beacon

歴史を変える覚悟で5度目のプレーオフ挑戦。指揮官就任40年目の前橋育英が4発完勝で悲願のプレミア初昇格に王手

このエントリーをはてなブックマークに追加

前橋育英高は“5度目の正直”となるプレミア昇格まであと1勝

[12.10 プレミアリーグプレーオフ1回戦 前橋育英高 4-0 仙台育英高 エディオンスタジアム広島]

 今回が実に5度目の挑戦。懸ける想いが違うと言っても、言い過ぎではないだろう。そのすべてを見届けてきた山田耕介監督の言葉が、響く。「僕なんかは何回も悔しい想いをしていますけど、今回で5回目ですから。プレミア、行かなきゃね」。

 攻守に圧倒したタイガー軍団の完勝劇。10日、高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2021 プレーオフ(広島)1回戦、前橋育英高(関東2/群馬)と仙台育英高(東北2/宮城)が対峙した一戦は、FW守屋練太郎(3年)とMF根津元輝(2年)がそれぞれ2ゴールを奪い、守っては無失点を記録した前橋育英が4-0で勝利。“5度目の正直”にリーチが掛かっている。

 仙台育英の狙いはハッキリしていた。「サイドに行ったら一発でチェンジサイドして、そこからアーリークロス。それで8番(村井創哉)が競って、こぼれ球を9番(佐藤遼)が狙うと。あとは10番(島野怜)がいい選手だったので、アレを抑えなくちゃいけないなと話していて、ポイントは分かっていたから、慌てずにできた感じはありますね」とは山田監督。FW佐藤遼(3年)のスピードは脅威になっていたが、前橋育英もある程度ポイントを押さえつつ、自陣ではタイトな守備で自由を許さない。

 すると、“乗っている”ストライカーが仕事を果たす。20分。左SB岩立祥汰(3年)が上がってきた流れから、二次攻撃でMF渡邊亮平(3年)が左クロスを入れると、守屋の冷静なシュートは確実にゴールを陥れる。選手権予選の決勝でも貴重な得点を奪った9番が、またも大事な試合で躍動。前橋育英が1点をリードする。

 36分。今度は右サイドからのアタック。U-17日本代表候補のMF小池直矢(2年)が粘り腰で上げ切ったクロスに、反応したのは根津と長崎内定のエースFW笠柳翼(3年)。まるで“ツインシュート”のような一撃がゴールネットに到達すると、お互いに自らのゴールを主張したが、公式記録は「翼さんが触って、自分も触った感じでしたね。ほぼ翼さんのゴールですけど、自分にちょっと当たったという感じです」と振り返る根津のゴールに。2-0。点差が開く。

 止まらないタイガー軍団。45+2分。右サイドで手にしたFK。左右両足を操るプレースキッカーの岩立が、ここは右足で速いボールを蹴ると、「ニアに走っていって、ジャンプしたら本当にピンポイントでボールが来たので、当てるだけという感じでした」と話す根津のヘディングが鮮やかにゴールネットを揺らす。今度は正真正銘、根津の得点に。前半は意外な大差が付いて、45分間が終了した。

「相手の選手が狙いにくいポジションを取ってくるので、前半は引き気味になってしまって、後手に回ってしまいました」と右SBの石田隼也(3年)も振り返ったように、厳しい前半を強いられた仙台育英。「0-3という部分で、後半は開き直って、思い切ったことがやれました」とは佐藤。ハーフタイムを挟むと、ようやく前への推進力がチームとして現れてくる。

 後半22分にはドリブルで運んだ佐藤が、ミドルレンジから強烈なシュートを枠内へ。ここは前橋育英のGK渡部堅蔵(3年)がファインセーブで回避すると、2分後の24分にも佐藤が馬力のあるドリブルでマーカーに競り勝ち、エリア内へ侵入するも、再び渡部が果敢に飛び出して失点を回避。「あそこで決め切れれば良かったと思うんですけど……」と仙台育英のスピードスターも悔しさを滲ませる。

 25分に生まれたとどめの一発。攻守が切り替わった瞬間に「相手の矢印が前に向いていた中で、練太郎さんは足が速いので、そこでうまく速いボールを入れたら、ファーストタッチで練太郎さんが良い感じで持っていってくれましたね」と言及した根津は、走った守屋に丁寧なパス。右に持ち出しながら、対角を狙った軌道がゴールネットにきっちり収まる。「本当はもっと決めてほしいですよね(笑)」とは指揮官だが、好調を維持している守屋も、根津に続いてこの日2ゴール目。4-0。前橋育英が緊張感の漂う初戦を力強く制し、悲願のプレミアリーグ昇格まで、あと1勝に迫っている。

 2013年、2014年、2015年、そして2017年。過去4度に渡ってこの広島の地で昇格を掴み損ねる歴史を、前橋育英は刻んできた。鈴木徳真、渡邊凌磨、坂元達裕らを擁して選手権準優勝を果たすことになる2014年のチームも、涼と悠の田部井兄弟や角田涼太朗、渡邊泰基など実力者が揃い、結果的に初めて冬の日本一を勝ち獲った2017年のチームも、厚い壁を打ち破るには至らなかったのだ。

 2得点でこの日の勝利の立役者となった根津が、あることを明かしてくれた。「スタッフ陣が“1回目”から“4回目”までをハイライトみたいな感じでまとめたモチベーションビデオを作ってくれて、それを昨日の夜と今日出発する前にしっかり見てきてました。みんなそこで『痺れた』と言っていたので、先輩方のためにも、後輩のためにも、自分たちで歴史を作っていこうということは全員で意識してやっています」。

「育英はまだプレミアを経験していないので、自分たちの代で上げるチャンスがあるのというのは大きいと思います」と語ったのは守護神の渡部。『自分たちの代で育英をプレミアに上げる』。これが今の彼らにとって、何より大きなモチベーションになっていることは、言うまでもない。

 決戦の相手は九州王者のV・ファーレン長崎U-18(長崎)。山田監督にとっては自らの故郷のクラブであり、笠柳にとってはこの春からプロサッカー選手としてのキャリアを歩み出すクラブ。因縁浅からぬライバルと、プレミア昇格を懸けて対峙する。

「この次が勝負だと思うので、継続してやるしかないですね。監督は原田(武男)だもんね。それは国見時代に小嶺(忠敏)先生に鍛えられているんだから、絶対にやるよ(笑)。間違いない。あとは松田浩(現・長崎トップチーム監督)がずっとアカデミーをやっていたから、ディフェンスはしっかりしていると思います。我慢比べになっちゃう可能性はあるんじゃないかな」(山田監督)。

 “5度目の正直”へ。山田監督にとっても就任40年目という節目の年に、前橋育英は総力を挙げて、プレミアへの挑戦権を必ず奪い取る。

(取材・文 土屋雅史)
●高円宮杯プレミアリーグ2021特集
●【特設】高校選手権2021
▶高校サッカー選手権 地区大会決勝ライブ&アーカイブ配信はこちら

TOP