の3年間で纏っていた青赤のユニフォームを目の前にした時は、いつだって内側から強い気持ちが湧き上がってくる。ただ、それはもう決してネガティブな感情じゃなく、自分の成長を見せ付けたいと願うポジティブな感情に変わっている。

「やっぱりユースに上がれなかったので、同い年のヤツらとかが出ていると、自分もやらなきゃいけないなという気持ちになりますし、FC東京とやる時は絶対勝ちたいという想いがあったので、3点目が入った瞬間は本当に嬉しかったです」。関東一高の10番を託されたレフティ。MF肥田野蓮治(3年=FC東京U-15深川出身)は華麗な2アシストで、“古巣”撃破の主役を担った。

「立ち上がりは守備がうまくハマらなくて、チームがバラバラでしたし、2点を先制されて苦しい感じで、結構メンタル的にもやられていました」。肥田野が正直に明かしたように、FC東京U-18(B)の攻撃にさらされ、前半の関東一はほとんど何もできずに2点のビハインドを背負わされる。

 特に同い年のMF高橋安里(3年)が前半だけで2ゴール。「同じポジションの逆に安里がいたんですけど、今日も実際にやってみて『やっぱり上手いな』と思いましたね」。さらに、マッチアップする相手は中学時代の後輩に当たる。「今日は左サイドバックだった松本愛己には、自分が深川の3年の時にポジションを取られることもあって、年下相手にもプライドがあったので、『絶対に負けたくない』という気持ちでやりました」。このままでは終われない。

 後半9分。10番に見せ場がやってくる。「自分が前を向いた瞬間というのはスルーパスを出せる自信がありますし、味方にも走れと言っていたので、そこは共通理解ができていたかなと思います。手応えはありました」。左サイドでボールを持つと、絶妙のスルーパスを通し、MF鹿岡翔和(2年)のゴールをきっちりアシストする。

 後半39分。“逆足”でその成長を証明する。「自分は左利きなので、普段はあまり縦には行かないんですけど、気持ちが出ましたね。『ここが勝負だ』と思いましたし、普段も右足ではあまりクロスは上げないんですけど、良い流れだったので上げたら、運良く転がった感じでした(笑)」。右サイドから得意の左足ではなく、右足で上げ切ったクロスが、MF神山寛尚(3年)のゴールに結び付く。圧巻の2アシスト。そして、最後は味方の決勝ゴールを目の前で見届ける。

「3点目が入った瞬間は『本当に耐えてきて良かったな』というのと、チームに感謝したいなと。チームメイトが獲ってくれたゴールだったので、本当に感謝したいなと思います」。その瞬間、ピッチに突っ伏して喜びを表現した10番の姿が印象深い。古巣相手に挙げた劇的な勝利のど真ん中に、間違いなく肥田野は立っていた。

 繊細なボールタッチは1年時から際立っており、公式戦の出場機会も得てきたが、自身も課題と捉えるメンタル面の成長を常に求められてきた。「自分は小野監督に1年からずっとメンタルのことを言われていた中で、インハイでは本当に自分が何もできなくて、チームを支えることもできなくて、負けた試合の後に『10番を外せ』みたいに言われたんです」。

 言われても仕方ないという想いと、それでも悔しさを隠せない反骨心が、せめぎ合う。「そこで自分は『絶対に10番を外さない』『絶対に10番を付ける』という気持ちになりました。自分たちは今、2年生が結構多く試合に出てきていて、それは自分が去年経験していたので、そういう時に先輩として強気にプレーさせてあげることだったり、気持ち的に前を向かせてあげることだったり、そういう自分のプレー以外のところ、メンタル面のところも自分がまず成熟して、後輩にもメンタルの余裕を持たせられるようにというのは、インハイに負けたことで、『自分がやらなきゃな』と思いました」。

「いつもだったら、そこにも気付かないで終わっていたところなので、そこに気付けているというのは少しは成長したのかなと思うんですけど、全然まだまだなので、もっとメンタル的にも成長しないといけないですし、そこを意識してやっていきたいです」。気付くことはできた。それを実行し、チームを良い方向へどう導いていけるかは、これからの取り組みに懸かっていることも、もう肥田野は十分にわかっている。

 ここからの目標も、明確過ぎるくらい明確だ。

「下の学年の時から使ってもらって、小野監督には本当に感謝していますし、まずTリーグはプリンス昇格が見えているので、後輩たちにカンイチへの感謝の気持ちを込めて、プリンスリーグの舞台を残してあげたいですし、関東予選、インターハイと悔しい想いをして、選手権でしか借りを返せるチャンスはないですし、去年の全国も悔しい終わり方をしてしまったので、去年の成績を絶対に超えたいです。そのためには選手権も今日みたいな苦しい試合がずっと続くと思うので、そういうところで自分が中心になって、勝ちを持ってこれるようにしていきたいです」。

 勝敗を決定付けられるのがカンイチの10番。確実に成長を続けている肥田野の左足が、チームをまだ見ぬ景色へと導いていく。

(取材・文 土屋雅史)

TOP