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[関東]みんなから応援される新主将の決意。筑波大FW栗原秀輔は「蹴球部全員の心を動かすこと」をテーマにチームを束ねる

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筑波大を束ねる新主将、FW栗原秀輔(4年)

[4.30 関東大学L1部第5節 筑波大 2-1 拓殖大 保土ヶ谷]

 あの日に選んだ道が正解かどうかなんて、そんなことは自分にも分からない。でも、悩んで、もがいて、一歩ずつ前に進んできた今だからこそ、これだけは間違いなく言える。

「本当に筑波に来て良かったなって。大学受験の時には最後でチームを離れたので、そこは『みんなに迷惑をかけたな』とは思いますけど、勉強して、受験したからこそ今の自分があるので、大学での残りの期間をより充実したものにすれば、『筑波に来て良かったな』という想いはさらに強まるはずですし、そう思えるように、悔いのないように、残りの時間を過ごしていけたらなと考えています」。

 今年で創部126年目を誇る筑波大蹴球部。伝統と歴史に彩られたその名門で大役を託された、真面目で一本気な新主将。FW栗原秀輔(4年=横浜F・マリノスユース出身)の真摯な情熱が、きっとこのグループを正しい方向へと導いていく。

 その瞬間。緑の芝生に両ひざを突き、小さくガッツポーズを繰り出す姿が印象的だった。JR東日本カップ2022 第96回関東大学サッカーリーグ戦1部第5節。拓殖大と対峙した筑波大は2点を先制しながらも、後半に1点を返され、その後も押し込まれる展開が続く。何とかしのぎ切ってタイムアップのホイッスルを聞くと、左腕にキャプテンマークを巻いていた栗原は、今シーズンのリーグ戦初勝利を静かに噛み締めていた。

 ピッチに登場したのは、1点リードの後半27分。ここまで出場した2試合も終盤に投入されており、自分の役割は十分に理解していた。「流れをもう1回筑波の方に引き戻せるように、前線は2人だったので、前からしっかり守備に行って、そこで勢いを付けられたらなということで入りました」。やや両チームの組織がほどけ始めた時間帯。オープンな展開の中で、ひたすら前線からのプレスを繰り返す。

 4試合目でようやくもぎ取った、キャプテン就任後初となる白星。「やっぱり関東リーグはレベルが高いですし、ここまでは『勝ちたい』という気持ちと『なかなかうまく行かない』というところで葛藤があった中で、今日は本当に応援も含めて筑波大学蹴球部として1つになって戦えていたので、ホッとしたというか、まず1つ勝利できてよかったなという気持ちがありました」。栗原は確かな手応えと同時に、安堵感も覚えていたようだ。

 主将就任は立候補だったという。その理由を問われた栗原は、淀みない口調でこう説明してくれた。「やっぱり自分が筑波を勝たせないといけないですし、『筑波の象徴にならなきゃいけないな』と思って立候補しました。僕らのチームは約170人ぐらいの部員がいるので、その全体の方向性を示しながら、蹴球部が大学サッカー界を牽引していけるようにしたいと思った時に、『自分がやるべきだな』と思って立候補させていただきました」。

 チームを率いる小井土正亮監督も、“栗原主将”には信頼を寄せている。「彼は一般入試で大学に入ってきて、試合にずっと出ている選手ではないですけど、自分から立候補してキャプテンになってくれたんです。大勢の部員1人1人に目を配りながら声を掛けられますし、さっきも最後の締めのところでも彼が一番必要なことを言ってくれるし、周りが見えていて、自分の役割もわかっていて、本当に頼れるキャプテンですね。ちょっと真面目過ぎるかなというくらいなんですけど(笑)、それも彼の良さだと思いますし、ブラさずにやってくれているなというイメージです」。

 指揮官が言及したように、栗原は一般入試で筑波大に入学している。高校3年時は横浜F・マリノスユースのストライカーとして、11月に開催されたJユースカップでも大会得点王に輝く活躍を披露し、チームの日本一獲得に大きく貢献したものの、受験勉強へ本格的に取り組むため、その大会の決勝を最後にユースの活動は“卒業”。年末のプレミアリーグプレーオフにも出場していない。

 ただ、当時のチームメイトたちも彼の意志を尊重し、受験を全力で応援するスタンスを取った。気の置けない仲間たちの陰になり日向になりのサポートが、机に向かい続けていた栗原の大きな活力となったことは想像に難くない。結果は見事、筑波大に合格。サッカーでも勉強でも、栗原は最高の結果を仲間と分かち合い、F・マリノスを卒団することになった。

 この日、同じ会場で試合のあった明治大でも、ユースの同期に当たるMF木村卓斗(4年)がプレーしていたが、今年で大学4年生を迎える仲間たちへの想いも、もちろん今の栗原を前へと進ませる原動力になっている。

「F・マリノスユースの同期とはチームこそ違いますけど、今は一般企業の就職活動をしているような同期もそうですし、お互いに刺激し合ってやれているので、それは良い状況かなと思いますね。これからも形は違えど、いろいろなシーンで切磋琢磨していけたらいいかなと考えています」。

 主将としてやるべきことはハッキリと見えている。自分にできることを、コツコツと、丁寧に。「僕がやることはみんなの気持ちを揃えることで、やっぱり上手い選手が多い中で、もっと勝ちたい気持ちを表現するようなことをやっていかないと、下のカテゴリーのチームからも応援されるチームにならないと思うので、人数が多いからこそ1つになるためには、まずはトップチームの僕らが応援されないといけないですよね。今は『蹴球部の全員の心を動かすこと』をテーマにやっているので、それをしっかりまとめて、チームの方向性として示していくのが僕の仕事かなと思っています」。

 小井土監督も栗原が主将を務める意味を、こう語っている。「筑波大学は推薦の人数が非常に限られていて、8割か9割が一般入試で入ってきている選手なのて、そういう選手たちにとっての憧れですし、栗原が発信するから伝わることもあるんですよね。『筑波大らしさ』ってやっぱり一般で入ってきた栗原みたいな選手から出てくるもので、かつての戸嶋祥郎(柏レイソル)のような、チームに欠かせない選手だと思っています」。

 引き寄せたリーグ戦の初勝利。この勢いは、蹴球部というグループ全体で共有するべきものだと、栗原は捉えている。「シーズンが始まって、勝てなかったり、上手く行っていないところもありますけど、しっかりと振り返りをしながら、新たな取り組みを続けていきたいですし、これからIリーグも始まっていくので、この勝利をキッカケに、トップチームだけではなくて、蹴球部全体が良い流れに乗っていけたらいいかなと思います」。

『蹴球部全員の心を動かすこと』をテーマに、『下のカテゴリーのチームからも応援されるチーム』を目指している今年の筑波大だが、おそらくその掲げた一体感は日を追うごとにより醸成されていくはずだ。だって、誰よりもみんなから応援される主将、栗原秀輔がこのグループを先頭に立って牽引し続けるのだから。



(取材・文 土屋雅史)

●第96回関東大学L特集

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