beacon

[MOM3899]東海大高輪台GK山本桐真(1年)_メンタル強めの1年生守護神が2本のPKストップで堂々主役に!

このエントリーをはてなブックマークに追加

PKストップに力強いガッツポーズを見せる東海大高輪台高の1年生GK山本桐真

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[6.11 インターハイ東京都予選準々決勝 成立学園高 0-0 PK5-6 東海大高輪台高]

 この日“2度目”の咆哮は、そのままチームの勝利に直結する。黄色と黒の技巧派集団を救ったのは、1人だけ赤いユニフォームを纏った1年生守護神のスペシャルな胆力と、自信に裏打ちされたビッグセーブだった。

「PK戦では今まで個人的に負けなしだったので、自信はありましたね。3回ぐらいやって、全部勝っているんです。その時も1本止めたり、2本止めたりしていたので、良いイメージはありました。メチャメチャ嬉しいですよ!」

 3度目となる夏の全国出場に王手を懸けた東海大高輪台高。その中でスタメン唯一のルーキーとなるGK山本桐真(1年=ジェファFC出身)が、得意のPK戦で主役の座を鮮やかにさらっていった。

 試合中から確かな存在感を放っていた。周囲はいずれも上級生だが、指示を出すにしても、叱咤するにしても、そこに遠慮や躊躇が介在する気配は微塵もない。「一番見えているのが僕なので、声を掛けないとやられてしまうところはやられてしまいますし、そこで声を出すことは心掛けていますね」。声で先輩たちを適切な位置へ動かしていく。

 そのメンタルがより際立ったのは、1週間前の日大豊山高戦だ。1-0でリードしている状況で、自分の元へバックパスが戻ってくると、寄せてきた相手にキックを当ててしまい、こぼれ球を無人のゴールに押し込まれてしまう。普通であれば落胆の色を隠せないような失点だが、山本は毅然とした態度で前を向く。

「自分は点を獲られた時に落ち込んでしまう癖があって、コーチにもそういうところを指摘されたので、すぐに落ち込まないようにと決めたんです」。入学してから数か月の1年生とは思えない姿勢に、チームメイトも応える。結果は3-2で勝利。山本にはある意味で挽回の機会が与えられた格好となった。

 関東大会予選を制した成立学園高と対峙する準々決勝。確かな実力を有する相手に、とりわけ後半は押し込まれる時間が続く。「後半の半ばぐらいから、どうやってこっちが攻めても防がれていましたし、クリアも前に蹴ってしまうことが多かったので、『PK戦はあるな』と思っていました」。果たして、試合はPK戦へと突入することとなる。

 1人目は方向こそ合っていたものの、届かなかった。感触は悪くない。迎えた2人目。自分から見て右に来たボールを、完璧な横っ飛びで弾き出す。



「『狙い通りに来たな』という想いがありました。止めた時に鳥肌が立ったんですよね」。“1度目”の咆哮がグラウンドにこだまする。

 東海大高輪台も4人目までは全員が成功したが、決めれば勝利の5人目は失敗。成立学園の5人目。山本もコースを読み、ボールには触っていたものの、ゴールネットは揺れる。もつれ込んだサドンデス方式。7人目。先攻の東海大高輪台は成功。後攻の成立学園のキッカーがボールをセットする。

「自分が止めないと勝てないと思っていたので、自信を持って飛びました」。山本の残した左手が、ボールの軌道をピッチの方へ跳ね返す。“2度目”の咆哮は、仲間の歓喜の声にかき消されて聞こえない。1年生GKが2本のPKストップで、チームをセミファイナルへと導いた。

 実は勝利が決まった瞬間。PKを失敗してしまった選手がセンターサークルで泣き崩れていたこともあって、そちらに集まった選手たちもいたため、山本の元には全員が駆け寄ったわけではなかった。そのことに水を向けると、「そうですね。ちょっとそれは思いましたけど、自分も泣きそうになっていましたし、何人か来てくれたので十分です(笑)」と笑顔。この受け答え1つとっても、1年生とは思えない人間性が垣間見える。

 次は全国大会出場を巡る一戦だが、それでもこのルーキーに良い意味で気負いはなさそうだ。「この代で自分はプレーさせてもらっていることで、凄くレベルが高いなと感じさせてもらっていますし、自分がミスをしてきた時もあるので、先生方も含めた恩返しという意味で、全国に挑戦したいなと思います」。

 ひとたびピッチに立てば、学年は関係ない。東海大高輪台のゴールマウスには、メンタル強めの守護神が、いつだってしなやかに、のびのびと、時には笑顔を浮かべながら、立ち続けている。

(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2022

TOP