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覚悟のレッドカード。大成GKバーンズ・アントンはかけがえのない仲間との思い出を胸に未来へと歩み出す

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大成高GKバーンズ・アントン(1番)にとって小山飛来(22番)と永田陸(12番)は最高のライバル

[11.13 選手権東京都予選Bブロック決勝 関東一高 2-0 大成高 駒沢陸上競技場]

 タイムアップの瞬間は、ピッチの外で迎えた。レッドカードを提示され、盟友にゴールマウスを託した後も、チームの勝利を信じて疑わなかった。悔しさがないと言ったら嘘になる。でも、この高校で過ごした3年間は掛け値なしに楽しかった。それはもちろん、この日の決勝も。

「去年の決勝はベンチから見ているだけで負けて終わってしまったので、今年は自分が出ている中でここまで来られたというのは本当に大きいですし、本当に楽しかったですし、関東一高さんも素晴らしいサッカーをしていて、本当に素晴らしい時間を味わえて、悔しいですけど、本当に楽しませていただいたなと思って、感謝しかないです」。

 大成高のゴールマウスを託された守護神。GKバーンズ・アントン(3年=FCトリプレッタJY出身)は仲間との大切な思い出を胸に、プロサッカー選手として新たな未来へ歩み出していく。

 2年連続で進出した東京ファイナル。昨年は盟友のGK永田陸(3年)が出場しているピッチをベンチから見つめ、チームの敗退を突き付けられたバーンズは、1年越しでこの舞台に立つ。立ち上がりから大声で仲間を鼓舞しつつ、安定感あふれるプレーでチームに落ち着きをもたらしていく。後半2分には決定的なピンチを迎えたが、驚異的な反応でビッグセーブ。失点を許さない。

 後半14分にスコアは動く。関東一のデザインされた完璧なセットプレーで、ゴールを陥れられた。だが、バーンズはすぐに気持ちを切り替える。「この3年間で自分は気持ちの部分が一番変わりましたし、メンタル面も本当に強くなったと自分では思っているので、今日1失点した後も、1年や2年の頃だったら『マジか……』となっていたと思うんですけど、全然そんな感じじゃなくて、『行ける!』と思って、獲られた後もすぐにボールを返して、『オレらなら点を獲れるぞ、勝てるぞ』と言い続けました」。

 34分には2失点目を献上すると、39分にも大ピンチが到来する。ゴールを奪いに前掛かったチームの裏を突かれ、相手のFWにフリーで抜け出された。

「みんなが中に入っていて、自分もハーフウェーラインよりちょっと前ぐらいまで出ていて、全部カバーしようと思ったんですけど、相手に収められてしまって、下がりながらだったので『これは打たれたら止められないな』と。ファウルでも何でも意地で止めようと思って立ち止まったんですけど、相手が意外と早く打ってきて。身体で止めることもできたのかなという想いも、今から思えばあるんですけど、『絶対ここはやられちゃダメだ』と思って、身体を投げ出しました」。

 ペナルティエリアの外で手を使ってシュートを止めたバーンズに、赤いカードが提示される。決定機阻止による一発退場。大成のゴールを永田に託し、ピッチを後にする。その数分後。ピッチにタイムアップのホイッスルが鳴り響く。バーンズの、大成の想いは、届かなかった。

 永田とGK小山飛来(3年)。同じ学年に集った2人の実力者と、3年間に渡って切磋琢磨し続けてきた。アイツらがいたから、成長できた。アイツらがいたから、いつだって楽しかった。今になって一緒に過ごした時間の大切さが、より強い輪郭を伴ってくる。多くの言葉はなくても、お互いの想いは伝わっていた。

「1年生から3年生まで3人一緒にやってきて、2人とも最高の選手ですし、本当に最高のライバルがいたから自分はここまで成長できましたし、キツい練習も乗り越えましたし、アイツらがいて良かったなって。たぶんあの2人と一緒じゃなかったらここまで自分は来れていなかったですし、もしかしたら試合にも出ていないと思います。あの2人が心の救いでもあって、サッカーにおいても尊敬する存在でしたし、2人には本当に感謝しています」。

 中学時代はなかなか試合に出られなかった。高校の3年間も決して順風満帆な日々を過ごしてきたわけではない。そんな自分がプロサッカー選手を職業にするまでに成長できたのは、間違いなく大成で最高の仲間たちと重ねた日常のおかげであることは、あえて言うまでもない。卒業後はFC町田ゼルビアに加入。ここから先のバーンズは仲間の想いも背負い、自らが思い描いている夢に向かって突き進んでいく。

「次の舞台では今日の悔しさを糧にして、町田で正GKの座を獲って。世界に羽ばたいていけるような選手になりたいです」。

 最大の目標だと語るUEFAチャンピオンズリーグの舞台にもしも辿り着いた時、きっとその脳裏に甦るのは、このキラキラと輝いていた大成での3年間の思い出だ。永田と小山とじゃれ合っていたグラウンドでの光景だ。バーンズの未来はこれからも、いつだって苦楽をともにしたかけがえのない仲間との記憶に彩られていく。

(取材・文 土屋雅史)

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