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吉田麻也が“過密日程”に訴え「アジア人は非常に苦しんでいる」過去4年で地球8周、AFCへの意見書通らず

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日本代表DF吉田麻也(サンプドリア)

 日本代表のDF吉田麻也(サンプドリア)が7日夜、国際プロサッカー選手会(FIFPRO)主催のオンライン会見に出席し、国際Aマッチデーに伴う長距離移動の過酷さを明かした。吉田はロシアW杯が行われた2018年夏以降、4年間で地球8周分にあたる約31万8000kmに及ぶ移動を経験しており、「このままいくと、いつ体が壊れてもおかしくない」と訴えた。

 国際スケジュールの過密化により、近年ますます大きな問題となっている選手の過労。所属クラブチームで出場する各国リーグ戦やカップ戦、UEFAチャンピオンズリーグ(欧州CL)やAFCチャンピオンズリーグなどの地域別国際大会、国別代表選手が出場するW杯やその予選、EUROやアジアカップなどの国際大会で選手のスケジュールはいっぱいになり、近年では年間60試合以上プレーする選手も珍しくない状況となっている。

 こうした数々の大会の存在により、ファンは年間を通じてさまざまなエンターテイメントを楽しめる側面はある。一方、FIFPROは選手のコンディションに警鐘を鳴らす。FIFPROの調査によると、世界各国のパフォーマンスコーチの88%が年間の出場試合数を55試合未満にすべきだと主張。過密日程の影響で負傷を経験した選手は54%、メンタル的な不調を観察したことがあるハイパフォーマンスコーチは82%にのぼるなど、近年ますます進んでいるスケジュールの過密化への対策は急務だと言える。

 またそうした中、ヨーロッパでプレーしているアジア圏の国別代表選手はとりわけ大きな悩みを抱えている。FIFPROはトッテナム所属のイングランド代表FWハリー・ケイン、韓国代表FWソン・フンミンの2018-19シーズンから20-21シーズンにかけての移動データを公開。ケインの移動距離が86,267kmだった一方、ソンは223,637kmと約2.5倍に及び、移動時間もケインの123時間に比べてソンは300時間と圧倒的に多く、アジア人プレーヤーの過酷な実態が明らかになっている。

 2010年のA代表デビュー以来、13年間で国際Aマッチ117試合に出場してきた吉田も厳しい長距離移動に苦しむ選手の一人だ。

2011年にアジア杯制覇に貢献

 FIFPROの調査によると、18年6月から22年6月にかけての吉田の総移動距離は約318,000km。サッカーのための移動に限った数字だが、それだけでも地球7.93周分の距離にあたる。またタイムゾーンを超えた移動回数は59回、一度の平均移動時間17.5時間という厳しい数字も判明。吉田は「僕はヨーロッパリーグとかも出ていないので、国内リーグとインターナショナルマッチだけ。それでこれだけの数字が出たのは僕もすごく驚いている。移動に関してタフさを求められているのは事実で、欧州でプレーするアジア人は非常に苦しんでいる」と過酷な現状を語る。

 そこで吉田が例に挙げたのは、カタールW杯出場を決めた今年3月のアジア最終予選だった。吉田は所属先の試合が行われたベネツィアから車でミラノに移動し、乗り継ぎの航空便でシドニーに入り、オーストラリア戦にフル出場した後、日本に戻ってベトナム戦を行い、再びイタリアに帰っていた。その一方、ヨーロッパ国籍のチームメートはリーグ戦後に1日オフを取り、家族と過ごしてから代表チームに合流する選手もいたという。

オーストラリア戦でカタールW杯出場を決めた

 こうした日本人選手の現状について吉田は「多くの選手が日本に帰ってきてホームで戦う時、睡眠時間が取れていない中でも日本代表として国を背負って戦わないといけない。負けられないというプレッシャーの中でW杯に行けるかどうかの戦いを強いられ、心身ともにストレスのかかる状況になっている」と指摘する。また「もう一つの問題として、僕らが帰ってくると自チームの監督から移動の疲れや時差ボケがあると思われ、実際にそれもあるが、次の週の試合にベンチに追いやられることが多々ある」と所属クラブでの悪影響にも踏み込んだ。

 さらに吉田は昨夏、オーバーエイジ枠として東京五輪に参戦。その後すぐにチームに合流したことで、ほとんどオフのないままシーズンを戦っていた。

「五輪は僕が行くと自分で選択したので言い訳をするつもりはない」と前置きしつつも、「五輪が終わって休みが1週間しかなく、セリエA開幕週に練習に参加して試合に出始めた。1月に怪我をしたが、筋肉系の怪我は初めてだった。復帰してもチームの流れに乗れず、後半戦にほとんど試合に出ることができなかった。そして今月で契約も満了する可能性がある。そういうリスクも抱えながらインターナショナルマッチに臨んでいることをわかってほしい」と訴えた。

東京五輪にオーバーエイジ枠で出場

 日本代表ではこれまで、そうしたタフな環境を真っ向から受け止め、そして乗り越えていくことが求められてきた。また今後もW杯出場のためにはアジアで行われる予選を勝ち抜くことが必要となるため、そうした移動からは逃れることができないであろう。それでもあえて吉田が声を上げているのは、未来の日本代表を担っていく選手たちへの思いからだ。

「少し前までは移動の中で予選をしないといけなくても、それでも日の丸を背負って戦うということが日本代表の宿命だと思っていたし、若い頃からそう教わってきた。日本代表でヨーロッパで活躍するならやっていかないといけないと言われてきた。物理的な距離があるぶん、ヨーロッパの選手よりタフにならないといけないのは間違いない」

「ただ、いまのフットボールはスピードも強度も上がってきていて、フィジカル的な要素がすごく重要になっている。その中でこのようなタフさを強いられるのは、これからの選手にとって枷になっていくんじゃないかと思っている。僕はプレミアリーグにいたからこそ、それがいかに難しいかを理解している。少しずつプレミアリーグなどのレベルの高いチームでプレーする選手が増えている中、僕は彼らがビッグクラブで活躍する姿を見たいし、そのためにできることはこうしたインフラ面、ピッチ外のこと、環境をもっと整えてあげること。それが彼らのキャリアの手助けになるんじゃないかと思っている」

 すでに選手たちは移動時の工夫を最大限行っており、JFA(日本サッカー協会)も千葉市内にトレーニング拠点のJFA夢フィールドをオープンさせるなど、現場レベルでの取り組みは大きく進んでいる。だが、そこに「AFC、FIFAからの歩み寄りは見られない」と吉田。「間違いなくもっともっと選手の声を聞くべきだと思う。プレーヤーズファーストの概念がないのは正直信じられない」と言葉に熱が帯びた。

 またそんな吉田は一つの代案も持っている。「試合数がまず多すぎるということと、インターナショナルマッチウィークの回数が多いことで、そのぶん移動距離がどうしても増えてしまう。たとえば1回の招集で行う試合数を増やして、期間を長くすることで一回の移動を少なくするのはどうか」としつつ、「年間5回くらいあるのを3回に減らして、長くインターナショナルウィークを取って、今までと同じ試合数や、ちょっと少なくすることが可能なのではないか」と提案した。

 FIFPROによると日本国内でも今季、16日間で6試合という異例の過密日程でセントラル開催が決まったACLに対し、Jリーグから出場する4クラブの主将が連名で是正を求める意見書を出したが、AFCはこれをスルー。「Jリーグの選手や僕たちもAFCに対して意見書を出しているが、無視され続けている。間違いなくおかしい状況ではないかと思う」(吉田)。持続可能でより良いサッカースケジュールの実現に向け、プレーヤー側から改革に向けた機運が高まっている。

(取材・文 竹内達也)
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