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憧れのチームで背負ったキャプテンの重責。前橋育英DF桑子流空には次に抱いた大きな夢が待っている

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前橋育英高をキャプテンとして牽引し続けたDF桑子流空

[1.4 選手権準々決勝 大津高 1-0 前橋育英高 フクアリ]

 タイムアップの瞬間。その場に突っ伏して、動けない。今年のチームをともに牽引してきたMF笠柳翼(3年)に、一緒にセンターバックでコンビを組んできたDF柳生将太(3年)、2人の部長に優しく抱き起こされ、ようやく立ち上がったキャプテンの涙に、懸けてきたものへの強い想いが滲む。

「最後のあの試合終了の笛で、自分たちが夢見た高校3年間の夢でもあり、目標でもあった日本一が閉ざされて、素直に悔しかった印象があります」。

 小学生時代から憧れ続けた黄色と黒のユニフォームを纏い、頂だけを目指して全国のピッチに立った前橋育英高(群馬)のディフェンスリーダー、DF桑子流空(3年=前橋FC出身)の高校サッカーは、国立競技場を目前に控えた全国8強の舞台で幕を閉じた。

 全国の強豪が集う高円宮杯プレミアリーグでも、結果を残してきた強豪の大津高(熊本)と激突した一戦。立ち上がりから前橋育英が押し込んだものの、前半11分にはサイドを崩される形から失点を喫してしまう。

「自分と将太のコミュニケーション不足もあったと思いますし、自分のクリアする場所も悪くて、セカンドボールを相手に拾われてしまって、本当に1つの隙を突かれて、ああいう失点をしたということは守備の連係不足でした」。桑子がそう振り返ったこの1点が、結果的にチームへ重くのしかかる。

「前半の最初に失点して、自分たちがボールを持つ時間が長かったんですけど、相手に引かれた状態で、最後は気持ちで押し込んで、ゴールをこじ開けたいという気持ちがあったんですけど、たぶん相手の守りたいという気持ちが上回ってゴールを決めることができなくて、最後の詰めの甘さが出た試合だったのかなと思います」(桑子)。

 後半は5バック気味に守備を徹底した相手を押し込み続けたものの、最後までスコアは動かず。0-1という最少得点差での決着で、前橋育英の選手権は終焉を迎えることとなった。

 キャプテンとして、常にチームのことを考え続けてきた1年だった。印象的な試合中の笑顔も、周囲に与える影響を考えて意識的に増やしてきた。「チームの雰囲気も良くなりますし、自分がミスしても仲間から声を掛けてもらったり、そういう部分では良い形で自分にも返ってきているので、これは続けていった方がチームに良い影響を与えられるのかなとは思ってきました」。すべては最後にみんなと望んだ結果をつかみ取り、笑い合うために。その一念を携え、時には厳しい姿勢でチームメイトにも接してきた。

 この日もメンバー外となり、運営補助に回ったチームメイトたちを気遣う一幕も。「彼らはベンチには入れないという形で他のサポートに回った選手たちで、ずっと試合前にもメッセージをもらっていて、それに恩返しするために自分たちは国立に連れていきたいという想いが一番あって、ハイタッチする時にも『任せろ』と言ったんですけど、連れて行けなくて残念な気持ちです……」。その無念は、後輩たちへの想いにも波及する。

「後輩たちには1つプレミアリーグ昇格という大きなものを届けることはできたんですけど、国立の舞台に立たせてあげたかったなという想いが一番にあります。国立まで連れて行って、『こういう舞台があるんだぞ』という、先輩としての贈り物じゃないですけど、それができなくて、キャプテンとしても不甲斐ない気持ちでいっぱいです」。

 ただ、そんなリーダーの姿を、後輩たちは1年間に渡って目にし続けてきた。新チームへとその想いは引き継がれ、またそのバトンを次の後輩たちへ渡していく。そうやって、伝統は積み重なっていく。

 小学校6年生の時に、スタジアムで見た前橋育英の試合に衝撃を受けたその日から、このチームでキャプテンを務めること、このチームで日本一になることを逆算して、短くない時間を過ごしてきた。その目標にはあと一歩というところで届かなかったが、桑子の未来にはもう次の大きな夢が広がっている。

「東海大学でサッカーを続ける予定です。本当にこの3年間は自分の中でも1つの宝物でもありますし、この仲間とサッカーができたことは運命でもあると思うので、それぞれの進路でお互いに頑張りたいです。笠柳と岡本(一真)は先にプロになるんですけど、大学4年間を死ぬ気でサッカーして、絶対プロになって、将来はアイツらと同じ舞台で一緒に戦ったり、バチバチしたいなという想いでいっぱいです」。

 

 日本一に届かなかった悔しさと、黄色と黒のユニフォームで戦い抜いた誇りと、最高の仲間と積み上げた3年間と。前橋育英で手にした数々の思い出を胸に、桑子がサッカーとともに進んでいく道は、まだまだ遥か先へと伸び続けている。

(取材・文 土屋雅史)

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