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希望の背番号勝ち取り、浦添を力強く引っ張ったFW伊佐直斗。3度目の準決勝挑戦は雷雨中断、連続失点、それでも…:沖縄

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浦添高FW伊佐直斗は
1-5から意地のゴールも……

[11.6 選手権沖縄県予選準決勝 西原高 6-2 浦添高]

 82年に県選手権で初優勝し、その第61回大会以来の全国出場を目指した浦添高だが、準決勝での西原高との一騎打ちに敗れ、もう一歩のところで涙をのんだ。

 今年2月の新人戦、そして5月のインターハイでベスト4入り。強豪10チームがひしめく県リーグ「波布リーグ」でも1部に所属し、日々実力をつけてきた。また遡って17年には宜野湾高に敗れるも選手権準優勝を飾っており、その姿を間近でみた地元の子供たちが浦添でプレーすることを希望し集結。志を立てて、夢のステージを目指していた。

「小学校の知り合いもたくさんいますし、中学から面識のある人たちも数多く集まっていたので、入学したときから仲良くなるのは早かったです」。そう話したのは背番号10を背負ったFW伊佐直斗(3年)。同学年で切磋琢磨しながら連携を太くし、団結心を高めてきたと話す。昨年の選手権予選は名護高にPK戦で敗れ、悔し涙が乾くまもなく新チームが始動。そのチームの中心となりたい思いから、伊佐は新人戦開幕を控え、宮崎貴士監督に背番号10のユニフォームで戦いたいと直訴する。

「自分にその番号を背負って戦える資格があるのか。新人戦で結果を残さなければきっぱり諦めようと思っていました」。目に見える結果を生み、チームを勝たせることがFWの仕事。自分にそう言い聞かせながら仮の10番を背負った彼は、準々決勝の西原戦で大役を果たす。右FWに立ち、カウンターの起点となって再三仲間たちから集まるボールをコントロールすると、0-2のビハインドの展開から自らの右足で追撃弾を決める。さらに右サイドで相手マーカーを剥がして即座に送った斜めのパスが同点ゴールへとつながり、直接2点に絡む活躍を見せた。その後チームは逆転し、さらにダメ押しゴールまで生まれ4-2で西原に勝利。続く準決勝では那覇西高に1-2で敗れたものの、この試合でも伊佐は左足からの強烈なミドルシュートを突き刺し、エースとしての存在感を遺憾なく発揮した。

「フィジカルを生かしたダイナミックなプレーを常に求めていた」と話す宮崎監督。かつてはセンターフォワードだったという伊佐は中学時代から「大迫勇也選手に強い憧れを持っていて、(鹿児島城西高時代の)映像は何度も繰り返して見ていました。たくさん点を決めて、みんなに頼られるような選手になりたかった」と話す。

 培われたセンターフォワードとしての責任感が得点感覚を磨き、それは右FWに移ってからもゴールへの追求は変わらない。なおかつ「自分の特長である強引な突破力を生かしたい」という思いで相手を剥がしチャンスを生み出せばカットイン、そしてダイアゴナルに走りゴールに迫るシーンを強調させプレーの幅を広げていった。彼にボールが渡った瞬間から生まれる全体の推進力は確かな攻撃力アップへとつながり、「自分が引っ張ろうという気持ちが強くなった」と新人戦で手応えを掴んだ伊佐に対し、指揮官はチームの象徴として希望の背番号を正式に与えた。

 責任感を覚えた彼にのしかかったのがベスト4の壁である。新人戦は那覇西、そして5月のインターハイは那覇高に準決勝で敗れていた。そして迎えた最後の選手権。初戦の豊見城南高(15-0)、続く日本ウェルネス高沖縄キャンパス戦(5-2)で順当勝ちし、かつて那覇西を指揮した松田邦貴監督率いる具志川高を相手にも2-1と接戦をモノにし、今年3度目の準決勝進出となった。

「次こそは、絶対に」という思いを抱いた伊佐は、新人戦で逆転勝ちを演じた西原との再戦に挑むことに。しかし試合当日、目の前に想定外の敵が現れる。午前10時に開始された試合は、13分が経ったところで落雷が発生し一時中断。雷鳴轟くたびに20分の中断時間が追加され、結局試合が再開されたのは午後12時52分。約2時間40分の中断となった。

「かなり時間が空いたので、体の調子などをしっかり高めた状態のなかで待っておかないといけなかった。そこが少し難しかったです」。再開を今か今かと待ち続けながらも一向に回復する気配のない雨空を眺めながら冷え切った体を温め直した伊佐だったが、一度キレた集中力を再び取り戻すには容易ではない。浦添自陣でのスローインから再開されると、強烈プレスを仕掛ける西原にボールを奪われ、CBの間を突く相手FW座覇駿(3年)に先制点を許す。その5分後にはセットプレーからMF中本耕(3年)に2失点目を喫し、32分と38分にもゴールを奪われた。「立ち上がりは悪くなかった」と伊佐。しかし中断明けの「ミスのひとつひとつが失点につながってしまい、気づいたら4失点していた」と、思わぬ落とし穴から抜け出せないまま前半を終えた。

 しかし、難しいメンタル状況においても「切り替えてひっくり返そう」と一致団結して臨んだ浦添。新人戦で0-2から4点を奪い返して西原に勝った記憶は、決して諦めない不屈の精神となる。開始早々にに失点し点差を広げられても気力を失わず、後半9分にコーナーキックからMF上原緑生(3年)がヘディングで1点を返す。さらに2分後の後半11分、左サイドでつないだパスをエリア内でFW崎山真(3年)がシュート。一度はGKに弾かれるも、こぼれ球を右から進入した伊佐が押し込み、点差を3点に縮めた。

「自分が決めたときは本当に行けるんじゃないかと。そう思いながらチーム全体でしっかりと前向きにやりました。でも、後が続かずに点を返しきれなかったのはとても悔しいかったです」。

 ひとり前線に留まり、西原の猛攻に受けて立つ仲間たちからのボールを待ち続けた伊佐の信心は切れずとも、その後追い打ちの1点を奪われ2-6で敗戦。浦添でのプレーに終止符が打たれた。

 悔し涙を流す選手たちとともに目を赤くする伊佐は、3年生18人とともに過ごした時間を振り返る。「他の高校と違ってあまり部員数も多くないですが、人数少ない分一人ひとりの関係性が密接になっていたのでみんな仲良く3年間を過ごせました。浦添でのサッカーはとても楽しかったです」。

 今後の進路については、沖縄国際大への入学が決まっているという。ただ「大学で続けるかどうかは選手権が終わってから決めようと思っていたんですが、正直まだ悩んでいます。もう少し頭を冷静にしてから判断しようかなと思っています」と“本気のサッカーから卒業する”選択肢を残しながらも、再びスパイクを履いてピッチに立ちたいという思いを交差させている。

 浦添のために頂点を目指し続けた彼の姿は間違いなく今年の沖縄高校サッカー界にインパクトを残した。

(取材・文 仲本兼進)
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