beacon

グアムが「歴史的1勝」

このエントリーをはてなブックマークに追加

[3.11 東アジアサッカー選手権2010予選大会第1戦 グアム代表 1-0 モンゴル代表 グアム・レオパレススタジアム ]

 東アジアサッカー選手権2010決勝大会の予選大会(グアム)は、大会初日の第2試合で地元・グアムと今大会の参加4チーム中、FIFA世界ランキングで最上位193位(09年2月現在)のモンゴルが対戦した(北マリアナ諸島はFIFA未加盟のために順位なし)。前半9分にFW Christopher Joseph Torres MENDIOLAの決めた1点を守ったグアムが1-0で勝利。FIFAに加盟した96年から13年目で初めてFIFA加盟国・地域との国際Aマッチ初勝利を挙げた。

 かつて清水ユースなどで指揮を執った経歴を持つ築館範男監督率いるグアムが“歴史的1勝”をマークした。FIFA未加盟の北マリアナ諸島には公式戦で勝利した実績をもつグアムだが、FIFA加盟国・地域に対しては、96年のFIFA加盟後初の国際Aマッチ・韓国戦(96年8月)に0-9で敗れてから昨年4月にパキスタンに2-9で敗れるまで勝利なし。それでもこの日は東アジアサッカー連盟会長の小倉純二氏が「いいゲームだった。グアムにはこれまで見られなかったほどのファイティングスピリットがあった」と絶賛した“熱い”戦いぶりで、過去5戦全敗の“格上”モンゴルから「金星」をもぎ取った。

 グアムは前半9分、敵陣右サイドでMENDIOLAとFW Jason Ryan CUNLIFFEが鮮やかなワンツーパス。抜け出したMENDIOLAが強烈な右足シュートをニアサイド側のゴールへと突き刺した。右手人差し指を高々と掲げてダッシュするMENDIOLAの先制弾に、数百人訪れていた会場のボルテージは一気にヒートアップした。モンゴルは11分、DF Tserenjav ENKHJARGALがゴールまで約30m以上の距離からクロスバー直撃の右足ミドルを放ったが、相手の厳しい守備の前に試合の流れを変えることができない。逆にホームのサポーターの声援に後押しされたグアムは12分、相手GKのミスパスを拾ったCUNLIFFEが左足ループシュートを放ち、29分にはCUNLIFFEの左クロスにMENDIOLAが頭から飛び込むなど、モンゴル守備陣を再三にわたって脅かしていった。

 セットプレー以外のチャンスをほとんど作れなかったモンゴルだったが、後半は勝利の経験がないためか、冷静さを失って単純なクリアを繰り返すしかできなくなったグアムを敵陣に押し込んで波状攻撃を展開。17分に右SB・Selenge ODKHUUのクロスをFW Altankhuyag MURUNが右足ボレーで狙うなど次々とシュートを放っていく。そして26分にはゴール正面、ペナルティ・エリアやや外から放ったDF Bayasgalan GARIDMAGNAIの左足FKがゴール左隅を鋭く捉えた。だが、このシュートをグアムのGK Simon Maluwelmeng BRETTがワンハンドでゴールからかき出すビッグセーブ。この日好セーブを連発していた守護神がチームを救うと、「今日のMVP」と築館監督が絶賛したボストン大生のCB・Dominic Leon Guerrero SCOTTが相手の決定的なチャンスをことごとくストップするなど1点を死守した。

 選手の初勝利への緊張がスタンドの応援団にまで伝染してか、試合終盤は声援が少なくなり、会場に訪れたグアムサッカー関係者全てが祈るようなしぐさで“その瞬間”を待っていたが、約4分間のロスタイム後に鳴った試合終了の笛とともにピッチ、スタンドともに喜びを大爆発。試合後、祝福の握手攻めを受けた築館監督の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
 この勝利は日本とグアムが協力して行ってきた取り組みの成果でもある。日本サッカー協会はアジア支援プロジェクトの一環として03年から市原(現千葉)で指揮を執った経歴を持つ神戸清雄氏(現北マリアナ代表監督)を、05年からは築館監督を派遣し選手とコーチングスタッフの育成などに協力してきた。普及活動は徐々に進行していき、週末には約1000人のサッカー少年をグアムサッカー協会グラウンドに集めて練習会を行うなど、現在は島をあげての活発な取り組みが行われるようになった。また、今大会へ向けては現U-17日本代表のGKコーチ柳楽雅幸氏を臨時コーチとして派遣。柳楽GKコーチの指導を受けたBRETTが好セーブを連発したことも見逃すことはできない。
 加えて、これまでのグアムでは高校を卒業し、遠く離れたアメリカ本土の大学に進学した選手のほとんどが代表から引退していたが、好守を見せたSCOTTや決勝弾のMENDIOLAらこの日の先発6人がこの大会のために本土からチームへ参加。選手たちのサッカーへの姿勢もこの数年間で大きく変化した。現グアムU-13コーチの山本哲男氏らも含めた日本人指導者たちとグアムサッカー協会が「継続」して行ってきた取り組みが実っての勝利。就任5年目で悲願の初勝利を挙げた築館監督は「やっと勝つことができました。これはみんなで継続して取り組んできた成果。継続は力なりというけれども、この歳になって改めて実感するようになった。(リードを守るという)これまで経験したことのない時間を守って勝ちきったことは、今後にもつながる大きな1勝だったと思う」と笑顔が弾けた。
 グアムは13日に北マリアナ諸島、15日にマカオと戦い、地元でのタイトル奪取を目指す。

<写真>国際Aマッチ初勝利をマークしたグアム代表イレブン
(取材・文 吉田太郎)

TOP