beacon

[MOM3659]青森山田MF宇野禅斗(3年)_「目立たない凄味」の究極形。いつでも効いている常勝軍団の名ボランチ

このエントリーをはてなブックマークに追加

青森山田高MF宇野禅斗は優勝カップを手に笑顔

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[11.7 選手権青森県予選決勝 青森山田高 5-1 八戸学院野辺地西高 カクヒログループアスレチックスタジアム]

 ゴールを奪うわけではない。アシストを記録するわけでもない。ただ、いつだって相手がここだと思った場所には、この男が立ちはだかり、気付けばボールは根こそぎ刈り取られている。

 高校年代屈指のボランチ。青森山田高MF宇野禅斗(3年=青森山田中出身)は、青森25連覇が懸かったこの日のピッチでも、実に効いていた。

 5年連続で同一カードとなった、八戸学院野辺地西高との決勝戦。試合は意外な形で幕を開ける。前半13分。完全にデザインされたショートコーナーから、ヘディングをゴールに流し込まれる。チームのキャプテンを務めるMF松木玖生(3年)も「たぶん今年に入って、初めてセットプレーでやられたと思います」と言及したように、なかなか見られないセットプレーからの失点で、いきなりのビハインドを強いられる。

 だが、チームは慌てない。失点の2分後にMF田澤夢積(3年)のゴールで、すぐさまスコアは振り出しに引き戻されると、ジワジワと八戸学院野辺地西の気勢が削がれていく。トレスボランチ気味に配した中盤も、なかなか青森山田陣内に迫れない。ここでにらみを利かせていたのが、宇野だった。

 バイタルエリアへと送られてくるボールをことごとく回収したかと思えば、シンプルなパス捌きで攻撃のリズムを作っていく。盟友の松木とのバランスは、いつも通り絶妙。少し下がり目の位置で、ピッチ全体を監視しつつ、水漏れしそうな場所にはいち早く駆け付けて、きっちり“補修”してしまう。

 八戸学院野辺地西を率いる三上晃監督も、思わず感嘆の声を上げる。「松木や宇野が一番ボールを受けて、一番走っていたと思うので、そういうサッカーで大事な“走る”部分は我々もやってきているつもりですけど、山田とやると『もっともっとやらなくてはいけない』と、改めて感じますね」。

 逆転してからは、さらに存在感が増していく。「どれだけ自分がディフェンスラインと前線の繋ぎ役として、試合運びに関わったり、攻撃の起点になれるかというのを考えています」と以前から話しているように、試合のペースをコントロールするのも大事な役割。急ぎ過ぎず、ゆっくりし過ぎず、ちょうど良いタイミングで、縦へ、横へと、ボールを配っていく。

 3点をリードした後半32分には、スタジアムを沸かせる。田澤からボールを受けると、少しドリブルで運びつつ、ミドルレンジから右足一閃。強烈な弾道は左のゴールポストを直撃したものの、チームメイトが陣取るバックスタンドだけではなく、メインスタンドからも驚きの声が上がっていた。

 結果は5-1の快勝。「もっと行ける場面もあったと思うんですけど、基本的には青森山田のサッカーは失点をしないということをテーマに掲げてやっていますので、リスクを負わずに、しっかりとボールを保持しながら、隙あらば1点、隙あらば1点、という形で、そこはコントロールしてやれたかなと思います」と黒田剛監督も語った“コントロール”が、もちろん宇野を念頭に置いていたことは言うまでもないだろう。

 ピッチを離れれば、サッカー談義好きの高校生。言語化にも優れており、頭をフル回転させてプレーしていることがよく分かる。口を開けば、挙がるのは大半が課題の部分。「まだまだ」というおなじみのフレーズが頼もしい。

 高校最後の冬。昨年度の全国ファイナルで味わった悔しさは、成長の糧として常に自分の中で燃やしてきた。三冠を目指す青森山田の名ボランチ。宇野から発せられる“目立たない凄味”がチームを救うタイミングは、今回の選手権でもきっと来るに違いない。

(取材・文 土屋雅史)

●【特設】高校選手権2021
▶高校サッカー選手権 地区大会決勝ライブ&アーカイブ配信はこちら

TOP