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【特集】09年J1ニューフェイスの決意(第10回、鹿島・大迫勇也)

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 怪物はどこまでも謙虚だった。鹿島アントラーズで唯一の高卒ルーキー。チーム最年少となるFW大迫勇也(18=鹿児島城西高)は偉大な先輩たちに遠慮してか、もともとの性格か、決してビッグマウスな発言をすることはなかった。

 「自分が一番下なので、とにかく頑張るしかない」「厳しい世界だと思う」「プロではまだ通用しないと思う」。そう口々に話す超高校級ストライカーの背中は、182cmの身長よりも小さくなっていた。

 正月の全国高校選手権で新記録となる1大会10得点をマークし、一大ムーブメントを巻き起こした。しかし、本人はあくまで高校レベルでの活躍という認識なのだろう。高校とプロは違う。そう自分に戒めるように控え目に振る舞う姿に、大挙して押し寄せた報道陣が肩透かしに遭った気分になったのは確かだが、自分を見失うことなく、一歩一歩進もうという大迫なりのプロ意識でもあった。

 現状は5番目のFWだ。昨季MVPのFWマルキーニョス、日本代表FW興梠慎三というJ屈指の2トップの後ろには、元日本代表FW田代有三、FW佐々木竜太も控えている。だが、FWが4人しかいないと考えれば、ひとりでも追い抜けば、あるいは誰かが出場停止や負傷などで不在となれば、それだけでベンチ入りの可能性が出てくる。鈴木満強化部長が「チャンスは早い時期に来ると思う」と語るように、デビューの日はそう遠くはないだろう。

 問題は、そのチャンスに結果を残せるかどうかだ。鈴木強化部長は96年に富山一高から入団したFW柳沢敦(現京都)を引き合いに出し、「柳沢も1年目はちょこちょこ出ていて、4試合連続ゴールを決めた。それに匹敵する活躍をしてくれれば」と話した。元日本代表FWに並ぶ“ノルマ”からも、将来のエース候補に懸かる期待の大きさは分かる。

 準優勝に終わった選手権後、鹿島の始動に備えて自主トレを行うつもりだったが、地元・鹿児島でも取材攻勢に遭い、「いろいろありすぎて、あまりやってない」という。まずはコンディションを整えること。試合云々を語る以前の段階というのが本音か。「とにかく早くチームに慣れることが一番。しっかり体をつくりたい」と当面の課題を挙げた。

 これからも淡々と、ひょうひょうと自分の技を磨いていくのだろう。そんな大迫が「自分が鹿島のエースだ」と胸を張れるまでに成長したときこそ、日本サッカー界に待望の大型ストライカーが誕生したと言えることになるはずだ。

<写真>高校選手権で最多得点記録を塗り替えたFW大迫勇也はプロの世界でどんなプレーを見せてくれるのか

(取材・文 西山紘平)

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