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積み重ねてきた準備が導く確かな自信。桐生一GK竹川慶士は家族の支えも胸にゴールを守り切る

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シーズン終盤に存在感を高めている桐生一高GK竹川慶士

[12.10 プレミアリーグプレーオフ1回戦 米子北高 1-3 桐生一高 エディオンスタジアム広島]

 自信は、あった。3年間も必死に努力を続けてきたのだ。その成果を表現できる場があれば、最高のパフォーマンスを発揮できる自信は、ずっとあった。「だいぶ遅くなりましたけど、この引退とプレミア昇格が懸かっている大事な試合で結果が出たのは、日々の準備が良かったからかなと思います」。

 初のプレミアリーグ昇格を目指す桐生一高の守護神。GK竹川慶士(3年=ジェファ・フットボールクラブ出身)の積み重ねてきた“準備”が、重要な一戦でようやく花開いた。

 米子北高(鳥取)と対峙したプレミアリーグプレーオフ1回戦。「キーパーの竹田(大希)がちょっとケガをして、復帰が遅れたんです。でも、2人ともちゃんとライバル関係で切磋琢磨してきたから、どっちを出しても信じられますから」と話した田野豪一監督は、負ければその時点でシーズン終了となる90分間のゴールマウスに竹川を送り出す。

「今日の相手は自分たちのディフェンスラインの裏を狙ったり、クロスが多いというのは分かっていたので、自分がそれに対してしっかり勝てるようにと思っていて、最初はちょっと硬さがあったんですけど、徐々に慣れていきました」と振り返る竹川も、大きな声で周囲に指示を飛ばしていく。

「相手のロングボールに対して、1個目は必ず競らせるというのと、セカンドのこぼれを寄せに行くというところをしっかり後ろから伝えて、ラインの裏にこぼれても後から付いていくことや、クロスのところも滑らせたり、『最後まで粘り強く行け』というのは伝えていました」。徹底した相手の攻撃に手を焼いたものの、前半の飲水タイムまでに2点を先行。最高の形でゲームを立ち上げる。

 最初の見せ場は、1点を返されて迎えた前半36分にやってきた。スルーパスに抜け出した米子北FW福田秀人(2年)との1対1。絶体絶命のピンチ。だが、竹川の思考は実にクリアだった。「アレはもう距離的にあそこからファーに打たれることはないと思ったので、ニアを消しながら体を広げて当てた感じです」。

 ファインセーブを見せた守護神に、チームメイトが駆け寄る。「『あ、来た!』って思いました(笑)。前半は自分が安定していなくて、結構フィールドの選手たちに迷惑をかけていたところもあったので、あそこを止めて良い流れに持って行けたので良かったです」。

 39分。再び福田のボレーが枠を襲ったが、ここでも竹川はきっちりボールを弾き出す。「もう9番(福田)が上手いと分かっていましたし、あの距離からでも全然シュートを打ってくるというのは準備していたので、ちゃんと反応できて良かったです」。やはりしっかりした“準備”は、自分を裏切らない。

 後半も押し込まれる時間が長かったものの、着実に相手の攻撃を凌ぎ、セットプレーで3点目も記録。「センターバックの2人が足を攣って交代しちゃって(笑)。でも、日頃からサブも良い準備をしようというのはみんなで言っているので、そこは準備が良かったかなと思いますし、みんなよく頑張りましたよね」。まさに総合力での勝利。難敵を力強く退け、プレミアリーグ昇格に王手を懸けてみせた。

 この1年間は、苦しい時間の方が長かった。「いつでも出れる準備をしておこうと思いましたし、練習から自分の得意なシュートストップとか、そういうところで大希より良いプレーをして、先生方の信頼を勝ち獲るために日々プレーしていました」。それでも、GKのポジションは1つだけ。なかなか出場機会は巡ってこない。そんな時に支えになったのは、家族の存在だったという。

「親もそうですし、おじいちゃんやおばあちゃんといろいろな人の支えがあったから、自分が今こうやって試合に出ていられるのだと思います。自分が出ない試合でも『頑張ってね』と言ってくれたり、そういう連絡をいつもくれていたので、次も勝って恩返ししたいです」。諦めなかった日々の先に、シーズン最終盤に差し掛かったタイミングで、この活躍が待っていたわけだ。

 悔しい想いを知っているだけに、竹田も含めた試合に出られない仲間の気持ちも、彼らを代表してピッチに立つ意味も、竹川は誰よりも理解している。だからこそ、勝ちたい。最後にみんなで笑い合いたい。

「ここまで来たら失うものはないので、絶対に勝ちたいですね。試合に出られたのはちょっと遅すぎた感じはありますけど(笑)、次に勝てたら今までの努力が報われるはずなので、後輩たちに来年のプレミアという舞台を与えられたらなと思います」。

 桐生一の歴史を変える絶好のチャンス。もちろん竹川の“準備”は、もうとっくに整っている。

(取材・文 土屋雅史)
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