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[MOM3846]磐田U-18FW伊藤猛志(3年)_「ファン・バステンからの、大空翼」。伝統を受け継ぐジュビロの9番は5戦7発と“ゾーン”突入中

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伝統の9番を背負うストライカー、ジュビロ磐田U-18FW伊藤猛志

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[5.15 高円宮杯プレミアリーグWEST第7節 磐田U-18 3-1 神戸U-18 ヤマハ]

 その予感は、あったという。それでも、あそこまでのゴールを決めてしまうことまでは、本人すら想像できなかったのではないだろうか。

「結果を続けて出せている時には、ゴールを決められる自信が自分の中にもあって、そういう意味では『決められているから、今日も入るな』ということは試合前から思っていましたし、そういう自信がああいうボールでもシュートを打ち切れるところにも繋がっていると感じています」。

 これでプレミア5戦7発と結果を出し続けているストライカーが披露した『ファン・バステンからの、大空翼』。ジュビロ磐田U-18(静岡)の9番を託されたFW伊藤猛志(3年=ジュビロ磐田U-15出身)が今、とにかく“ゾーン”に入っている。

 まずは『ファン・バステン』だ。ヴィッセル神戸U-18(兵庫)をヤマハスタジアムに迎えた一戦の前半21分。左サイドでMF細石真之介(3年)が後方に落とすと、DF伊藤稜介(2年)はダイレクトでアーリークロスを送る。「稜介と目が合っていて、ボールは来るなと思っていました。ちょっと大きいかなとは感じたんですけど、キーパーが出てこなかったので、気付いたら目の前にボールがあった感じで、意外と緊張せずに蹴るだけでした」。

 伊藤はファーサイドに潜ると、ダイレクトボレーをそのままゴールネットへ突き刺してしまう。形は多少違うものの、左斜め後ろからのクロスを、右足のボレーで叩き込んでしまうのは、まるで元オランダ代表のマルコ・ファン・バステンを彷彿とさせるようなゴラッソ。「自分は気まぐれで決めちゃう時もあるので(笑)」とは本人だが、“気まぐれ”だけであの一撃は繰り出せないだろう。

 そして、『大空翼』だ。後半8分。相手のクリアにMF亀谷暁哉(3年)が頭で食らい付いたボールが、前方に弾んでいく。「自分の前にボールが転がってきて、ディフェンスが寄せてきていないことはすぐにわかったし、たぶんレベルが高いキーパーほど前に出ている傾向もあると思うんですよね。そういうところはいつでもシュートを狙うことも意識していたので、後半も始まったばかりで『打ってみよう』というのはありました」。

 ゴールまでの距離は約30m。躊躇なくダイレクトで叩いたボールは、綺麗な軌道を描きながらGKの頭上を鮮やかに破ると、ゴールネットへ飛び込んでいく。こちらは漫画『キャプテン翼』の主人公、大空翼の必殺技でもあるドライブシュートのイメージそのまま。「当てた瞬間に『入ったな』と思ったので、凄く良いゴールでしたね」。とんでもないスーペルゴラッソに、スタンドもしばらくどよめきが収まらない。伊藤のゴールセンスがヤマハスタジアムのピッチで爆発した。

 ジュビロの9番と言えば、中山雅史・現トップチームコーチを筆頭に、クラブの歴史に名を刻むようなストライカーが背負ってきたナンバー。伊藤もその意味は十分に理解している。

「自分は小学校の頃から9番が大好きで、やっぱり“点取り屋”というイメージもありますし、ゴンさんのイメージが強いですよね。ゴンさんにはトップのキャンプでいろいろな話も聞いたんですけど、今はこうやってジュビロのエンブレムを背負って、点を獲ってチームを勝たせる選手になるという部分で、9番には意味があると思っています」。

 以前から明言している目標は、『ワールドカップで点を獲ること』。そう思うようになったのには、あるきっかけがあったという。「中3で初めて年代別代表に入って、それがちょうどU-17のワールドカップに向けた強化遠征だったんですけど、その時に森山(佳郎)監督の話を聞いて、『ワールドカップって凄いんだな』って改めて感じたんです。それまでは『海外のクラブに行って活躍する方が凄いんだろうな』と思っていたんですけど、その時に『ワールドカップって誰にでも夢のある凄い舞台だな』と感じたので、ワールドカップへの想いはその時から強く持っています」。もちろん目標は大きい方がいい。中山コーチも記録した世界の舞台でのゴールを夢見て、とにかく前へと突き進んでいく。

 ここまで7ゴールを挙げているものの、WESTの得点ランキングトップは9ゴールをマークしているセレッソ大阪U-18(大阪)のFW木下慎之輔。もちろん伊藤も意識しないわけではないが、意識し過ぎる必要はないこともしっかりと悟っているようだ。

「自分より上がいることは逆にありがたいですけど、昨日木下選手は1点獲って、今日は自分が2点獲りましたし、向こうの方が試合数も多いので、そういう意味では自分も悪くないかなと。今は5試合が終わっただけで、まだまだ試合はあるので、最後に自分の名前が“一番上”にあるようにやっていきたいなと思います」。

 少しだけ滲ませたライバル意識に、フォワードらしい強気な気質が窺える。ファン・バステンか、大空翼か、はたまた中山雅史か。そのすべてを追い越していくだけの気概を携えている男。伊藤猛志が歩んでいくストライカー道は、まだまだ遥か先へと続いている。

(取材・文 土屋雅史)

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