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[MOM3907]駒澤大高FW加茂隼(3年)_応援席の3年生と分かち合った歓喜。頼れるキャプテンが延長後半に劇的決勝弾!

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延長後半に決勝ゴールを奪った駒澤大高FW加茂隼(10番)は応援席の仲間と歓喜を分かち合う

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[6.12 インターハイ東京都予選準々決勝 実践学園高 2-3(延長) 駒澤大高]

 キャプテンだとか、3年生だとか、10番だとか、そんなことはもう吹っ飛んでいた。点を獲りたい。ただその本能だけが、疲労困憊の足をゴール前へと向かわせる。もつれかけた左足で放ったシュートがゴールネットを揺らした瞬間、気付けば最高の仲間が待つ場所へと全速力で走り出していた。

「ゴール前に入ることだけを考えて走り込みました。もう本当に嬉しかったですし、まずはスタンドに向かって走り出していました。3年生が来てくれていたので、喜びを分かち合いたかったです」。

 キャプテンの、3年生の、10番の仕事完遂。駒澤大高が誇る大型ストライカー。FW加茂隼(3年=東京SC出身)が叩き出した延長後半での決勝ゴールが、チームをセミファイナルへと導いた。

 優に200人を超えるサッカー部のキャプテンという立場が、大変でないはずがない。「いろいろな考えを持っている部員がいるので、まずは自分が思っていることや気持ちを素直に言葉に変えて、言っていくことが一番大事だと思っています。カテゴリーが上がれない選手がいたり、『こんなに活躍したのに、何で試合に出られないんだ』と思うような我が強い人もいたり、言いたいことをすぐ言ってしまう選手が多いので、そういったところで自分が『落ち着け』と話すことが多いですね」。

 それは試合の時も一緒だ。まずはチームの勝利が優先。そのために自分にできることを考える。「自分のことだけをやっていればいいわけではないので、自分が上手くいかなくても、常に声を掛けるとか、チームをまとめるとか落ち着かせるとか、もっと盛り上げるとか、チームの方に矢印を向けることはいつも考えていますね」。

 この日もそうだった。実践学園高と対峙したクォーターファイナル。いきなり前半4分で失点したが、加茂はすぐさまチームメイトを集めて、冷静にやるべきことを確認する。「そんなに焦る時間帯でもなかったですし、他のみんながこれから取り返してくれるだろうと信じていたので、真ん中にみんなを集めて、一度やるべきことを整理しました」。

 9分と10分の連続ゴールで一気に逆転したが、11分の失点で再びスコアは振り出しに。以降はお互いに次の1点を探り合う中で、時間が経過していく。加茂も後半の途中からは最前線へとスライドしたものの、なかなかチャンスは訪れない。2-2のままで、試合は延長後半へと突入していた。

 亀田雄人監督には、ある想いがあったという。「PK戦も覚悟はしていましたけど、『加茂がやってくれるんじゃないか』という想いはあったので」。指揮官の予感は的中する。延長後半3分。左サイドをMF徳永薫(3年)が執念で突破すると、中央にキャプテンマークを巻いた10番が走り込んでくる。丁寧なパスが送られ、丁寧なシュートがゴールをこじ開けると、赤黒の歓喜が一瞬で爆発した。

「試合自体の個人の内容はあまり良くなかったので、最後の点だけでしたね。キャプテンとして、駒澤の代表としての覚悟は持っていたので、最後はあそこに走り込んでいって良かったです」。そんな言葉を口にしたキャプテンは、どうしても負けられなかった理由をこう明かしている。

「インターハイを機に、3年生の中には受験勉強をするために早期引退する選手もいて、これが最後の大会という人もいるので、アイツらを『全国に連れて行ってやりたい』という想いは凄くありましたね」。だから、ゴールを決めた直後、ほぼ無意識に3年生の待つ応援席へと全速力で走り出したのだ。

 キャプテンとしてやるべきことは少なくない。自分のプレーに集中し切れず、結果を出せない状況をもどかしく感じる時もある。でも、この時間がチームのためになると、自分をより成長させることに繋がると信じ、その役割と真摯に向き合い続けている。

「みんなに自分の気持ちを素直に伝えるとか、そういうところは自分自身の成長にも繋がると思っていますし、亀田先生にもよく『オマエはキャプテンをすることで、自分自身を成長させられると思う』と言われるので、もうやるしかないです。あと半年しかないので」。

 次は全国大会の懸かった大事な準決勝だ。まだ入学してから一度も見たことのない景色を、自分たちで掴み取るために必要なことを尋ねると、相変わらず掲げたチームへの想いに加えて、強気なストライカーのプライドが滲んだ。

「駒澤らしく、ベンチも、スタンドも、保護者も、駒澤の関係者すべてで相手を飲み込むぐらいの勢いを持ってやりたいですし、その中で自分が『やっぱり加茂スゲーな』と思われるぐらい、個人としても素晴らしいプレーをしたいと思っています」。

『やっぱり加茂スゲーな』は、間違いなくチームの結果に直結する。きっとチームメイトには、もうその未来予想図が見えているはずだ。勝利と自らのゴールを両立させ、再び3年生の仲間と歓喜を分かち合うキャプテンの姿が。



(取材・文 土屋雅史)
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