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“想定内”の逆転勝利。2点のビハインドを引っ繰り返した帝京長岡は、日本文理を下して県4連覇へあと1勝!

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バックスタンドの応援も力に帝京長岡高は力強く逆転勝利!

[11.3 選手権新潟県予選準決勝 帝京長岡高 4-2 日本文理高 新発田市五十公野公園陸上競技場]

 いきなり負った2点のビハインド。黄緑のユニフォームがすぐさま輪を作る。

「焦りとかはなかったです。1点目は自分がファウルしちゃったので、自分で取り返せばいいと思っていました」(FW渡辺祐人)「みんなの顔色も別に悪くなかったですし、もう1回みんなでやることを確認して、まずは1点という形で話していました。正直僕は焦りはなかったです」(DF松本大地)「自分たちは点を獲られたらああやって集まって、自分たちが1年間やってきたことを、もう1回チームとして思い出してやろうということを決めていたので、想定内というか、まだ心の余裕は少しなりともあったかなと思います」(MF三宅凌太郎)。

 勝負強さを発揮した、“想定内”の逆転勝利。31日、第100回全国高校サッカー選手権新潟県予選準決勝、2年続けて全国4強を経験している帝京長岡高と、4年ぶりの全国を目指す日本文理高が激突した一戦は、前半11分までに日本文理が2点を先行したものの、慌てなかった帝京長岡は前半のうちに1点を返すと、後半に一気の3ゴール。4-2で逆転勝利を収め、新潟工高以来となる37年ぶりの県4連覇に王手を懸けている。

 試合は衝撃的なゴールで幕を開ける。前半4分。右サイドで獲得した日本文理のFK。ゴールまで約30メートルの位置。スポットに立ったMF河合匠(3年)の腹は決まっていた。「対帝京長岡ということで、チャンスが少ないというイメージがあったので、『FKはモノにしたいな』と思っていました」。左足から放たれた軌道は、一直線にゴールネットへ突き刺さる。「鳥肌が立って、ずっとサッカーをやってきた中で一番震えました」。まさにゴラッソ。日本文理が1点をリードする。

 11分には日本文理の10番を背負うストライカーが空を舞う。積極的なパスカットを見せたキャプテンのDF齋藤優太(3年)が右からフィードを送り込むと、196センチの長身を誇るFW相澤デイビッド(3年)は飛び出したGKのさらに上から、ヘディングをゴールへ叩き込む。こちらもやはり衝撃的な一撃。スコアはあっという間に2-0へ変わった。

 ゲームの流れを左右したのは、次の1点だった。37分。「勝手に身体が動きました。『頭だとちょっと低いな』と思って、とっさに出たのが足で、何とか合わせられたという感じでした」というDF松本大地(3年)が、MF廣井蘭人(2年)の右CKにインサイドで合わせて、帝京長岡が前半終了間際に1点を返す。「前半で1点返せたのは、自分たちも『行ける』という気持ちになれたので、大きかったなと思います」とはキャプテンのMF三宅凌太郎(3年)。1点差で最初の40分間が終了する。

 さらに見逃せないビッグプレーは後半4分。日本文理はMF塩崎温大(2年)の左ロングスローに相澤が競り勝つと、河合のシュートはGKを破るも、三宅がゴールライン上でボールを掻き出す。「後から考えるとよくヘディングできたなと。身体が勝手に動いたような感じで、ちょっと自分でもビックリしました(笑)」。キャプテンが“超ファインセーブ”でチームを救う。

 9分。帝京長岡は右サイドの深い位置で三宅がボールを収め、後ろに下げたボールを、MF佐々木奈琉(3年)が完璧なクロス。「アレは普段通りにいつも練習をやっているので、絶対に『あそこにクロスが飛んでくるな』と思って、中に入ったら飛んできてくれて、あとは決めるだけでした」と振り返るMF岡村空(2年)のヘディングがゴールネットを揺らす。2-2。スコアは振り出しに引き戻される。

 18分。帝京長岡が右サイドで手にしたFKのチャンス。「もらった瞬間、『これはオレが蹴る』って。いつも蘭人と岡村が蹴っていたんですけど、『これは自分が行くしかないな』と思って、自分で蹴りました」。9番を託されたFW渡辺祐人(3年)が右足で打ち抜いたボールは、右スミのゴールネットへ豪快に飛び込む。3-2。スコアは引っ繰り返った。

 日本文理も諦めない。34分。前線に上がっていた齋藤が渾身の左クロスを送り込むと、MF曾根大輝(3年)がフリーで合わせたヘディングは、しかし枠の右へ外れてしまう。思わず頭を抱え、倒れ込む青い選手たち。その5分後の39分。再び佐々木の右クロスから、途中出場のFW松山北斗(2年)がきっちり4点目を陥れ、激闘に終止符。「『自信を持ってやってきたことをやりきろう』と。1点獲られても、2点獲られても、自分たちの目指すサッカーをきちんと共有しようというところは、凄く浸透してきているかなと思います」と古沢徹監督も言及した帝京長岡が、圧巻の逆転勝利で県4連覇にまた一歩近付く結果となった。

「去年の選手権の本大会も4試合中3試合は、先にビハインドを負ってからの試合で、準決勝の山梨学院戦も2点ビハインドから追い付きましたし、そこに立っていた選手も5,6人いたので、その経験は大きかったと思います」という三宅の言葉通り、何度も苦境に立たされた経験を持つ帝京長岡の選手たちの落ち着きが印象的だった。

 実は準々決勝の新潟西高戦も先制点を許す展開から勝ち切ったが、その試合後にチームはあることを共有していたという。「前回の試合で先制された後の雰囲気に対して、谷口先生から『アレはダメだ』というふうに言われて、そうなった時にどうするかという部分で、あらかじめ何を声掛けするのかというところまで決めておいた方が良いと言われたんです」(三宅)。あらゆる状況を考え、あらゆる手段を準備する。徹底した谷口哲朗総監督の勝負に対するこだわりは、確実に選手たちへ浸透していた。

「逆境にも強くなってきたというか、シーズン当初はどうなるのかなという形ではスタートしたんですけど、徐々に徐々にウチらしくなってきたかなと。粘り強さが出てきたかなというところで、それもやっぱり去年一昨年の経験をうまく生かして、今年のチームらしくなっていっているのかなと思います」と話す古沢監督も、やはり選手権で全国を経験することの意味を強調する。

「毎年、選手権は特別で、選手を成長させてくれる場で、1試合が練習試合の15試合、20試合分の価値を生み出すというか、やっぱり目に見える以上の成長が図れる大会で、選手には本当に経験してもらいたいなと思うので、意地でもあと1勝したいですね。本当に良い舞台ですから」。

 1点や2点のビハインドで、積み上げてきた自信は揺るがない。上手くて、強い帝京長岡。全国までは、あと1勝。

(取材・文 土屋雅史)

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