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青森山田のラストピース。大ケガから帰ってきたDF大戸太陽が日本一へと続く道を煌々と照らす

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帰ってきた青森山田高のラストピース、DF大戸太陽(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[1.8 選手権準決勝 高川学園高 0-6 青森山田高 国立]

 後半41分。国立競技場のタッチライン際に、2番を背負った右サイドバックが登場する。チームの誰もが待っていた男の“復帰”。ピッチの選手も、ベンチの仲間も、スタンドの応援団も、この瞬間を待ち侘びていた。

「この夢のような国立で、1分でも2分でもチャンスがあるのであれば、プレーさせたいという、その想いで選手たちも大戸のことを待っていたと思いますし、それはみんなに望まれる選手として、彼が1年間成長してきた証だと思います」(青森山田高・黒田剛監督)。

 インターハイとプレミアリーグEASTを制し、いよいよ選手権での“三冠”に王手を懸けた青森山田高(青森)。そのチームを、右サイドで攻守に渡って支え続けたDF大戸太陽(3年=Uスポーツクラブ出身)が、最後の最後で逞しく真剣勝負の舞台へ帰ってきた。

「『もう起きてしまったことはしょうがない』と思って、すぐに切り替えました。ああやって決勝の直前に自分がケガをしてしまって、多少なりともチームに対して悪い影響を与えてしまったというか、そういう部分もあったと思うので、自分がそこで下を向いていたりして、チームに対して悪いものを持っていかないようにと考えていましたね」(大戸)。

 チームに衝撃が走ったのは11月。選手権予選の決勝を3日後に控えた練習中に、大戸は左ヒザを痛めてしまう。当初は本人もそこまで大きなケガだとは想像もしていなかったが、診断の結果は前十字靭帯断裂という予想以上の重傷だった。

 不動の右サイドバックの思わぬ離脱に、チームメイトは奮起する。決勝の舞台でゴールを奪ったMF松木玖生主将(3年)は、自らのユニフォームの下に着込んでいた“2番”のそれを、報道陣のカメラの前で披露してみせる。試合は先制を許したものの、5-1で快勝。ドリンクボトルを運ぶなど、チームの雑用を積極的にこなしていた大戸も、優勝の記念写真には笑顔で収まった。

「大戸も選手権の全国で優勝するために青森山田に入学してきた男で、『新国立競技場に何としても彼を連れていってあげたい』という想いはありますので、いなくなったことは痛手ではありますけど、これでさらにチームが1つになれればいいなと思いますし、大戸のために『何としてもオレたちは負けられない』というメッセージは刻まれたと思います」。試合後に指揮官は、こういう言葉を残している。『太陽のために』。青森山田に負けられない理由が、また1つ加わった。

 だが、大戸は諦めていなかった。負傷からほどなくすると、既に視線はハッキリと2か月後を見据えていく。「ケガに対して取り組めることがあると思いますし、いち早く復帰できるように、本当に“奇跡”が起きればまだ選手権もあるかもしれないと考えているので、落ち込んでいる暇はないなという感じです」。可能性はゼロではない。1分でも、2分でも、憧れの舞台へ。選手権のピッチに立つ可能性を信じて、目の前のリハビリへと地道に立ち向かう。

 1月2日の3回戦。1月4日の準々決勝。提出されたメンバーリストの上から“13番目”には、ともに大戸の名前が書きこまれていた。もちろん長い時間の出場は望むべくもない。ただ、今年の短くないシーズンを青森山田のレギュラーとして戦い抜いてきた経験値は、必ずやチームの大きな力になる。いわゆる“温情”や“記念”ではない。計算できる“戦力”として、チームスタッフは彼をベンチメンバーに指名してきた。

 そして、準決勝。後半41分。国立競技場のタッチライン際に、2番を背負った右サイドバックが登場する。ここまで全試合にフル出場と、右サイドバックとして奮闘し続けてきた1学年下の後輩、DF中山竜之介(2年)との交代で、大戸がピッチへと駆け出していく。

「この1年間で、インターハイを優勝した時も、プレミアEASTを優勝した時も、彼の存在抜きでは無理だったと思いますし、やっぱりチームの勝利、優勝に貢献してくれた選手ですので」(黒田監督)。諦めの悪い男は、とうとう憧れのステージへ、自らの両足で辿り着いた。



 もともとは地元でもある山梨県内の高校へと進学するつもりだったが、偶然夏の遠征で、その実力を認めた正木昌宣コーチに声を掛けられ、青森山田のセレクションへ参加。そこから今へと至る高校3年間への道が開けた。

 負傷したばかりの頃。大戸はこう語っている。「自分が青森山田に来ていなくて、このケガをしていたらたぶん気持ちは落ちていたと思いますし、ろくにチームに貢献することもできなかったと思います。この青森山田というチームでやったきたからこそ、何かやってやろうと、ケガをしていても何かチームにできることはないかと思えているので、ここでサッカーができて良かったです」。

 それがタッチラインの内側であっても、あるいは外側であっても、大戸のやるべきことは何も変わらない。自分を成長させてくれた、自分を必要としてくれた、このチームの勝利のために、できることを、最大限の力で。

 青森山田が辿ってきた、日本一へと続く道を煌々と照らすラストピース。大戸太陽がとうとう仲間の待つピッチへ、帰ってきた。

(取材・文 土屋雅史)

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