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古巣相手に笑顔のプレミアデビュー。青森山田GK鈴木尋が小平のピッチで体感した“3分間”の意味

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古巣相手にプレミアデビューを飾った青森山田高GK鈴木尋

[12.5 プレミアリーグEAST第18節 FC東京U-18 0-2 青森山田高 FC東京小平G]

 準備はできていた。いや、いつだって準備はできている。ウォーミングアップの時も、アップエリアから試合を見つめている時も、自分がゴールマウスに立つイメージを欠かしたことなんて一度もない。それでも、この一戦のピッチは、やっぱり特別だ。

「ずっと深川の時代から憧れていたピッチでしたし、そこで相手がFC東京というチームで、こういう環境でできたことには本当に感謝したいし、嬉しいものがありました」。

 後半45+2分。3年間一緒に努力を重ねてきたGK沼田晃季(3年)とハイタッチを交わし、青森山田高のGK鈴木尋(3年=FC東京U-15深川出身)は笑顔でゴールマウスへと駆け出していく……。

 ずっとこの日を楽しみにしてきた。12月5日。小平。相手はFC東京U-18(東京)。かつての仲間と、お世話になった指導者の方々と、久しぶりに再会するチャンス。FC東京U-15深川で育った鈴木にとっては、憧れたグラウンドであり、目指したグラウンドでもある。

「古巣との対戦ということで、まずは『楽しみだな』とはここに来る前からずっと思っていて、昨日の夜も結構ソワソワしながら寝ていましたね(笑)。あえて連絡を取らないで、いろいろな話は今日に取っておこうと思いました」。旧友には連絡しなかったという。

 いつも通り、沼田と2人でウォーミングアップに向かう。「自分は今までも全部の試合で出られると信じながらアップもしてきましたけど、特に『今日はあるかな』とはちょっと思っていました」。素直な告白に、等身大の高校生らしさが滲み出る。

 前半で2点のリードを奪った青森山田は、後半もきっちりとゲームをコントロールしながら時計の針を進めていく。そして、後半もアディショナルタイムに差し掛かろうかというタイミングで、“12番”のGKにベンチから声が掛かる。

「後ろを振り返って、『誰を出そうかな』と思った時に出たそうな顔をしていたしね(笑)」(黒田剛監督)。強い想いは指揮官に通じた。後半45+2分。ようやく訪れたプレミアリーグデビューの瞬間。その表情には満面の笑みが広がっていた。

「山田に来た意味というのをしっかり見せようと。勝っている状況だったんですけど、そこでしっかり自分も失点ゼロで抑えてとプレーのことも思っていました。あとは、自分もずっと明るいキャラだったので、『良い意味で「変わらないな」というのを見ている人に思ってもらえたらな』とは考えていましたね」。



 試合を見つめていた観衆からは「尋、笑ってるじゃん」という声も。きっちり“無失点”のバトンを繋ぎ切って、タイムアップのホイッスルを聞く。「FC東京出身だし、3年目だしということで、もうちょっと長く出せれば良かったけど、やっぱり昔の仲間がいっぱいいるから、これで彼も救われるところはあると思うので、出せて良かったかなと」(黒田監督)。

「このチーム状況で、ここで古巣相手に戦えて勝てたというのは嬉しかったですし、出る瞬間も胸がドキドキするものがありましたね」。試合が終わればチームメイトと、かつてのチームメイトとグータッチ。ピッチに立っていたのは3分ほどではあったが、印象的な笑顔とともに、鈴木のプレミアデビューは小平のグラウンドで刻まれた。

 FC東京U-18の守護神、GK彼島優(3年)は中学時代をともに過ごし、切磋琢磨し続けた盟友。試合後は楽しげに話し込む姿が印象的だった。「何気ないことを話しました。『最近調子どう?』みたいな感じで(笑)、特別なことは話していないですね。お互いに3年間別々の所でやってはきましたけど、自分は一番のライバルだと思っていたので、やっぱり良いライバルだなって」。ライバルの成長を間近で見られたことが、大きな刺激になったことも間違いない。

 残された青森山田での時間も1か月余り。もちろん、いつだって準備はできている。「自分はずっとセカンドキーパーだったんですけど、この1年間もずっと『上を食ってやる』という気持ちが欠けたことはなかったので、今でもスタメンを獲るという気持ちはありますし、選手権では自分がスタメンで出るために、ここからの期間も成長していきたいと思います」。

 さらにこの日、改めて自分の中で実現させるべき目標を再確認した。「自分は大学に行くんですけど、4年後にあのユニフォームをまた着てやろうと思っています」。

 小平のピッチで体感した“3分間”が、どういう意味を帯びていくか。それはこれから進んでいく道のりの先で、自ら証明していく必要があることも、きっと鈴木はわかっている。

(取材・文 土屋雅史)
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