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U-16代表候補は22年初合宿で大会経験し、基準実感。全国視察の森山監督「『俺を呼べ』という存在感を見せてほしい」

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U-16日本代表の森山佳郎監督は新たな才能の出現にも期待する

 3月7日から12日にかけてU-16日本代表候補は静岡県内にて強化合宿を実施した。コロナ禍の影響によって中学生としての日常から活動を大きく制限されていた年代であり、代表チームとしても「国際試合はもちろん、大会にもまったく出ておらず、とにかく経験が不足している世代」(森山佳郎監督)になってしまっていた。2月に予定されていた強化合宿も中止となっていただけに、「この3月の合宿は何としても大きな意味のあるものにする必要がある」と位置付けて臨んでいた。

「このままでは代表チームの強化はもちろん、世代全体に刺激を与えるという意味でも大きくマイナスの影響が出てしまう」と考えた森山監督は、この合宿を大会方式で実施することに。『TOKINOSUMIKA CHALLENGE』と題した舞台を作って、高校サッカーを代表する強豪校を招いて、「その力を借りて選手たちに高い基準を示す」(同監督)場と位置付けた。

 東山高(京都)、帝京長岡高(新潟)、青森山田高(青森)の3校の胸を借りての強化大会。東山との初戦から「年下には負けられないという気持ちを見せて向かって来てくれたので、本当に有意義な試合になった」(森山監督)。合宿のテーマとして掲げていたのは「インテンシティ(プレーの強度)」。ボールを奪いに行く激しさと厳しさを追求する中で、それを回避するスキルも養う狙いをもってトレーニングから取り組み、実際に高校トップレベルのプレッシャーを受けながらのゲームで、それぞれの選手が課題と収穫を持ち帰る流れとなった。

「アジア予選のような4チームのグループリーグを想定して大会に入ったので、まずは東山さんとの試合で『こういう大会の初戦は本当に大事なんだ』という話をして試合に入りました。『セットプレーが大事なんだ!こういう大会はそこで勝敗が分かれるぞ』という話もしながら前日に菅原大介セットプレー担当コーチに練習してもらったのですが、まさにセットプレーで奪った1点を守って勝ち切るという貴重な経験ができました」(森山監督)

 続く帝京長岡との第2戦は乱打戦。前半から激しい攻防となった。

「本当に素晴らしいチームを相手にした第2戦も、先制しながら逆転されて、そこから追い付き、また勝ち越されて、後半にもう一度追い付いて逆転して勝ち切るという最高の経験でした。普通の合宿だけではなかなか持ちづらいチームとしての一体感も強く出てきていたと思います」(森山監督)

 そして最後の相手は、高校サッカー王者・青森山田であった。

「総得点で1上回ってこちらが1位で青森山田さんが2位という状況でした。グループ1位通過がいいよねという前提で、引き分けでもOKというシチュエーションで試合をするというのも最高の経験。青森山田さんは非常にタフなチームですから、ここでやられてしまったとしてもそれはそれで選手にとっては良い薬になるなと思ってもいました。合宿のテーマがインテンシティですから、まさにその点をこちらに突き付けてくれる相手だと思ってました。そういう意味でも理想的に進んでいましたね」(森山監督)

 ところが、結果としてこの試合は開催されず。チーム関係者2名から新型コロナウイルスの陽性判定が出てしまったからだった。厳しい情勢下を受けて、毎日全員がPCR検査を受けるという厳格な体制を敷いていたゆえだが、「本当に残念」というエンディングになってしまった。

 とはいえ、大会前に行ったJFAアカデミー福島との練習試合を含めて3試合を消化し、「大会」を戦った経験値を得られた意義は大きい。

「最後は残念でしたが、高校年代でレギュラー争いを制さないといけない選手たちに、強度の一つの基準を示すことができたし、選手たちもそのチャレンジに乗っかってきてくれた。『こんなにやれるんだ』というポジティブな驚きもあって手応えも感じられました」(森山監督)。

 もちろん、この合宿で何か終わりというわけではなく、あくまでスタート地点ではある。選手たちを満足させる気もなく、開催されていた中国高校サッカー新人大会のFW山本吟侍の話をしながら「『こういう選手が全国にいっぱいいるぞ。ここからどんどん伸びてくる選手が他にいる』という話も伝えました」(森山監督)と、満足させることなく危機感も煽った。

 実際、新しい選手や過去に呼んだ選手の成長ぶりを確かめるため、森山監督はここから全国を飛び回り続ける予定。「3月に家にいる予定は2日だけ。私とスタッフたちで手分けして全国のフェスティバルなどを回り続けるので、『俺を呼べ』という存在感を見せてほしいですね。『俺を見に来い』という記事が載ったら、すぐ行きますから」と、ニューカマーの台頭に期待を寄せる。

 本番となる来年のU-17W杯に向けて、海外遠征も企画中。練達の指揮官は「4月にフランスで行われるモンテギュー国際大会には世界各国の強豪が揃うので是非参加したかった。そういう大会に参加できないことが続くと、日本と世界の距離感が遠くなってしまう。いま中東諸国がそうした形で欧州の大会に続々と参加しているので、かつてアジアにおいて日本が持っていた欧州での経験というアドバンテージも失われていっている危機感がある」と語る。

 時間はあるようでないが、「今回の合宿で選手たちの活気あるプレーを観て、あらためて代表で刺激を入れていく、基準を示すことの大切さも痛感した。今後も選手たちの成長、そして新しく伸びてくる選手たちを見落とさないようにしていきたい。『俺を観ろ!』というプレーで名前を轟かせる選手が出てくるのも待ってます」と強調。U-16世代のさらなるブレイクスルーへ。熱血指揮官に率いられたチームの新たな戦いが、熱く始まっている。


(取材・文 川端暁彦)
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