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[MOM3649]中津東GK石川由覇(3年)_ 不得意なPK戦のイメージを一変させた試合中のビックセーブ!旧友の想いを背負って、決勝の舞台へ

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中津東高GK石川由覇(3年)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[11.6 選手権大分県予選準決勝 大分高 1-1(PK1-3)中津東高 大分スポーツ公園サッカー場]

 チームを救ったのは、PKが苦手な守護神だった。

 GK石川由覇(3年=FC中津グラシアス2002)にとって、PKは鬼門。大会前の練習でほとんど上手くいかず、「自信がなかった」と本人が言えば、エースの吉岡流星(3年)も「練習でも止めているところはあまり見たことがない。2日に1本止めるぐらいのレベル」と証言するほどだった。

 自他共に認める苦手なPK。しかし、準決勝は違った。相手が2本続けて外して迎えた3本目。MF吉川獅子心(2年)が放ったシュートに対し、脇目も振らずに右へ飛ぶ。気が付けば、ボールは自身の腕に当たっていた。

 元々PKは相手の動作を見てコースを予測するのではなく、「何も駆け引きをしてこなければ、自分の直感を信じて飛ぶタイプ」(石川)。無我夢中で自分が信じた方向に身体を移動させ、ボールに飛び込んだ。

 前日までの練習を踏まえれば、メンタル的に追い込まれてもおかしくない。しかし、石川はPK戦をポジティブに捉え、今までにない自信を持っていた。その理由は大分戦の出来にあったという。

「今日は試合中から当たっていたので、PK戦は止められる気がしていた」

 特に自信を深めたのが、延長後半7分にあったファインセーブだ。ゴール前で崩され、吉川に至近距離でシュートを放たれる絶体絶命の大ピンチ。石川は何度も動画を見ていた憧れのテア・シュテーゲン(バルセロナ)を参考にし、前に出るブロッキングでチームを救った。

 チームの危機を救う最高のシュートストップに、チームメイトも賛辞を惜しまない。このプレーを見た吉岡も、「最後にシュートを止めた場面を見て、あいつがPK戦でやってくれる雰囲気があった」と言うほどのビックプレーだった。

 終盤の好プレーがきっかけとなり、気分が乗った石川はPKで堂々たるパフォーマンスを披露。2本目のキッカーとして登場した相手GK塩治晴士(3年)に対しては、駆け引きを行うほどの余裕を持っていた。

「相手も緊張している中で、どうすればやりづらくできるかを考えていた。そこで僕から話しかけたんです。相手のリズムを崩したかったので、『どっちに蹴る?』って聞きました」(石川)。

 中学時代からの顔見知りだったこともあり、相手も笑顔で答えていたが、普段の石川からは想像できないほど、メンタルが充実していたのは間違いない。その結果、相手のキックはバーに阻まれた。

 ヒーローになった石川だが、準決勝を突破したことで全国舞台に出場する理由がもう一つできたという。それがPKで直接対決した相手GK塩治の存在だ。中学時代に大分サッカー協会が主催するGKプロジェクトで知り合った塩治から、試合後に「お前のおかげで成長できた」という言葉でエールを送られた。

 それに対し、石川が返した言葉は「ありがとう」の一言。「勝った側なので、(相手の心情を考えて)多く話すことは違う」と感じ、伝えたかった言葉は封印した。

 旧友の想いには、決勝で勝利を掴んで応える──。苦手なPKを乗り越えた男は準決勝以上のプレーを見せ、チームの勝利に貢献するつもりだ。

(取材・文 松尾祐希)
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