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「太陽のために日本一を」。新たな使命を帯びた青森山田は、八戸学院野辺地西に先制を許すも逆転勝利で青森25連覇!

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青森山田高は逆転勝利で堂々の青森25連覇を達成!

[11.7 選手権青森県予選決勝 青森山田高 5-1 八戸学院野辺地西高 カクヒログループアスレチックスタジアム]

 一口に25年と言っても、当事者にとってはその長い年月で経験してきたことなど、そう簡単には語れない。勝って、勝って、勝ち続けても、不安で、苦しくて、悩みだって尽きない。それは青森の常勝軍団にとっても、例外ではないだろう。

「今年で25年連続での優勝とはいえ、いろいろな重圧が掛かる中で、いろいろなOBたちの顔もよぎるし、『ただ25年目を迎えている』という話ではなくて、震えが止まらなくなるような年にはなってしまったんですけど、この2年間は全国準優勝という形で苦い思いをして、今年があるので、三冠を狙えるように良い準備をしていきたいなと思います」(青森山田高・黒田剛監督)。

 終わってみれば、盤石の青森制覇。7日、第100回全国高校サッカー選手権青森県予選決勝は、5年連続の同一カード。インターハイの全国王者・青森山田高と、その絶対王者の打倒を掲げ続けている八戸学院野辺地西高が対峙した一戦は、前半13分に八戸学院野辺地西がショートコーナーからMF工藤悠晟(3年)が先制点を奪う波乱の幕開けに。だが、その2分後にMF田澤夢積(3年)のゴールで追い付いた青森山田が、その後は4点を奪って5-1で逆転勝利。県予選25連覇を達成している。

 試合は衝撃のスタートとなった。前半13分。右サイドで八戸学院野辺地西が奪ったCKは、「子供たちも一生懸命トレーニングでやってきたデザインプレー」(三上晃監督)。レフティのMF村上大地(3年)がショートで始めると、受けたMF町家紅斗(3年)が上げたクロスに21番が飛び込む。

「あそこは来ると思っていなかったんですけど、ステップで剥がして、マークが付けない感じにしました」。工藤がフリーで頭に当てた軌道は、そのままゴールネット左スミへ吸い込まれる。「練習ではやっていたんですけど、ビックリしました。『あ、入った』という感じで、メッチャ嬉しかったです」。3バックの中央に入ったディフェンスリーダーの先制弾。八戸学院野辺地西が、先にスコアを動かした。

 ただ、王者は慌てない。インターハイ決勝でも同じような時間帯で米子北高(鳥取)に先制点を奪われ、苦戦した経験を持っている彼らは、至って冷静だった。「たとえ点数を入れられても、自分たちらしいサッカーをすれば勝てるということはみんなが思っていたことなので、焦らなかったですね」とはキャプテンのMF松木玖生(3年)。まさかの失点から2分後の15分。MF藤森颯太(3年)が蹴った左CKから、最後は成長著しいMF田澤夢積(3年)のボレーが、ゴールネットを揺らす。

「1-0でずっと凌げればいいのかなと思っていたんですけど、そう甘くはなかったです」(工藤)。追い付いた青森山田は、20分にもMF小原由敬(3年)のラストパスから、松木に決定機。ここはGK佐々木稔斗(3年)がファインセーブで凌いだが、右からDF齋藤晃葵(2年)、工藤、DF布施颯大(2年)が並ぶ3バックを中心に粘り強く守っていた八戸学院野辺地西が決壊したのは28分。

 伝家の宝刀・ロングスローを投げたDF多久島良紀(2年)が、こぼれを自ら拾って丁寧な右クロス。これにFW名須川真光(3年)がドンピシャのヘディングでゴールを陥れる。「1-1で折り返せれば良かったんでしょうけど、勝ち越されてしまったので、そこに山田さんの強さがあったなと思います」(三上監督)「先に先制点を食らっても、そこから同点、逆転と良いテンポで決めることができたのは良かったところかなと思います」(松木)。この青森山田の2点目が、勝負の大きな分水嶺だった。

 ハーフタイムを挟むと、いつもの青森山田が帰ってくる。後半9分には細かいパスワークから、藤森、小原と繋いだボールを、松木が押し込んで3点目。17分にも右から藤森が上げたクロスに、逆サイドから飛び込んだ田澤がこの日ドッピエッタとなる4点目。「クロスに逆サイドが“蓋”をする」というチームの約束事を、青森出身コンビがきっちり披露する。

 八戸学院野辺地西もキャプテンのMF木村大輝(3年)、町屋、MF佐々木琉矢(3年)で組んだ中盤トライアングルの配球から、何とか反撃を試みるも、「強さと速さの部分でやられていく」(三上監督)流れに抗えない。40+3分には松木が蹴った右CKをニアでFW小湊絆(2年)がすらすと、ファーに詰めたDF三輪椋平(3年)が5点目をゲット。ファイナルスコアは5-1。八戸学院野辺地西の先制も実らず、王者が四半世紀に渡って支配し続けてきた青森の覇権を、今年もきっちりと手に入れる結果となった。

 実は3日前、青森山田にはショッキングな出来事が起こっていた。不動の右サイドバックとして、シーズンスタートからチームを支え続けてきたDF大戸太陽(3年)がトレーニング中に負傷。左ひざ前十字靭帯断裂の大ケガで、一足早く高校サッカーに幕を下ろすこととなってしまう。

 この日は本来左サイドバックを務める多久島を右に回し、MF小野暉(3年)が代役を務める格好になったが、普段からセットプレーの際には一際大声でチームを鼓舞するなど、大戸はピッチを離れても笑顔の目立つムードメーカーだけに、チームメートの受けたショックは想像に難くない。

 チームの3点目を自ら決めた直後。松木は10番の下に着込んでいた、大戸が付けている“2番”のユニフォームをカメラに向かってアピールする一幕も。「太陽自身もこの時期のケガで凄く難しい部分はあっても、落ち込むことなく自分たちのためにいろいろ準備してくれたり、良い声掛けをしてくれたので、自分だけではなくて、他の選手もかなり痛いと思っているところではありますけど、太陽のためにも今後の試合も全部勝っていきたいと思います」と盟友について語っている。

「大戸も選手権の全国で優勝するために青森山田に入学してきた男で、『新国立競技場に何としても彼を連れていってあげたい』という想いはありますので、いなくなったことは痛手ではありますけど、これでさらにチームが1つになれればいいなと思いますし、大戸のために『何としてもオレたちは負けられない』というメッセージは刻まれたと思います」(黒田監督)。

『太陽のために日本一を』。また1つ大きな使命を帯びた絶対王者。2年連続で準優勝の悔しさを味わっている青森山田が、頂点だけを見据えた冬の全国へ再び帰ってくる。

(取材・文 土屋雅史)

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