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リーグVとW杯出場、川崎F・鄭の2つの目標

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 昨年リーグ優勝した鹿島アントラーズと勝ち点3差で2位だった川崎フロンターレの北朝鮮代表FW鄭大世が優勝宣言をした。東京都内で開催された「2009Jリーグキックオフカンファレンス」で鄭は川崎F選手代表として出席。21日まで行われた宮崎での2次合宿では主力組が4試合続けて白星を逃し、調整遅れを指摘されていた川崎Fはその後FWレナチーニョまで負傷するなど万全ではないが、鄭は「宮崎の出来でみんな緊張感が高まった。戦術面、コンディションともに状態は上がっている」と言う。

 昨年14得点をマークしている鄭は、自分が得点を重ねることがチームの勝利に近づくことは理解している。FWジュニーニョ、レナチーニョ、MFヴィトール・ジュニオールのブラジル人トリオとともに攻撃陣を引っ張った昨年後半戦18試合での得点は9。これは計21得点で得点王を取った鹿島のFWマルキーニョスと同じゴール数だった。今季は2月6日のV・ファーレン長崎との練習試合でゴールを決めて以来、無得点が続いているが、圧倒的なフィジカルを持つストライカーには自信がある。「マルキーニョスみたいなスピードはないけど、民族の誇り、プライドもある。得点王を取りたい」と力をこめた。
 チームは06年がリーグ戦2位、07年リーグ戦5位でナビスコ杯準優勝、そして昨年はリーグ戦で2位とあと一歩でタイトルを逃してきている。川崎F初Vには今季から背番号9を背負う新エース・鄭の活躍が欠かせない。

 川崎Fでのリーグ優勝と同時に鄭にとっては、北朝鮮代表の主力のひとりとして戦っているW杯アジア最終予選も重要な大会。4試合を終了した現在、北朝鮮代表はグループBで首位・韓国と勝ち点1差の2位。ここまで折り返し地点までの戦いを鄭は「最初(3次予選時)は(W杯出場を)目指してもいなかった。でき過ぎ」と振り返る。チームは3次予選を含めてここまで10試合でわずか1敗。そのチームではゴールよりも献身的な守備やポストプレーなどチームのためにプレーする鄭の姿が目立つ。だが、この姿勢は最終予選に入ってから意識を強くしたプレーだった。
 鄭が代表入りしたのは07年。新参者の「在日コリアン」には当初、フリーな状態ですら味方からパスが出てこなかった。「パスがこない・・・」と困惑の表情を浮かべながらプレーする鄭。試合によっては自分でボールを奪ってシュートに持ち込むしかない時もあった。相手を運動量で上回り、1点差で勝つようなサッカーが主体だった代表の中では、「勝つために」ポゼッションを増やして、自らのタッチ数とシュート本数も増やしたい鄭と明らかな意識のズレもあった。
 「(Jリーグで活躍して北朝鮮代表では)それまでは生意気な態度を取ってしまっていて、周りの選手を上から目線で見てしまっていた。(3次予選・最終戦の韓国戦では)ハーフタイムのロッカーで、監督が指示しているとなりで寝ていたり・・・。怒られて、もう(オマエは)代表に呼ばない、みたいな話にまでなった。(それまでの不満もあって)それなら呼ばれなくても思ったけど・・・」。だが、W杯出場へ欠かせない戦力だった鄭は周囲の尽力もあって、“代表追放”は免れた。
 「それで心を入れ替えた」鄭は「謙虚に」をモットーに誰よりもチームのために働くことを決意し、そのプレーで存在感をさらに増してきた。普段ならゴールにこだわる男が今は北朝鮮代表を勝たせるためだけにプレーをしている。もはや代表デビュー戦で4ゴールを決めたことも、「アジアのルーニー」という高評価を得て欧州から注目を集めたことも頭の中からは振り払ってチームのためだけにまい進している。

 鄭の評する北朝鮮代表のサッカーは「身体能力が半端ない、アジアの中では変わったサッカー」。66年のW杯を最後に世界から遠ざかっている北朝鮮のサッカーをより多くの人に見てもらうため戦う。「あと1勝したら残り引き分けでもW杯に行けると思う。1勝できるかですね」。今年の鄭には叶えなければならない2つの大きな目標がある。

(文 吉田太郎)

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