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意地で奪った1点は未来への希望。狛江が『東京一応援されるチーム』を目指す意義

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狛江高は未来に繋がる1点を

[10.16 選手権東京都予選Bブロック2回戦 狛江高 1-5 関東一高]

 同じ大会で、同じチームに敗れたのはちょうど1年前のこと。彼らにしてみれば、この1年でどれだけ自分たちが成長してきたのかを測るには、格好の相手だったことは間違いない。「完敗ですね。去年は0-5で終わって、それから1年経ったので、『どれだけ差が埋められているのかな』というのが楽しみではあったんですけど、ちょっと圧倒されてしまいました」(長山拓郎監督)。

 今年も完敗だった。ただ、スコアは1-5。みんなで獲った1点が、きっと狛江高の、そしてこのチームで戦ってきた選手たちの、未来へ必ず繋がる1点であることを、彼らは自分たちで証明していく必要がある。

 2020年10月25日。高校選手権東京Aブロック準々決勝。都内上位進出の常連校でもある修徳高を延長戦の末に下し、8強まで勝ち上がってきた狛江は関東一高と対峙する。前半はスコアレスで推移したものの、終わってみれば0-5の完敗。枠内シュートもミドルシュートのわずか1本に抑え込まれ、その差をまざまざと見せつけられる結果となった。

 新チームが立ち上がり、「サッカーへのモチベーションが高くて、1年生の時から凄くまとまりもあります」と長山監督も認める3年生を中心に積み上げてきたものが、1つの形となったのが5月のインターハイ予選。昨年度の選手権で全国ベスト8を経験し、そのメンバーも多数残っている堀越高を土壇場まで追い詰める。

 後半終了間際と、延長後半。2度のリードを奪いながら、結果は2-3の惜敗。ただ、強豪相手でも自分たちのサッカーが出せれば、十分に通用するという手応えを得る。「もう作戦的には満点です。彼らも本当によく準備して、役割を本当にまっとうしてくれたと思います」と話した指揮官は、「でも、まだ選手権じゃないので。こういう真剣勝負はなかなかリーグ戦だけではできる機会がないですし、彼らも相当悔しいと思うんですよね。だから、ここからどうやれるのかという所です」と言葉を続けた。

 キャプテンのDF伊木和也(3年)が語っていた言葉も印象深い。「堀越相手にここまでやることができて、強豪相手にここまで戦えるということが示せたと思うので、そこはプラスに考えて、ここからはそういう相手に対しても、自分たちのサッカーをできればなと思います」。3年生の大半は、インターハイ後もサッカーを続けることを選択する。高校3年間の集大成。最後の大会。選手権がやってくる。

 1次予選を力強く突破し、迎えた2次予選も初戦で武蔵高に3-1で勝利すると、対峙するのは関東一。奇しくも1年前と同じ相手が、勝ち上がってきた狛江を待っていた。「去年は本当に守ることしかできなかったので、そこからしっかりとボールを動かしたり、攻撃したりというのは練習してきたつもりではいました」と長山監督。1年間を掛けて、この仲間と作り上げてきたものを披露するための舞台は整った。

 だが、前半3分にセットプレーから先制点を献上すると、19分、39分と続けて失点を重ね、後半3分には4点目も奪われてしまう。「ちょっとスピード感とか、圧力が普段なかなか経験したことのないような感じだったので、それに慣れる前に失点が多かったですね」(長山監督)。0-4。小さくないビハインドを背負い、ようやく腹が決まる。

「失点がかさんだことで、それでも前からボールを奪いに行くとか、攻撃するしかないという思考になれたので、『変なことを考えずにとにかく1点を獲りに行こう』となりましたね」と指揮官。13分。FW佐藤嘉晴(3年)のクロスから、DF西川尚希(3年)が左足を振り抜くと、ボールは豪快にネットを揺らす。ファイナルスコアは1-5。1年前より1点だけ縮んだ点差と、1点だけ奪ったゴール。意地は見せた。

 試合後。少しベンチから離れた位置で、ユニフォームを回収するマネージャーが泣いていた。負けた悔しさと、終わってしまった寂しさと。戦っていたのは選手だけではない。3年間の記憶が、降りしきる雨に少しずつ溶けていく。

 実は1次予選が始まる前、半分ぐらいの3年生は気合の坊主頭に。勝ち進むごとに少しずつその数は増えていき、2次予選進出を懸けた決勝の頃には、全員の髪型と想いが揃ったという。この日の3年生も総じて短髪。そんなことも、後から振り返ればかけがえのない思い出になっていくはずだ。

 狛江が掲げている『東京一応援されるチームになろう』というスローガン。サッカーと真摯に向き合ってきた彼らが、この3年間で多くの方から受けてきた応援をどう感じ、どうこれからの日々に生かしていくかが、まさに『東京一応援されるチーム』を目指し続ける最も大きな意義でもある。

(取材・文 土屋雅史)
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