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[関東大会予選]上手くて勝てる“成立らしさ”の復権へ。勝負強い成立学園が國學院久我山に2-0で快勝!

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局面で激しいバトルが繰り広げられた

[4.23 関東高校大会東京都予選準決勝 國學院久我山高 0-2 成立学園高]

“らしさ”というフレーズの使い方は難しい。それが自らの力をよりわかりやすく解放する形に繋がることもあれば、自らの力を限定する形に向かってしまうこともある。ただ、このチームを初めて冬の全国へ導いた経験を持ち、久々に監督の立場へと復帰したこの指揮官は、本来の意味をおそらくは十分に理解しているはずだ。

「前回監督をやっていた時の大津(祐樹)とか舞行龍(ジェームズ)とか、彼らに比べたら力は落ちるかもしれないですけど、マジメなチームなので雰囲気さえ作ってあげられればなと。こっちがガーガー言うよりは、のびのびと彼らにやらせてあげたいですし、そのために自分が監督になっているんじゃないかなと思っているので、“成立らしさ”をもう1回これから作っていきたいですよね」(山本健二監督)。

 上手くて勝てる“成立らしさ”の復権へ。23日、2022年度関東高校サッカー大会東京都予選準決勝が行われ、國學院久我山高成立学園高という好カードが実現。前半にMF陣田成琉(3年)とMF武田悠吾(3年)のゴールでリードを奪った成立学園が、後半も攻勢に進めながらそのまま2-0で勝利。関東大会へと進出する権利をもぎ取っている。

 ゲームは國學院久我山が押し気味に立ち上がる。最前線に入ったFW塩貝健人(3年)が強烈なフィジカルと積極性を推進力に昇華させ、とにかく前進。その下に入ったDF内田幹太(3年)、右のFW八瀬尾太郎(3年)、左のFW中山織斗(3年)と両ウイングも有機的に関わり、迫る成立学園ゴール。前半12分には塩貝が飛び出したGKの鼻先でループシュート。ここはクロスバーに跳ね返ったボールを、懸命に戻った成立学園CB滝川穣(3年)が何とかクリアしたが、際どいシーンを創出する。

 だが、まさにピンチの後にチャンスあり。13分、左サイドで前を向いた陣田が「いつもあまりシュートを打っていなくて、監督からも『もっとゴールを狙え』と言われていた」という意識を携えながら果敢に狙ったシュートは、DFに当たってコースを変えながら、GKの頭上を破ってゴールネットへ弾み込む。「いつもアシストが多いんですけど、久しぶりにゴールが決められてマジで嬉しかったです」と笑った7番の先制弾。押し込まれていた成立学園が、先にスコアを動かした。

 以降はお互い攻め合う展開に。16分は國學院久我山。MF近藤侑璃(1年)との連携から、塩貝が放ったループは枠の上へ。19分は成立学園。陣田が右へ振り分け、CBからCFへとコンバートされた佐藤由空(3年)が好クロス。ニアで合わせた武田のシュートは枠の左へ外れるも、きっちり崩す形を作り出す。

 すると、次の得点も成立学園に。36分、「足元の技術は結構あるチームなので、そこを生かして圧倒できるようにしていきたい」と語るキャプテンのMF八木玲(3年)を起点に陣田が右へ振り分け、受けた武田は切り返しで内側へ切れ込みながら左足一閃。ニアを抜けたボールはゴールへ滑り込む。「今までも先制点を獲ったら負けることはなかったですし、粘り強くは行けるチームなので、先に前半で点を獲れたことは大きかったですね」とは山本監督。点差は2点に広がった。

 後半は「テンションが高い日はみんなワーワー」(陣田)の成立学園が圧倒する。9分にはボランチのMF横地亮太(2年)のパスから、武田が右ポストを直撃するフィニッシュ。11分には陣田が國學院久我山のGK石崎大登(3年)にファインセーブを強いるシュートまで。19分にも高い位置でボールを奪ったMF渡辺弦(3年)がそのままシュートを放つと、DFをかすめたボールはまたも右ポストにヒット。勢いが止まらない。

 DF普久原陽平(2年)とDF鷹取駿也(3年)のCBコンビを中心にした守備陣の奮闘で何とかピンチを凌ぐ國學院久我山は、FW山田兼大(3年)やFW前島魁人(1年)など攻撃的な交代カードを切りながら反撃を狙うも、成立学園も右からDF大川拓海(3年)、瀧川、DF藤井利之(3年)、DF清水冬真(3年)で組んだ4バックが堅守を構築。さらに守護神のGK鈴木健太郎(3年)も広い守備範囲でハイボールをことごとくキャッチ。チャンスの芽を摘み続ける。

 ラスト10分でも相次いで決定機を作り出しながら、なかなかダメ押し点を奪い切れず、「2点差が一番危ないと言われている数字なので、そこで決め切ってしっかり勝負を付けるというところを、もっと日頃から意識してやっていきたいと思います」と八木も反省を口にしたものの、無失点のままで聞いたタイムアップのホイッスル。「相手の良さを消しながら自分たちの良さを出そうということで1週間やってきたので、練習の中でやってきたことができたんじゃないかなと思います」と山本監督も手応えを口にした成立学園が好内容に結果を乗せて、決勝進出と関東大会出場を同時に手にしてみせた。

 就任してすぐに結果を残した山本監督は、もともと韮崎高(山梨)の出身。高校時代には高校選手権で3年続けて国立競技場でプレーしており、前述したように成立学園を初めて選手権で全国に導いた実績も持つ、“勝つチーム”のメンタリティを熟知している指揮官でもある。

「スタイル的に『今はみんなで頑張らなきゃ勝てないよ』と選手たちに言い聞かせていて、飛び抜けている選手もいないですし、『みんなで良い方向に持っていこう』ということがチームのコンセプトになるので、むしろ“良い選手”がいても出られないかもしれないですけどね」と笑いながら話したものの、おそらく基準は明確。戦えるか、否か。その要素は絶対に欠かせない。

 FWにコンバートされ、新境地を開拓しつつある佐藤は、指揮官に寄せる信頼をこう語っている。「山本監督は自分が中3の時に、成立ゼブラで監督をしてもらっていたんですけど、その時から熱量がある人で、凄くいろいろなことを伝えてくれました。去年のイガさん(五十嵐和也・前監督)もずっとCBのことを教えてくれていたんですけど、山本監督は今年フォワードになってから『由空いいぞ!』とかずっと褒めてくれるので、あの人が監督をやっていてくれてメチャメチャやりやすいです」。

 今大会は初戦の専修大附高戦も、準々決勝の大成高戦も1-0の辛勝。決して楽に勝ち上がってきたわけではなかったが、そのことがチームにもたらした影響も、おなじみの少しとぼけた口調で山本監督は説明する。

「もう本当にギリギリで勝ってきて、やっぱり徐々に徐々に勝って成長できているんじゃないかなって思うんですよね。選手も勝ちたいというふうに言っているけど、自分は『どうかなあ?』と言ったら、『ケンさん、何でそんなつもりでやるんですか?』って選手に言われていますから。『今はもし勝てなくても順序立てて、選手権に向けて頑張っていけばいいんじゃない?』『いや、違います』と怒られました(笑)。チーム全体に伸びしろはあると思いますし、楽しみと言えば楽しみですね」。

 その言葉を鵜吞みにしてはいけない。上手くて勝てるチームを知る指揮官に率いられた今年の成立学園は、例年と一味違う雰囲気を少しずつ纏い始めている。

(取材・文 土屋雅史)

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