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白熱の柏ダービーは1-1のドロー。流経大柏は「自分らしさ」を追求しつつ、楽しんで大舞台へ向かう

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意地をぶつけ合う好ゲーム。ダービーはいつでも特別な試合

[10.2 プレミアリーグEAST第13節 流通経済大柏高 1-1 柏U-18 流経柏G]

 ピッチ上の至る所で、お互いの負けたくない意地がぶつかり合う。かたや柏の名を冠した全国屈指の知名度を誇る高体連の雄として、かたや柏の地に根を張る伝統のJクラブアカデミーとして、この一戦だけには負けるわけにいかない。

 白熱の“柏ダービー”は決着付かず。2日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第13節、流通経済大柏高(千葉)と柏レイソルU-18(千葉)が激突したゲームは、1-1のドロー。柏U-18のホームで行われた第4節も、やはり1-1で勝ち点1を分け合っていたため、今シーズンのダービーは2試合とも揃って引き分けという結果が残った。

 ホームチームの出足が鋭い。3分には早くもFW石川裕雅(3年)が右からドリブルシュート。ここは柏U-18のGK金田大和(3年)のファインセーブに阻まれたものの、4分にもMF渋谷諒太(3年)の右クロスから、ここも石川が粘ってシュート。ボールは寄せたDFに当たったが、流経大柏が勢いを持って立ち上がる。

 だが、先制点は意外な形で。6分。最終ラインでビルドアップしていた流経大柏が、GKにパスを戻した瞬間、「キーパーがボールを置く位置が結構足元に近くて、すぐに蹴れる状態じゃなかったですし、相手も油断していたと思うので、自分は最初ゆっくり寄せていたんですけど、一気にスピードを上げました」と振り返るFW真家英嵩(3年)が素早くプレス。GKのキックがその真家に当たってこぼれると、拾ったFW山本桜大(2年)は冷静なループシュートでボールをゴールネットへ滑り込ませる。2トップの“連携”がそのまま成果に。柏U-18が1点をリードした。

「ちょっとアンラッキーな失点で、大津とやった時もこうなっちゃったので、今日もズルズル行かなきゃいいなと思っていましたけどね」と榎本雅大監督も話した流経大柏は、これが指揮官も言及するインターハイ2回戦の大津高(熊本)戦以来の公式戦。前半1分でオウンゴールから失点を許し、その後も立て直せずに0-3で完敗を喫した一戦を引き合いに出した格好だが、この日の彼らは2トップの石川とFW清水蒼太朗(3年)が繰り出す馬力へ、全体もアグレッシブに呼応していく。

 21分には左SB新保柊祐(1年)がフィードを送り、走った石川のシュートは柏U-18の左CB田村心太郎(1年)が身体でブロック。柏U-18も29分には山本、真家と繋ぎ、MF湯之前匡央(3年)が惜しいシュートを枠の左へ外すも、36分は再び流経大柏。新保の左クロスに、ニアで清水が合わせたヘディングはゴール左へ。41分にもMF松本洋汰(3年)のパスから、抜け出したDF西岡亮哉(3年)のシュートは、柏U-18のキャプテンを務めるDF大和優槻(3年)が何とかブロック。

「相手はテクニカルな面もあり、フィジカルの面もあり、それを受けちゃったような感じですよね。本当はもう少しやりたいことがあったんですけど、それをやらせてくれなかったかなと」と口にしたのは柏U-18の酒井直樹監督。ただ、1-0とアウェイチームがリードして、最初の45分間は終了する。

「セットプレーは方法論をいくつかアイツらに投げるんじゃなくて、考えさせているんですよね。どうやったら合わせられるのかをもっと追求しろと」(榎本監督)。後半10分。同点ゴールはそのセットプレーから。左CKを渋谷は速いボールでニアへ。こぼれたボールがファーへ流れると、「あのコーナーはニアで逸らせてという形だったので、自分のところに来るとわかっていた」という清水がフリーの状態でヘディングをゴールへ流し込む。結果的にイメージ通りのセットプレーから、3年生ストライカーが嬉しいプレミア初ゴール。スコアは振り出しに引き戻された。

 ホームチームはさらにアクセルを踏み込む。17分。松本が高い位置でボールを奪い、渋谷のミドルは枠の上へ。24分。松本が右へ振り分け、清水の折り返しに石川が飛び込むも、シュートはゴール左へ。30分。石川のパスから、投入されたばかりのDF橋本清太郎(3年)が放ったシュートも枠の左へ。34分。DF大川佳風(2年)の右クロスを橋本がヒールで落とし、石川のシュートは枠外へ。37分。左へ流れながら左足で枠内へ打ち込んだ清水の強烈なボレーは、金田がファインセーブで応酬。「あとは点を獲るだけでしたね」とは流経大柏のCB田口空我(3年)。DF田中隼人(3年)を中心に粘る柏U-18守備陣の前に、攻め続けるが勝ち越しゴールには届かない。

 耐えてきた柏U-18にも終盤にようやく決定機。42分。左サイドからMF高貫太瑛(3年)がファーへ。DF伊達由太嘉(3年)のパスに湯之前がシュートへ持ち込むも、ここは渋谷がライン上で懸命にクリア。43分。伊達の左CKがこぼれると、途中出場となったFW升掛友護(3年)のシュートはクロスバーを越えてしまう。45+5分は流経大柏のラストチャンス。左サイドをドリブルで運び、そのまま打ち切った清水のシュートはわずかに枠の右へ。ファイナルスコアは1-1。攻める流経大柏、守る柏U-18という構図の90分間は、勝ち点1ずつを両者に振り分けた。

 流経大柏は2トップの推進力が際立った。石川は7本のシュート、清水は4本のシュートを記録。2人で相手の総シュートに近い数を打ち込み、結果は1点しか奪えなかったものの、少なくとも彼らのプレースタイルや個性は十二分に発揮されていた。

「あの2人、強烈でしたよね。相手はこういう2トップ、嫌じゃないですか。本当に楽しみなんだよなあ。監督がこんなこと言っちゃダメなんだけど、何とかコイツらに全国へ行かせてもらうしかないよね(笑)。みんな人間的にもこれからが楽しみだし、なんか報われてほしいなという想いがあるんですよね」と話したのは榎本監督。他の多くを望むより、特化したストロングを出し切れる環境を作り、それを彼らがピッチで表現する状況はもちろん意図してのものだ。

「記者さんたちも選手に定型文で『これ、何ページのやつだな』みたいなものばっかり出されてもね。なんかちょっと“ぽい”のを聞きたいじゃないですか。僕もそういう“ぽさ”はプレーでも出してほしいので、定型文できっちりまとめてくる選手より、やっぱり自分らしくやってくる選手になってほしいなって。そうじゃないと上で通用しないと思うし、それが最後に自分の軸になるというか、最後の拠りどころになって、『自分らしくやろう』ということが、一番結果が出るというわけじゃなくて、それが一番楽しい人生の生き方なんじゃないかなと。『まあ自分らしくやったし、いいかな』みたいな(笑)」(榎本監督)。

 確かにクラスではホームルーム委員長を任されているという清水も、最終ラインにいながら味方のミスを「『あ、ラッキー』みたいな感じです。自分の良いシーンが出せるので!」と捉えているという田口も、試合後の取材で“ぽさ”をしっかり出していた。このあたりにも流経大柏の考える“選手育成”のスタンスが滲み出る。

「特に僕は本田(裕一郎)先生の後で、やっぱり流経ってこういうチームだっていうイメージがあって、『じゃあエノになってどうするの?』というのはずっと問われていたと思うんですよね。本田先生のやり方を踏襲するのが一番の筋なのかもしれないけど、それだけでは自分らしくないし、結局その“自分らしさ”を要求するんだったら、自分がまず一番最初に自分らしくやらないとというところですよね」。この指揮官にして、この選手たちあり。あふれる個性を1つに束ね、日本一へ挑む大舞台は間近に迫っている。

(取材・文 土屋雅史)
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