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『今日頑張った子供たち』と『今まで頑張った人間』の成果。黄色の伝統を纏い始めた関東一が大成を振り切り、4度目の全国切符!

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真面目な世代が堂々の東京制覇!関東一高は4度目の全国切符!

[11.13 選手権東京都予選Bブロック決勝 関東一高 2-0 大成高 駒沢陸上競技場]

 真面目に取り組んでも、なかなか結果が出なかった。こんなはずじゃないと、悔しい想いを抱えてきた。でも、諦めなかった。自分のことも。仲間のことも。

「1回戦から非常に苦しい大会だったので、本当に選手の成長を感じ取れるような大会でしたし、この決勝の中でも選手たちは非常に落ち着いて戦ってくれたので、誇りに思っております」(関東一高・小野貴裕監督)。

 伝統が紡いだ4度目の栄冠。13日、第100回全国高校サッカー選手権東京都予選Bブロック決勝、2大会連続での全国出場を目指した関東一高と、初の東京制覇を狙う大成高が対峙した一戦は、後半にキャプテンのDF池田健人(3年)とFW本間凛(2年)がそれぞれゴールを奪った関東一が2-0で勝利。逞しく連覇を達成している。

「関東一さんが5バックで来るとは予想していませんでしたが、それでも前半は完全にウチのゲームができました」と話したのは大成を率いる豊島裕介監督。前線のFW田中ハーディー啓秀(3年)とFW原輝斗(3年)を基点に、右のMF上村和輝(3年)、左のMF中村浩太(2年)とサイドハーフが積極的にボールへ関わり、セットプレーから相手ゴール前を窺う。

 ただ、関東一も守備面には実戦を重ねることで培ってきた自信があった。「3バックにしている分、守備は厚くなりますし、そこで安定感をもたらすというのはずっとやってきていて、結果としてもリーグ戦も最少失点でやれているので、そこは一番良いところかなと思います」と話したのは池田。MF堀井榛人(3年)、池田、DF矢端虎聖(3年)で組んだ3バックに、DF川口颯太(1年)とMF若松歩(3年)と左右のWBも時には最終ラインに組み込みつつ、ゲームの安定を図っていく。

 32分は大成にチャンス。右SB多和田鳳月(2年)のパスから、右サイドを抜け出したMF木原銀之介(3年)が放ったシュートは、間一髪で池田がブロック。37分も大成。田中が右へ振り分け、上村のクロスがこぼれると、走り込んだ田中のボレーは枠の上へ。「自分たちのペースで試合が進んでいる中で、なかなか点が獲れなくて……」とはキャプテンマークを託されたMF高山築(3年)。大成が押し気味に進めた最初の40分間は、スコアレスで推移する。

 後半2分。関東一は右から川口がクロスを上げると、若松が完璧なヘディングを右スミへ。ここは町田内定の大成GKバーンズ・アントン(3年)が驚異的な反応で何とか掻き出したが、引き込むシーンも多かった両WBで作った決定機。「『後半勝負になるだろうな』というのは、何となく前半の途中ぐらいから分かっていた」と小野監督も話した関東一が、1つのチャンスで一気にゲームの雰囲気を変える。

 14分。周到な準備が実る。関東一が右サイドで獲得したCK。MF肥田野蓮治(3年)がグラウンダーで蹴り込んだキックを若松はスルー。受けた池田はもう一度右へ戻す。再び肥田野が得意の左足で優しくクロスを上げると、ニアに潜り込んだ池田のバックヘッドがゴールネットへ吸い込まれる。「まさか自分がこの決勝でゴールを決めるとは思っていなかったんですけど、やっぱり今までの積み重ねがこのゴールに繋がったのかなと思います」と話したキャプテンの先制弾。スコアが動いた。

 自分たちの時間帯で挙げた「勇気を与える1点」(小野監督)が、関東一にもたらす効果は絶大だった。MF藤井日向(3年)とMF湯田欧雅(2年)のドイスボランチも巧みにバランスを取り、全体のラインも高めに設定。大成も交代カードを切りながら、システムも4-4-2から3-4-3にシフトさせ、前に人数を掛けるものの、シュートシーンを生み出せない。

 勝負を決めたのは2年生ストライカー。34分。肥田野が左サイドへ浮き球でラストパス。走った若松は飛び出したGKの位置を冷静に見極めながら、中央へのクロスを選択する。待っていた本間のヘディングが揺らしたゴールネット。「成長過程の選手ではありますけれども、だいぶ今年1年間掛けて成長してきてくれました」と指揮官も評価を口にした本間はこれで驚異の4戦連発。ファイナルスコアは2-0。関東一がインターハイ予選で敗れた大成にリベンジを果たし、4度目の全国切符を手繰り寄せた。

 東京王者という肩書を引き継いでスタートした今年度の関東一が辿ってきた道のりは、決して楽なものではなかった。「関東大会もインターハイも悔しい負け方をして、特にこの2年間はコロナ禍があるので、3年生も考え方が凄く保守的になっちゃうというか、真面目な子たちも多い代なので、本当はもっと夢を見ていいところも、現実的に行くようになったんですよね」と小野監督。いろいろな状況が絡み合い、思うようにチームビルディングは進まなかった。

 だが、3年生の真面目さは武器でもある。「賢い子たちが多いですし、こちらが言ったことをちゃんと自分で1回処理してくれますし、『わかんないや』って投げ出さないような、思慮深い子たちが多いのは魅力ですね」(小野監督)。キャプテンの池田を筆頭に、地道に日常の努力を積み上げられる忍耐強さが、今年のチームには間違いなく備わっていた。

 それに加えて、指揮官が感じたのは“先輩たち”と築いてきた伝統の重みだ。この11年間の選手権予選で6度目の決勝進出。最初の2回はPK戦と終了間際の失点で敗れたものの、以降はすべてのゲームで苦しみながらも最後には勝利を収め、全国への出場権を手にしてきた。

「今回の選手権は今までずっと4試合アウェイの白のユニフォームでやってきて、今回やっと黄色のユニフォームを着れて、何となくですけど『ウチのチームでちゃんと全国大会を目指していいんだ』と言われたような気がして。ウチのチームに来たら全国大会に行くということは、前みたいに漠然としたものではなくて、どういうふうに頑張るとどれくらいの距離にいるのかというのを、景色として理解ができ始めた結果が、積み重ねてきたものとして、我々を支えてくれたんじゃないかなと思っているので、今日に関して言うと、『今日頑張った子供たち』と『今まで頑張った人間』の成果かなと思います」(小野監督)。

 過去3度の全国では、まだ2回戦の壁を突破できていない。「普通じゃない2年間があって、こうやって今サッカーをやらせてもらっていることもそうですし、環境を準備してくださっている方がいる中で、それにプラスして高校サッカーとして積み重ねてきた100年の大会になるので、まずは感謝の気持ちを持ってこの大会に臨みたいと考えています。昨年も2試合とも先輩が良い内容のサッカーをやってくれたので、今年は良い内容と勝利を結び付けられるように、胸を張って全国大会に行きたいなと思っています」と語る思慮深い指揮官と、思慮深い選手たち。関東一はこれまでと変わらず現実的に、それでいて確かな自信を携え、新たな歴史を築くための大舞台へ歩みを進めていく。

(取材・文 土屋雅史)

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