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古豪返上への誓い。盛岡商は永遠のライバル・遠野を3-0で撃破し、10年ぶりの全国へ王手!

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盛岡商高はMF工藤春(16番)がチーム2点目をゲット!

[10.31 選手権岩手県予選準決勝 遠野高 0-3 盛岡商高 いわぎんスタジアム]

 2ゴールを奪った戸來匠が力を込めて、自らの想いを率直な言葉で口にする。「自分たちはここ10年ぐらい全国に出られていないですけど、“古豪”と言われているのが自分は凄く悔しくて、そういうふうに古豪と言われることをなくすためにも、今年は絶対に勝ちたいなと思っています」。

 赤と白のプライドが、青と白の難敵を撃破。31日、第100回全国高校サッカー選手権岩手県予選準決勝、遠野高盛岡商高は3年連続の同一カード。PK戦で敗れた昨年の雪辱に燃える盛岡商がFW戸來匠(3年)の2ゴールに加え、MF工藤春(2年)も得点をマークして、3-0で快勝。10年ぶりの全国出場へ王手を懸けている。

「遠野とはプリンスリーグや新人戦という大会を含めて、この年代は5回目ぐらいの対戦で、お互いに特徴も分かっていて、毎回どちらが勝つかはわからないような展開だったんですよね」と盛岡商を率いる中田洋介監督。手の内を知り尽くしているチーム同士の一戦は、「最初の10分は縦に伸ばして攻めようという意識でやっていました」とキャプテンのMF菊池翔瑛(3年)も話した遠野がまずは攻勢に。前半7分にはFW昆野翔太(1年)が3連続CKを蹴り込むなど、相手ゴール前に迫る。

 だが、スコアを動かしたのはやや劣勢だった盛岡商。13分。左サイドで奪ったスローイン。MF佐々木央汰(2年)が投げ入れたロングスローがこぼれると、いち早く反応した戸來が右足を振り抜く。

「こぼれを狙うという役割が決まっていて、その中でこぼれてきたので、『とりあえず振り抜いて枠に入れよう』という感じで打ったら、良いコースに行ってくれて嬉しかったです」。豪快なミドルが打ち抜いたゴールネット。「自分が点を獲ってチームを勝たせようと思っていた」エースの先制点で、盛岡商が1点のアドバンテージを手にする。

 勢いは止まらない。34分。「監督からも『どんどん仕掛けろ』と言われているので、いつも通りに仕掛けていました」と再三ドリブル勝負を仕掛けていたMF佐藤航(3年)が左サイドを切り裂き、そのままクロス。ファーから飛び込んだMF工藤春(2年)のシュートが、確実にゴールを陥れる。「サイドの工藤と佐藤はスピードがあって、そこはウチの特徴でもある中で、これまでは崩してもセンタリングの質や中に入る質が悪かったりして、なかなか点に結び付かなかったんですけど、今日は点を獲ってくれましたね」と指揮官も笑顔の追加点。2-0にスコアは変わる。

 2点のビハインドを負った遠野も、右サイドハーフに入ったレフティのMF高橋暖(3年)をアクセントに反撃。38分にはFW菅田優斗(3年)とのワンツーから、高橋のシュートは枠の左へ。40+1分にも右サイドを抜け出した高橋のクロスに、菅田が狙ったシュートは枠外に。盛岡商が2点をリードして後半へ折り返す。

 後半9分。再び8番が躍動する。右サイドから工藤がクロスを上げると、「手前でバウンドしたのでちょっと難しかった」と戸來は巧みにボールをコントロールしながらマーカーを剥がしつつ、右足一閃。ボールは絶妙の軌道を描き、対角線上のゴールネットへ転がり込む。「最近シュートの精度が上がってきていて、本人にも感覚があるんじゃないですかね」と中田監督も認めるストライカーのドッピエッタ。盛岡商のリードは3点に広がった。

 苦しくなった遠野も、次々とアタッカーの交代カードを切りつつ、何とか1点を奪おうと前に人数を掛けて反撃態勢に。32分にはFW渡邊慶丞(3年)が左クロスを上げ切り、MF栗澤陸(3年)が枠内シュートを放つも、ここは盛岡商GK羽田碧斗(3年)がファインセーブ。40分にも栗澤の右クロスから、鋭い切り返しでマーカーを外したMF高田遥可(3年)のシュートは、再び羽田がファインセーブで仁王立ち。失点を許さない。

「3年連続というのはやりづらいというか、避けては通れないと言えば通れないんですけど、今までPK戦で勝った、負けた、と来ていたので、何とかPKに行く前に勝負を決めたいなという気持ちはありました。遠野にはこれまで必ず失点していたので、今日も3点獲りましたけど、『何点かやられるかな』という感じはあったのですが、最後まで粘り強くやってくれたなと思います」(中田監督)。終わってみれば盛岡商が3-0で快勝を収め、1年前のリベンジ達成。力強くファイナル進出を手繰り寄せた。

 連覇を狙った遠野は、まさかの完敗に肩を落とした。「自分たちのやりたいことはあまりできなかったですね。去年の優勝したチームとはプレースタイルも全然違って、プリンスリーグでも勝てない状況が続いたんですけど、最後の方で勝ってきたことで上昇気流に乗ってきたので、『このまま行けば』と思っていましたが……。自分たちの良い所を相手に潰されて、逆に相手のストロングポイントを生かされてしまって、キャプテンとして情けないなと思いました」と菊池は声を絞り出す。

「チーム作りというのは今のチームとは別だと思うので、自分たちのストロングポイントだったり、弱点を明確に見つけていって、全部の大会で気を抜かずに、来年必ずリベンジしてほしいと思います」。キャプテンは後輩に想いを託し、静かに会場を後にした。

 盛岡商を率いる中田監督は、名門ゆえのプレッシャーを選手たちの雰囲気から感じていたという。「選手権って独特な雰囲気があって、思うようなプレーができていなかったのがこれまでだと思うんですよね。ちょっと変なプレッシャーというか、『全国になかなか出ていないから、出ないといけない』みたいな。今年に関してはそういうことを考えさせないように、ちょっとリラックスをさせて、あまり言い過ぎない形で、本人たちの自主性に任せようかなって」。

 効果てきめん。「いつもより声を出して、自分たちからやろうという感じが今日は出ていたので、そこがプラスに働いたのかなと。決勝でもその良い影響が出たら、久しぶりの全国も見えてくるのかなと思いますね」。指揮官は確かな手応えを掴んでいるようだ。

 それでも、“10年ぶり”という意識は選手たちの中に間違いなくある。「10年全国に行っていないという、“ジンクス”という感じになっているモノを崩して、また盛商が全国で活躍していければなと思います。自信は100パーセントあります」(佐藤)「自分は全国に出るためにこの学校に入ってきて、1,2年生の時も試合に出させてもらって、それでも行けなくて悔しい想いを2年間してきているので、決勝に懸ける想いは強いです」(DF宮野隼・3年)。

 古豪返上へ。時は来た。プレッシャーを良い意味で力に変えつつある盛岡商の復権は、もうすぐそこまで迫っている。

(取材・文 土屋雅史)

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