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[MOM3949]帝京FW伊藤聡太(3年)_「大丈夫だ。取り返してこい」。味方の檄に奮起したカナリア軍団の10番が前回王者を沈める魂の決勝弾!

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10番でキャプテン、FW伊藤聡太の決勝点で帝京高は前回王者に競り勝つ!

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[7.25 インターハイ2回戦 青森山田高 1-2 帝京高 徳島市球技場第1競技場]

 正直、焦っていた。先制点を奪われるキッカケになったミスも、味方が作ってくれた決定機を外したのも、自分。重ねた失敗を取り戻すためには、結果を出すしかない。10番を背負うフォワードであれば、その“結果”として認められるのはたった1つだけ。ゴールの歓喜だけだ。

「決定的なシュートを外していましたし、1失点目も自分のトラップミスから失点していて、本当に自分は『やってしまった……』という感覚だったんですけど、チームのみんなが『大丈夫だ。取り返してこい』と次へと気持ちを向けさせてくれたので、本当に自分にできることを必死にやろうと思っていました」。

 どうしても1点が欲しいその時。強い覚悟を携え、ゴール前に入っていた帝京高(東京)の10番でキャプテン、FW伊藤聡太(3年=東京ヴェルディジュニアユース出身)の足元へ、絶好のボールがこぼれてくる……

 立ち上がりから、相手の勢いに圧倒されていた。昨年度の高校三冠王者であり、インターハイの前回王者でもある青森山田高(青森)と激突した2回戦。その圧力をうまく弾き返せず、押し込まれる展開の中で前半12分に先制点を献上してしまう。自陣でマイボールを奪われたところから喫した失点。トラップミスでボールを失ったのが、伊藤だった。

 23分は千載一遇の決定機。右サイドでMF押川優希(3年)、MF橋本マリーク識史(3年)とパスが繋がり、MF松本琉雅(3年)のクロスに飛び込んだ伊藤のヘディングは、しかしクロスバーの上へ。同点に追い付く絶好の機会も、引き寄せ切れない。

 ただ、守備面では“1点モノ”のビッグプレーを披露する。35分。青森山田が手にしたFKから、放たれたヘディングにGKも破られたものの、必死に戻った伊藤がゴールライン上で決死のクリア。「アレがやっぱり帝京高校らしいプレーなのかもしれないですね」と日比威監督も称賛したワンプレー。1点差のままで、ゲームはハーフタイムに折り返す。

 後半も決して流れは良くなかった中で、15分に松本のヘディングで同点に追い付くと、流れは一気にカナリア軍団へ。そして、その時が訪れる。24分。左サイドでスローインを入れたDF島貫琢土(3年)が、押川からのリターンを受けて右足でクロスを送り込むと、相手GKのパンチングが小さくなったこぼれ球は、その行方を伊藤の足元に選ぶ。

「あの瞬間、ある程度あの“空間”は見えていて、ニアは完全にコースを潰されていて、(齊藤)慈斗がゴール前でいつものごとく身体を張ってゴリゴリしてくれていたので(笑)、もう『ここしかない』と思って、蹴り込みました。あまり優れた例えではないかもしれないですけど、『気持ちで押し込んだ』という感じですね」。

『ここしかない』と決断したコースに蹴り込んだボールが、ゴールネットを揺らした瞬間。伊藤は全速力で、アップエリアで待ち受けるチームメイトたちの輪の中に飛び込んでいく。

「『よし!やってやったぞ!』と。『やった!』よりも先に、『やってやったぞ!どうだ、青森山田!これが下から這い上がってきたヤツの意地だ!』と。やってやった感がありました」と笑顔で口にしながら、続けた言葉にキャプテンらしさが顔を覗かせる。

「やっぱりバックアップのメンバーを含め、途中から出たベンチメンバー、スタメンの全員、先生たち、応援の人たち、全員の力が最後にチームの勝利に繋がるような、走り切れるような力になったと感じるので、本当に全員に感謝したいですね」。10番がもたらしたゴールの歓喜が、帝京を力強く次のラウンドへと押し上げた。

 大会前から明言していた目標は、日本一。みんなで掲げたそれが揺らぐことは、決してない。「もちろん今日も青森山田に対して、自分の得点で勝ったというのは嬉しいですけど、僕らの目標は青森山田に勝つことではないので、正直メチャメチャ嬉しいですけど(笑)、そこは次に進まなきゃなと思っています」。

 カナリア軍団が目指す、20年ぶりの“下剋上”。それに近付くためには、10番を背負ったキャプテンがチームにもたらすさらなる歓喜が、絶対に欠かせない。

(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2022

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