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[MOM3925]帝京DF大田知輝(3年)_「守備者の矜持」が芽生えた優雅なCBが泥臭いシュートブロックで優勝を手繰り寄せる!

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帝京高の最終ラインを束ねるディフェンスリーダー、DF大田知輝

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[6.18 インターハイ東京都予選準決勝 帝京高 1-0 駒澤大高]

 本格的にセンターバックを主戦場としてから、まだ半年足らず。それでも、自分の中での覚悟は確実に定まってきている。力強く、泥臭く、まずはゴールを何が何でも守り抜く。

「無失点で試合を終えることの重要さはだんだんわかってきているので、攻撃面での自分の特徴でもあるキックや持ち運びはもちろん大事なんですけど、まずは失点をゼロで抑えることを意識しています」。

 帝京高の最終ラインを束ねる、元ボランチの大型センターバック。DF大田知輝(3年=FC東京U-15深川出身)が兼ね備えつつある『守備者の矜持』が、カナリア軍団の全国切符獲得に大きく貢献したことに疑いの余地はない。

 インターハイ予選準決勝。全国出場の懸かるゲームの相手は駒澤大高。都内きっての強度を誇る武骨な集団を前に、大田は試合内容をしっかり想定していたという。「自分たちがある程度はボールを持って攻めている時が、一番自分たちのピンチになりやすいということは試合前から自分も考えていたので、常にリスク管理をすることと、とにかく無失点で終わることを頭に入れながら、攻撃にもチャレンジしていく形でした」。

 果たして、ゲームは概ねその予想通りに進んでいく。後ろでブロックを組みながら、カウンターを狙う相手の戦い方を注視しつつ、「常にセンターバックやサイドバックで数的優位の状況を作って、ボールを取り切るというのがカギにもなっていました」と振り返ったように、リスクを最小限に抑えていく。ほとんどチャンスらしいシーンは作らせないまま、チームは後半に先制。大田も丁寧に、粛々と、相手の攻撃の“芽”を摘んでいく。

 だが、追い込まれた駒澤大高の勢いも、終盤に掛けて激しさを増していく。そして、この試合最大のピンチが訪れたのは、後半もアディショナルタイムに突入していた40+3分。相手アタッカーの鋭い突破で左サイドを破られると、状況を瞬時に把握する。

「ゴールから相手を遠ざけて、シュートを打たせないということが一番でしたけど、もうあそこまで侵入されていましたし、一番はニアが怖かったので、ニアにズレていったら、結局マイナス気味に出されたんです」。正面にいた選手が、シュートモーションに入ったのは見えていた。次の瞬間。放たれた軌道は、大田に当たって跳ね返る。

「ほぼ気持ちの部分のプレーでした」。こぼれ球を拾われ、打たれたシュートも今度はクロスバーを激しく叩き、ボールはピッチの中へ戻っていく。「入ったかと思いましたね。もう本当に『何とか外に出てくれ』という感じで、あれは本当に助かりました」。大田とクロスバーが救った帝京の絶体絶命のピンチ。センターバックとしての意地が、チームを全国出場へ導いた。

タイムアップ直後。相手CBと健闘を称え合う


 去年の選手権予選が終わってから、本腰を入れてトライし始めたこのポジションで経験を積み重ねてきたことで、明らかにサッカーに対する自分の中での想いが、変わってきているという。

「ボランチをやっていた時や、センターバックになったばかりの頃は、ちょっと相手をかわすのが楽しかったりしていたんですけど(笑)、それよりも勝ちにこだわる重要性も感じてきています。ボランチとは違って、常に前を向けるのは楽しいですし、セットプレーでは得点のチャンスがあるので、もちろんそこでゴールを獲り切れるセンターバックになれたらいいなとは思っていますけど、とにかく今は無失点が大事ですね」。何より無失点が大事。そのメンタルは間違いなく、守備者のそれだ。

 全国大会には、小さくない借りがある。昨年のインターハイ1回戦。結果的に決勝まで駆け上がることになる米子北高との一戦。次々と交代選手がピッチへと解き放たれる中、アップエリアの大田には最後まで声が掛からず、PK戦で敗れ去るチームをラインの外側から見つめることしかできなかった。

「まず自分が試合に出られなかったというのが、去年はずっと悔しくて、その中で少しずつ “習慣”を続けたことで自分が変化してきて、出場時間が増えていったんです。そういう個人の成長が人それぞれにあったと思うので、その個人の成長とチームの成長が、少しずつ高いレベルになっていって、今は毎日毎日高め合っているのかなと思います」。味わった悔しさは、確実に自身の血肉になっている。

 1年ぶりのインターハイ。試合に出たい想いはもちろんあるが、もはや目標はそんなところに置いているはずがない。「これからもセンターバックとしてチームを引っ張っていきたいですし、個人の能力をもっと上げていって、どんどん活躍したいなって。全国に行くだけではなくて、そこで勝って、一番になりたい想いはあります」。

 立ち姿こそ優雅だが、泥臭さも兼ね備えるセンターバックとして培ってきた『守備者の矜持』を携え、大田が全国にその名を知らしめるその時までは、あとわずかに1か月あまりだ。

(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2022

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