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[MOM3967]前橋育英MF徳永涼(3年)_けん引役が試合終盤に示した価値

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前橋育英高を支え続けたMF徳永涼主将(左)。(写真協力=高校サッカー年鑑)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[7.29 インターハイ準決勝 前橋育英高 0-0(PK4-3)米子北高 徳島市球1]

 ピンチに必ず現れる。苦しい試合で頼れる主将がチームを支えていた。全国高校総体(インターハイ)サッカー競技男子の準決勝、前橋育英高(群馬)は前回準優勝の米子北(鳥取)を相手に苦しんだ。

 前半15分までは完全に押し込まれる展開。相手のセットプレーも多い中、キャプテンマークを巻いた14番、徳永涼(3年)は「マジでやれよ、おい、ここだぞ!」とチームを鼓舞し続けた。

 クーリングブレイクを挟んでからは少しずつ得意のパスワークが機能。試合の主導権を握った。しかし、米子北の守備は堅かった。サイドアタックを繰り返しても、なかなかゴール前にボールを運べない。クロスを合わせ切れず、焦れてもおかしくない展開だったが、徳永が扇の要となり、サイドチェンジを繰り返し、粘り強く攻撃を続けることで相手に反撃の機会を与えなかった。

 米子北がもう一度ペースを上げたい後半の立ち上がりも、徳永は「ここからの15分で行くぞ!」と味方にギアを上げるように指示。スピーディーなポジション取りで完全にボールを支配し、試合の主導権を渡さなかった。

 後半のクーリングブレイクに入ると、山田耕介監督は「チームの士気を上げるために必要。不安もあるけど早めに投入してチームにパワーを与えてくれと伝えた」と、右ひざの負傷で本調子ではないMF根津元輝(3年)を投入。昨年も主力として組んでいた徳永、根津のダブルボランチが復活した。

「元輝、お前は攻撃に行けよ」と声をかけた徳永は「昨年ずっと組んでいて、2人だけのあうんの呼吸もあるし、隣にいてくれる信頼感もある。本調子でなくても戻ってくれたことが自分にとっても、チームにとってもプラス」と相棒の復帰を歓迎した。

 そして、チームのけん引役が最も価値を示したのが、オープンな打ち合いの様相を呈した試合の終盤だった。選手交代でパワープレー気味に押し返してきた米子北に対し、徳永は最終ラインと連係して守備で応戦。「攻めている分、リスク管理には神経を使っている。自分たちが負けるパターンは、カウンターで点を取られることだと、プレミアリーグを通して感じていた。その経験が生きた」と冷静に振り返ったが、心身ともに疲労度が増す終盤に要所を抑えるプレーは見事。相手に足下をすくわれかねない展開の試合で、前橋育英が負けなかった要因の一つは、間違いなく徳永のプレーとコーチングだ。

 山田監督も「ディフェンス能力というか、危機察知能力は、本当に助かっている。攻撃よりも、彼は守備の方がすごい。いるといないとでは、大きな差。ピンチを全部さばいてくれる」と徳永のカバーリングを高く評価した。

 試合のポイントをしっかりと抑えながら、パスワークの中心としてミスなくボールをさばける貴重な選手だ。声掛けは試合前から光っていた。前橋育英と米子北。前者の持ち味は技術とパスワーク。後者は、伝統の堅守速攻が身上だ。

 しかし、徳永はキックオフ直前に「球際の強さは、うちの伝統だ」と仲間に言い放った。球際では相手が上、などという気の持ち方は認めないと言わんばかりだった。点を取り切れなかったゲームの反省点も「一度、相手を後ろ向きで走らせる動作を作らなかったのが、ハマってしまった原因。ムードを変えるプレーを早いうちに自分ができれば良かった」と明確に持っている。

 翌日の決勝戦に向けては、2回戦で対戦予定だったが新型コロナウイルスの陽性者が出たため無念の辞退となった磐田東高(静岡)や、現地入りできていない部員の思いも背負う覚悟を語りつつ「すごい育英を作ってきた中で、まだ2回(09年インターハイ、18年高校選手権)しか優勝できていない。山田監督を優勝させたい思いがある」と恩返しを誓った。冷静かつ情熱的な主将が、チームを頂点へ導く。

(取材・文 平野貴也)
●【特設】高校総体2022

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