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[AFC U-16選手権]日本、ロスタイム被弾でイエメンに敗れる(現地レポート)

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[10/9 AFC U-16選手権グループリーグ第3戦 U-16日本 1-2 U-16イエメン ウズベキスタン]

 本来ならば日本が2勝ですでに1位通過を決めているはずだった。しかし、UAEが初戦のイエメン戦で1次予選で出場停止を受けていた選手を起用したため、1-1の結果がイエメンの3-0の勝利となり、イエメンにも1位通過の可能性が出てしまった。
 これにより、日本にとって消化試合であるはずのイエメン戦が順位決定戦となってしまい、池内豊監督はDF内田恭兵とGK田尻健を起用して体調不良の柴崎岳に代えてMF幸野志有人を入れた以外は、いつものメンバーでこの一戦に臨まなければならなかった。

 試合はイエメンの積極的なプレスに苦しむ展開となった。立ち上がりからイエメンの動きは非常にキレていた。日本の得意のパスワークを防ぐべく、FW、MF、DFの3ラインでブロックを形成。DFラインの後ろにもスイーパーを置き、縦と横に挟み込む形で強烈なプレスを仕掛け、日本の自由を奪う。さらにボールを奪うと、オーバーラップした左SBのアル・サミに繋ぐパターンで、カウンターを仕掛け、日本を苦しめた。
「相手がほぼマンツーマンではめ込んできたので、思うような展開が出来なかった」(池内監督)、「CBの後ろにスイーパーがいて、やりにくかった」(FW杉本健勇)と語ったように、まさにイエメンの術中にはまってしまった日本は、完全に中盤が間延びし、イエメンの積極的な仕掛けの前に我慢の時間が続いた。
 日本にとっては非常に難しい戦いだった。相手は明らかに動きがよく、システムもはまっている。それに対し、引き分けでもいい日本がリスクを背負って攻める必要もない。守りに徹するべきなのか、仕掛けるべきなのか、ピッチ上の選手たちに迷いが生じ、判断に狂いが出たのも苦戦した要因でもあった。それでも前半残り10分には、徐々に持ち味のパスワークが出るようになり、悪くはない流れで前半を0-0で終えた。

 後半はリスクマネジメントしながら、サイドを軸に仕掛けるという戦い方をはっきりさせたため、日本のリズムで運ぶことが出来た。日本の落ち着いた試合運びに、イエメンはロングボールが多くなり、ペースは完全に日本へ。52分にはFW宮吉拓実の仕掛けで得た右CKから、ファーサイドでDF高野光司がヘッド。GKがはじいたボールをDF内田達也が押し込んで、日本が先制する。
 しかし、直後の56分、先制点を挙げた内田達のファウルでイエメンにPKを献上してしまい、これを決められ、すぐさま同点に追いつかれてしまう。これでイエメンにさらなる勢いが生まれた。ここからは前半のハイライトを見ているような展開で、日本は再び劣勢に立たされてしまった。
 日本の攻撃も単発に終わり、落ちないイエメンの運動量の前に、試合の組み立てに最後まで苦しんだ結果、最後の最後で大きな落とし穴が待っていた。ロスタイム5分のうち半分が経過したとき、自陣でのクリアミスとそのボール処理にもたつくと、MFアル・バイダニに拾われてしまう。慌ててDF高木善朗が止めに入るが、チョップキックでかわされると、そのままGKとの1対1を冷静に蹴りこまれ、万事休す。
 痛恨のロスタイム被弾で、日本は2位通過が確定。世界の切符をかけた大一番で、今大会ナンバーワンの呼び声高いオーストラリアとぶつからなくてはならなくなった。

 タイムアップの瞬間、まるで優勝したかのように喜ぶイエメンに対し、日本の選手たちは大きくうなだれ、ピッチ上はまるで大会が終わったかのような雰囲気だった。それを見た池内監督はすぐさま選手全員を集め、「大会が終わったかのような行動をするな!下を向くな、これからだぞ!」と檄を飛ばした。
そう、まだ戦いは終わっていない。確かにショッキングな敗戦ではあるが、まだ世界の切符をかけた戦いが残っている。「敗因はチームが一つにまだなりきれていなかったこと。みんながまだチームのためにやりきれていなかったということ。この負けでもう一度気持ちを入れ替えられるチャンスをもらった」と高木が語ったように、下手に順調に勝ち進んで、自分たちの抱えている課題に気がつかないまま大一番を迎えるよりは、自分たちの甘さ、弱さを痛感することで、新たな気持ちを持って大一番を迎えたほうがいい。
 この敗戦を活かせなければ、たとえ世界への切符を掴んでも戦えるはずがない。これまで順調に来ていたからこそ、見えなかったものがあった。課題が課題と感じられなかった。それがこの試合で強烈な現実として突きつけられた。
 人は厳しい現実を突きつけられたときにこそ、本当の力が試される。まさに彼らは今、その状況にある。
 大きな可能性を秘めた若き日本代表がまた一段階段を登ることが出来るのか、それとも可能性を秘めたままで終わってしまうのか。この敗戦が池内ジャパンのターニングポイントと言えるものにするために、次の大一番・オーストラリア戦に挑まなければならない。

<写真説明>この日ゴールをあげる一方でPKも献上してしまったDF内田(中央)とDF高野らがイエメンゴール前で激しいぶつかり合いを見せた

(取材・文 安藤隆人)

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