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22分間のラストゲーム。前橋育英DF岡本一真は“第2の故郷”・群馬でプロとしての日々を歩み出す

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前橋育英高DF岡本一真は群馬でプロサッカー選手の道を歩み出す

[1.4 選手権準々決勝 大津高 1-0 前橋育英高 フクアリ]

 時間は限られていた。残りは20分強。1点のビハインド。攻めても、攻めても、点の入らないチームを、もどかしくタッチラインの外から見つめていた2番に、ようやく声が掛かる。

 ザスパクサツ群馬への入団が内定している前橋育英高(群馬)の注目サイドバック、DF岡本一真(3年=横浜F・マリノスジュニアユース出身)は後半18分、準々決勝のピッチに解き放たれた。

「攻守において1対1の部分では誰にも負けないという自信は持っています」と自分の特徴を語るように、対人には絶対的な強さを発揮する。試合によっては、相手のキーマンにマンツーマンのマークで付くことも。その高い能力はプロの目にも留まり、卒業後はJリーグの世界へと飛び込むことが決まっている。

 だが、選手権予選も終盤を迎えたタイミングで、筋肉系の負傷に見舞われる。全国切符を巡る桐生一高との決勝では、その影響を感じさせないパフォーマンスで群馬制覇に貢献したものの、本人には普段の6割程度しか出せていないという感覚があった。

 最後の選手権への想いを問われ、「高校3年間の集大成でもありますし、今後の自分に向けても成長するべき大会だと思いますし、日本一の機会がもらえたということで、モチベーションはかなり上がっています。そこに向けて今からコンディションを調整して、頑張っていきたいと思います」と言い切った岡本。12月中旬に行われた高円宮杯プレミアリーグプレーオフも欠場。照準を選手権1本に絞ってきた。

 迎えた初戦。草津東高(滋賀)戦ではとうとうスタメンに復帰。後半アディショナルタイムまでピッチに立ち続け、4-0という快勝劇の一翼を担ったが、続く2回戦の三重高(三重)戦はメンバー外。3回戦の鹿島学園高(茨城)戦はベンチにこそ入ったものの、出場機会はなく、チームの劇的な勝利をアップエリアから見守っていた。

 国立競技場を懸けた大一番。準々決勝で対峙するのは、プレミアリーグWESTでも優勝争いを繰り広げるなど、大会屈指の実力を有する大津高(熊本)。「残念ながらベストコンディションではなかったんですけど、20分か30分くらいは行けるということだった」(山田耕介監督)岡本は、この日もアップエリアで登場の機会を窺う。

 前半の失点でビハインドを負う展開の中、後半は一方的に攻め込みながらも、なかなか同点弾が生まれない。指揮官の決断は後半18分。いつもの右サイドバックではなく、左サイドバックの位置へ岡本は投入される。

 自分の前にいるのは長崎内定のMF笠柳翼(3年)。今年のチームからは彼ら2人だけが、この春からJリーガーの道を歩み出す。普段から仲が良く、お互いをライバルと認め合う間柄。特徴は誰よりもよく分かっている。岡本の後ろ盾を得た笠柳は、それまで以上に自在なポジショニングを取り出し、中央でもその攻撃性を発揮し始める。

 29分には千載一遇のチャンスが到来する。右サイドを突破したMF渡邊亮平(3年)が粘り強く折り返したグラウンダーのクロス。オーバーラップしてきた岡本の足元へ、ボールは転がってくる。右足で叩いた軌道は、しかし無情にもクロスバーの上へ。最後まで大津が築いた堅陣を打ち砕くことはできず、0-1でタイムアップのホイッスルを聞くことになった。

 中学時代に在籍していた横浜F・マリノスジュニアユース時代は、ケガもあってなかなか思うような活躍ができず、ユースの昇格を見送られたことで、上州のタイガー軍団の門を叩いた。「自分でどうにかする、“自立した力”が高校に入って一番身に付いたと思います」と振り返るように、仲間との寮生活を通じてサッカー面だけではなく、人間性も成長できたことが、プロへの道を開いたと自分でも実感している。

 高校生活のすべてを捧げて目指してきた選手権の舞台が、本人にとって消化不良で終わったことは間違いない。ただ、この経験を生かすための新たなステージが、すぐに待ち受けている。「今後はプロでもっともっと活躍できるように頑張ってほしいなと思います」。山田監督は教え子にこうエールを送った。

「前橋育英高校に入って、群馬という地域でずっとザスパクサツ群馬が身近な存在としてあって、そこでプレーすることで、群馬に対して良い影響を与えられるかなと思いました」。岡本は3年間を過ごしてきた“第2の故郷”で、大きな夢へ向けて次なる一歩を踏み出していく。

(取材・文 土屋雅史)

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