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大宮U18も勝利を追求するも、田澤夢積の決勝弾で競り勝った青森山田が“三冠”へ力強くリスタート

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大宮アルディージャU18DF小澤晴樹青森山田高MF松木玖生の激しいマッチアップ

[10.10 プレミアリーグEAST第14節 大宮U18 0-1 青森山田高 所沢航空記念公園運動場(人工芝)]

 実は前期のプレミアリーグEASTで7勝を挙げた青森山田が、唯一1-0というスコアで勝利を収めたのが、ホームでの第5節・大宮アルディージャU18戦。そこまでの4試合で19ゴールを奪ってきた攻撃陣が、相手の嫌がることを徹底しようと臨んできた大宮U18の戦い方に苦しめられ、最少得点差での辛勝という結果になった一戦だった。

 大宮U18を率いる丹野友輔監督が以前、「この育成年代では『育成すればいい』とか『勝てばいい』とか、どちらかだけというのはなくて、この両方をバランスを取りながらやっていく作業というのは、一生続いていくものだと思うんですけど、やっぱり負けているチームに良い選手は出てこないと思いますし、勝ちながら成長させていくという所を目標にやっていくのが一番だと思います」と話していた言葉が印象深い。

 お互いが、お互いのやり方で勝利を目指した90分間は、またも1-0でアウェイチームに軍配。10日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第14節、大宮アルディージャU18(埼玉)と青森山田高(青森)の激突は、前半33分にMF田澤夢積(3年)が挙げたゴールが決勝点。青森山田がリーグでは3試合ぶりの白星を手にしている。

 先に相手ゴールに迫ったのはホームチーム。前半5分にはカウンターからFW山崎倫(3年)が得意のドリブルで相手陣内に切れ込み、エリア内へ侵入を試みるも、ここは底なしの運動量を誇る青森山田のMF藤森颯太(3年)がプレスバックでカバー。直後には右サイドバックに入ったMF梅澤大輝(3年)のロングスローから、CB大井勇人(3年)が懸命に頭に当てたボールはクロスバーにヒット。先制点には至らない。

「今日は1か月半ぶりの公式戦ということで、最初から難しい試合運びになりました」とGK沼田晃季(3年)も話した青森山田は、インターハイ決勝以来の公式戦。序盤こそ少し攻め込まれたが、徐々に相手の長いボールにも的確に対応しながらペースを掴むと、21分にはキャプテンのMF松木玖生(3年)の右CKに、ファーへ飛び込んだDF三輪椋平(3年)のヘディングは枠の上へ。24分には古巣対決に燃える左SB多久島良紀(2年)のロングスローから、ニアで松木が触ったボールも枠を外れたものの、得点の雰囲気を漂わせ始める。

 すると、先にゴールを記録したのは、勢いそのままに青森山田。33分。右サイドで前を向いた藤森が優しく外へ付けると、回り込んだFW名須川真光(3年)は丁寧に中央へ。「良いボールをくれて、面に当ててゴールに流し込めれば入ると思ったので、しっかり当てられて良かったです」という田澤のシュートが、ゴールネットへ到達する。

「インターハイでも結構あそこで田澤が獲っていたところがあったと思うんだけれども、逆サイドの“ふた”のところは練習の中でもかなりうるさく言っているところなので」と黒田剛監督も言及した、逆サイドの“ふた”の意識が呼び込んだ先制点。青森山田が1点のアドバンテージを持って、ハーフタイムに折り返す。

 後半は丹野監督がスタートから動く。推進力のあるMF高橋輝(2年)を投入し、MF相澤亮太(3年)、山崎と仕掛けられる3人を前に配置しつつ、「長所は収めるところとかポストプレーだと思っています」というFW前澤拓城(2年)で基点を創出しながら、ボール保持の時間も長くなっていく。

「90分ゲームをあまりしていなかったので、体力的にキツかったです」(多久島)「インターハイの70分に少し慣れてしまったというか、久々の公式戦ということで、後半になってキツかった場面も多かったですね」(沼田)。2人が声を揃えた青森山田は、それでも松木とMF宇野禅斗(3年)を中心に守備強度を落とさず、ボールを動かされる中でもきっちりスライドしながら対応。後半27分には途中出場のMF小原由敬(3年)の左クロスから、田澤がクロスバー直撃のヘディングを放つなど、2点目への意識も隠さない。

 43分には両エースが意地の攻防。左サイドでボールを持った山崎は、持ち前の軽やかなステップワークでカットインしながら、やや強引にフィニッシュまで持ち込むも、ここに飛び込んでシュートブロックしたのは松木。10番同士が勝利への執念を、それぞれのプレー滲ませる。

 45+5分。大宮U18のラストチャンスは右サイドで獲得したCK。MF阿部来誠(2年)がニアに鋭いボールを蹴り込むと、飛び込んだ途中出場のDF市原吏音(1年)のヘディングは、しかしわずかにゴール右へ逸れ、直後にタイムアップのホイッスル。「ゼロで行く、シュートを打たせないというのはウチのやるべきサッカーの1つなので、1点あれば頑張れるというところも基に、勝ち点3を獲れたことは凄く重要でしたね」と黒田監督も評価を口にした青森山田がきっちり試合を1-0でまとめ、大宮U18相手に“シーズンダブル”を達成した。

 大宮U18は8日間で3試合目のリーグ戦となるスケジュール。この日は4日前の流通経済大柏高(千葉)戦と同じスタメン11人で挑んでいる。積み上げてきたスタイルはもちろんベースに置きつつ、相手によって勝利への道筋を逆算する戦い方を模索。「前回の山田との対戦の時も結構蹴ったりしていたので、今回も蹴るだろうなと思っていたんですけど、繋げるんだったら繋ごうという話はしていました」とは前澤。ゲームの中での自主的な判断も、丹野監督は求めている。

「やっぱりこのプレミアリーグは選手を強化して、伸ばしていくのが本来の目的なので、日程が厳しくてもやり切りたいなと思っています」と丹野監督は過密スケジュールも歓迎の様子。柔和な笑顔と裏腹に、負けず嫌いの側面も人一倍持ち合わせている指揮官の“勝利”と“育成”を同時に追い求める想いに、選手たちがどう応えていくかには今後も期待したい。

 この1か月の青森山田は、難しい時期を過ごしていた。青森県の独自対策で県立学校の部活動が禁止に。私学も同様の対策が講じられる中、限られた時間の中で、限られた強化しか図れなかった。「急に『部活はできない』となったので、そこは凄く難しくて、筋トレルームで筋トレをさせたりはしていたんだけど、モチベーションを上げたくてもやらせてもらえないというところは、ちょっとかわいそうだなと思いましたね」と黒田監督も選手の気持ちを慮る。

 とはいえ、この期間を何もせずに過ごしているような選手たちではない。「練習も制限されて、短い時間でというところだったんですけど、寮にいる時もサッカーの会話が増えたりして、お互いのコミュニケーションやすり合わせがよりできたのかなと思います。良い意味で自粛期間をポジティブに捉えて、みんなで良い方向を向けたので、大事な期間でした」(沼田)「今まで青森県はサッカーができていた中で、今度は自分たちが自粛する番が来て、『我慢をしなくてはいけない』ということも感じましたし、試合がない分だけコミュニケーションのところがうまく取れて、その結果が今日も最後に粘り勝ちという形で出たんじゃないかなと思います」(多久島)。積み重ねてきた成果は、この日の結果がハッキリと証明してくれている。

「10月に入ってから一気にこの2週間で上げてきたという感じなんだけれど、やっているうちに少しずつできるようになってくるかなと。でも、三冠を獲ろうと思えばそれくらい体力を付けて、選手層も含めて強固になっていかないと、そんな偉業を達成するのは難しいから。彼らが(三冠を)やるって言うので、それならばそこを徹底してやってもらわないとね」(黒田監督)。

 偉業達成へのリスタート。青森山田、好発進。

(取材・文 土屋雅史)
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